いろいろな式にて受付で芳名帳を見ると、一瞬ギョッとしてしまう。
最近ではサインペンが用意されているから多少気が楽になったが、筆しか置いてないと冷や汗ものだ。
筆で字を書くのが、すさまじく下手なのだ。
受付の人がこちらの名前を確認するために、じっと手元を見ていると思うと、手はますますこわばってくる。
そしてその結果は、ただでさえ下手なうえに緊張が加わり、ぶるぶると震えた情けない筆文字が、みっともなく並ぶことになる。
受付で字が下手そうな人を狙って後ろに並び、自分の悪筆をめだたせないように努力しているのだが、たまに予想が外れて自ら墓穴を掘ってしまうこともある。
しかしこれでも小学校の習字の成績はワリと良かった。
先生が「字がうまいとか、下手とか考えないで、子供は大きく字を書けばいいんだ」
といったので、紙からはみ出すような字を書いていた。
ところがのちに先生が変わったとたん、ばかでかい野蛮な字といわれ、いっきに評価が下がった。
でもでかい字を書くのが好きだったので、先生に何度注意されても無視してしまった。
その報いか、今になってこのざまだ。
会が終わって受付の前を通るとき、芳名帳に残した自分の墨団子のような字を思い出すと、人の目を盗んで芳名帳をかっぱらって帰りたくなるのだった。