日本の農業にはもう未来はないのかと思っていたら、新しいタイプの酪農家が誕生していた!
最近、農業にしても、食の安全にしても明るい話題がないと暗澹としていたら、意外な話題を目にした。
新聞販売店は集金時にサービスで美術展覧会の招待券をくれたりするのだが、それは月一の店長会議の時に、新聞社が主催する展覧会のチケットを安値で卸している、と言うのは以前書いたと思う。しかし新聞店もこのところ懐具合が厳しいのか、チケットが入手できなかったと言っては、代わりに雑誌『日経マネー』(定価650円)を持って来る。せっかくだからと読んでみた。
その中で、お国訛りの素朴な語り口をウリにしているタレント、田中義剛へのインタビュー記事が一番面白かった。最近あまりテレビで見かけないと思ったら、すっかり酪農家として成功しているではないか。このところ酪農業全体が、海外からの輸入頼みの飼料の価格高騰で青色吐息の状態であるのに対し、花畑牧場代表取締役社長、田中義剛は、日本の農業を牛耳っている「JA(農協)」や北海道に君臨する「ほくれん」と距離を置き(←思い切ったことをしたものだなあと思う。軋轢や困難はなかったのだろうか?新規事業者であるがゆえに余計なしがらみもなかったのが幸いしたのか?それともインタビューでは敢えて触れられていないだけなのか?)、独自路線で驚異の利益率を上げ、大成功を納めているらしい。その逆転の発想には感心した。
まず、大量生産、大量消費の近代資本主義とは逆を行く、少量生産、少量販売で、カチョカヴァロというチーズをヒットさせ、最近では独自ブランドの生キャラメルを大ヒットさせている。生キャラメルは1箱12粒で850円とかなりの高値だが、小さな鍋に作業員ひとりが張り付き、45分間煮詰めて約40個を作るのがやっとだと言う。すべて手作業で作られるこの生キャラメルは、基本的に新千歳空港の直営店でしか買えない。希少価値を高めた戦略は大当たりして北海道土産として人気を博し、全国的に知名度を上げた今は、ネットでの限定販売や全国各地のデパートでの北海道物産展でもさらに売り上げを伸ばしているらしい。「高いコストをかけて東京に店を持たなくていいんです。道内の人は850円のキャラメルは買わないですから、道内の直営店を増やす必要もありません」~なるほど!
「牧場の今期売上高は50億円の見込み、最終利益率は15%です」
「自分で作って、自分で管理して、自分の価格で売るからこその利益率15%。今は20%を目指しています。」
さらに養豚業でも彼は注目を浴びているらしい。通常、養豚業者は配合飼料をコンピュータで与え、少ないスタッフで大量に育てている。しかし花畑牧場では、チーズを作る過程で出るホエーという乳清の絞り汁と、近所の豆腐店から貰った十勝大豆100%のおからを豚に与えていると言う。「ホエーは乳酸菌たっぷりで腸を健康にするから豚に飲ませよう」「おからは豆乳たっぷりで栄養満点だが、腐りやすく保存がきかないから豚に食べさせよう」と言う発想。未使用だった(以前は棄てていた?)この二つの資源を活用した結果、「肉質が柔らかく、脂もすごく甘い豚ができた」
豚の相場は一頭3万5000~3万6000円。それに対して花畑牧場の豚は、”手作りで安心”をセールスポイントに「花畑牧場のホエー豚」というブランド名で、1頭15~20万円の高値で取引きされると言う。
さらに近隣には総工費10億円をかけたオートメーション完備の豚舎があるのに対し、花畑牧場の豚舎は3000万円で建てたビニールハウス。床にはバイオベッドと言っておがくずを敷いている。設備投資のコストダウンをはかりつつ、資源再利用のエコフィードと人手を惜しまないことで高級ブランド豚を生み出し、利益率はなんと30%である?!
【感想】
経済誌なので、どうしても事業としての成功が大きく取り上げられがちだが、消費者の視点で見れば、結果的に限りある資源を無駄にせず、安全な食品を供給している田中義剛の経営姿勢は評価に値すると思う。また、村の人口の10分の1を花畑牧場で雇用していると言うから、社会基盤の支え手としても貴重な存在だ。ただ先駆者メリットとは言え、養豚の利益率30%はいくら何でも儲け過ぎだろう。何れ競合他社が出てくれば、競争原理が働いて、もう少しリーズナブルな価格で、安全でおいしい豚肉が消費者のもとに届くことになるのだろうか?そうなったらなったで、田中義剛は既に新たな方向を見据えて、新規事業を開拓しているような気がする。長期的視野で経営を展望するなど、彼がこれほどまでに経営者として優れているとは想像だにしなかった。正直、驚いている。
(記事の出典は『日経マネー』2008年10月号、pp84-86。はなこが要約し再構成)
【追記 2008.09.22 22:00】
生キャラメルって、実際にもの凄い人気なんですね。先日横浜そごうで開かれた北海道物産展では整理券配布で午前中には完売?食べた人の話では、味がとにかく素晴らしいらしい。今日午後のニュースによれば、最近の政府調査で6割の人が前年より生活が苦しくなったと答えたらしいですが、それでも一方で12個850円の生キャラメルに殺到する人々がいるわけです。やっぱり貧富の差、拡大なのかな?
最近、農業にしても、食の安全にしても明るい話題がないと暗澹としていたら、意外な話題を目にした。
新聞販売店は集金時にサービスで美術展覧会の招待券をくれたりするのだが、それは月一の店長会議の時に、新聞社が主催する展覧会のチケットを安値で卸している、と言うのは以前書いたと思う。しかし新聞店もこのところ懐具合が厳しいのか、チケットが入手できなかったと言っては、代わりに雑誌『日経マネー』(定価650円)を持って来る。せっかくだからと読んでみた。
その中で、お国訛りの素朴な語り口をウリにしているタレント、田中義剛へのインタビュー記事が一番面白かった。最近あまりテレビで見かけないと思ったら、すっかり酪農家として成功しているではないか。このところ酪農業全体が、海外からの輸入頼みの飼料の価格高騰で青色吐息の状態であるのに対し、花畑牧場代表取締役社長、田中義剛は、日本の農業を牛耳っている「JA(農協)」や北海道に君臨する「ほくれん」と距離を置き(←思い切ったことをしたものだなあと思う。軋轢や困難はなかったのだろうか?新規事業者であるがゆえに余計なしがらみもなかったのが幸いしたのか?それともインタビューでは敢えて触れられていないだけなのか?)、独自路線で驚異の利益率を上げ、大成功を納めているらしい。その逆転の発想には感心した。
まず、大量生産、大量消費の近代資本主義とは逆を行く、少量生産、少量販売で、カチョカヴァロというチーズをヒットさせ、最近では独自ブランドの生キャラメルを大ヒットさせている。生キャラメルは1箱12粒で850円とかなりの高値だが、小さな鍋に作業員ひとりが張り付き、45分間煮詰めて約40個を作るのがやっとだと言う。すべて手作業で作られるこの生キャラメルは、基本的に新千歳空港の直営店でしか買えない。希少価値を高めた戦略は大当たりして北海道土産として人気を博し、全国的に知名度を上げた今は、ネットでの限定販売や全国各地のデパートでの北海道物産展でもさらに売り上げを伸ばしているらしい。「高いコストをかけて東京に店を持たなくていいんです。道内の人は850円のキャラメルは買わないですから、道内の直営店を増やす必要もありません」~なるほど!
「牧場の今期売上高は50億円の見込み、最終利益率は15%です」
「自分で作って、自分で管理して、自分の価格で売るからこその利益率15%。今は20%を目指しています。」
さらに養豚業でも彼は注目を浴びているらしい。通常、養豚業者は配合飼料をコンピュータで与え、少ないスタッフで大量に育てている。しかし花畑牧場では、チーズを作る過程で出るホエーという乳清の絞り汁と、近所の豆腐店から貰った十勝大豆100%のおからを豚に与えていると言う。「ホエーは乳酸菌たっぷりで腸を健康にするから豚に飲ませよう」「おからは豆乳たっぷりで栄養満点だが、腐りやすく保存がきかないから豚に食べさせよう」と言う発想。未使用だった(以前は棄てていた?)この二つの資源を活用した結果、「肉質が柔らかく、脂もすごく甘い豚ができた」
豚の相場は一頭3万5000~3万6000円。それに対して花畑牧場の豚は、”手作りで安心”をセールスポイントに「花畑牧場のホエー豚」というブランド名で、1頭15~20万円の高値で取引きされると言う。
さらに近隣には総工費10億円をかけたオートメーション完備の豚舎があるのに対し、花畑牧場の豚舎は3000万円で建てたビニールハウス。床にはバイオベッドと言っておがくずを敷いている。設備投資のコストダウンをはかりつつ、資源再利用のエコフィードと人手を惜しまないことで高級ブランド豚を生み出し、利益率はなんと30%である?!
【感想】
経済誌なので、どうしても事業としての成功が大きく取り上げられがちだが、消費者の視点で見れば、結果的に限りある資源を無駄にせず、安全な食品を供給している田中義剛の経営姿勢は評価に値すると思う。また、村の人口の10分の1を花畑牧場で雇用していると言うから、社会基盤の支え手としても貴重な存在だ。ただ先駆者メリットとは言え、養豚の利益率30%はいくら何でも儲け過ぎだろう。何れ競合他社が出てくれば、競争原理が働いて、もう少しリーズナブルな価格で、安全でおいしい豚肉が消費者のもとに届くことになるのだろうか?そうなったらなったで、田中義剛は既に新たな方向を見据えて、新規事業を開拓しているような気がする。長期的視野で経営を展望するなど、彼がこれほどまでに経営者として優れているとは想像だにしなかった。正直、驚いている。
(記事の出典は『日経マネー』2008年10月号、pp84-86。はなこが要約し再構成)
【追記 2008.09.22 22:00】
生キャラメルって、実際にもの凄い人気なんですね。先日横浜そごうで開かれた北海道物産展では整理券配布で午前中には完売?食べた人の話では、味がとにかく素晴らしいらしい。今日午後のニュースによれば、最近の政府調査で6割の人が前年より生活が苦しくなったと答えたらしいですが、それでも一方で12個850円の生キャラメルに殺到する人々がいるわけです。やっぱり貧富の差、拡大なのかな?