はなこのアンテナ@無知の知

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文化講演会『フェルメールとオランダ風俗画』聴講記録(3)

2007年11月22日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)

 オランダ風俗画が当時の社会的倫理観を反映したものとは言え、描かれている人物像に<メイド>が多いのはなぜか?

ヤン・ステーン《オウムに餌をやる女、バックギャモンをする二人の男と他の人物たち》
 
 例えばヤン・ステーンの描くメイドと思しき女性像には、胸の谷間も露わに男性を誘うような雰囲気を湛えたものもある。

 また、ヘーラルト・ダウの《タマネギを刻む女》で描かれている<タマネギ>は、当時「催淫剤」として認知されていた。

 しばしば風俗画に登場する<鳥かご>は「処女性」(大抵扉が開いた空っぽの状態→淫靡)、<鶏>は「つがい→男女関係」、<水差し>は前述の「浄化」の他に「女性の子宮」の意味も持つなど、数々のセクシュアルなイメージが画中に描き込まれている。

 特に<若いメイド像>は、家庭に「悪徳を持ち込む女」の表象として描かれ、彼女達は「社会不安のスケープ・ゴート的な役割」を押しつけられていたと推察される。

 酒宴での男女の乱れた様や、散らかった室内、愚かさの象徴である猫や鸚鵡に餌をやる(→無駄な行為)など、反道徳的な行為を描くことによって、見る側に自戒・自制を求める「教訓画」的意味合いを持っていたオランダの風俗画であるが、”厨房の女たち”に込められていたイメージは極めて作為的と言える(当時のオランダでは同様にヴァニタス画と呼ばれる静物画のジャンルも隆盛を極めていた⇒オランダ市民は、そうした絵画の寓意的表現の謎解きを知的遊戯として楽しんでいた)

◆【ヴァニタス画作例】(ヘーラルト・ダウ《シャボン玉を吹く少年と静物》国立西洋美術館所蔵)

5.17世紀リヴァイヴァル 

 17世紀に繁栄を欲しいままにしたオランダであったが、1799年には海運王国オランダの象徴でもあった「東インド会社」が解散し国力は急速に減退する。さらに1810年にはフランス・ナポレオンの支配下に置かれ、1814年にネーデルラント王国が成立するまで不遇の時を送ることになるのである。

 19世紀当時の芸術界では”17世紀The Golden Ageへの懐古”とも言うべき、17世紀オランダ風俗画を模倣した風俗画が数多く描かれた。The Golden Ageの終焉と共に忘れ去られたかに見えたフェルメールは、実はこうした模倣作品の中に、”構図”や”モチーフ(手紙を読む女性像など)”、”明暗表現”の借用という形で秘かに息づいていた。このことからも、ことオランダ美術界において彼は一度として忘れ去られたことはなく、ずっと高い評価を受けて来たと言えるだろう。

『フェルメールとオランダ風俗画』展公式サイト
展覧会情報(東京新聞)

◆絵画を読み解く面白さの指南書?としてオススメ:
 鈴木杜幾子『フランス近代絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』(講談社選書メチエ,1995) 

【講演会の感想】
 小林頼子先生は、先頃亡くなられた若桑みどり先生と並んで、私にとっては憧れの研究者である。今回、講演会記録を書くに当たって先生の著書『フェルメールの世界 17世紀オランダ風俗画家の軌跡』を久しぶりに繙いたら、沢山の箇所に棒線が引かれていた。かつての自分がいかに熱心に読み込んだかが忍ばれた(笑)。講演会の内容そのものは、自分にとっては”復習”のようなものだが、間近にそのお姿を拝見しながらその肉声も拝聴するというのはファンとして格別の感慨がある。明瞭な発声と滑舌、論旨明快な解説はパフォーマンスとして優れていて、先生が研究者としてだけでなく、教育者としても優れた方であることが十分察せられるもので、曲がりなりにも人前に立って話をする機会のある自分にとっても大変参考になる講演会であった。大学時代から20数年、幾多の講演会を聴いて来たが、これだけの講演者はそうそう巡り会えるものではないと思う。今回の機会を与えられたことに多謝♪

★お断り:以上の講演会記録は、聴講時のメモを元に、筆者はなこが書き起こしたものです。それ故、筆者の判断で割愛した部分もありますし、聞き漏らした内容もあると思われます。  



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