はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

エマニュエル・トッド氏の言葉

2016年02月02日 | はなこ的考察―良いこと探し
 年始早々、バスの中で見知らぬ若い男性に暴言を浴びせられた。

 理由は分からないが、バスの出入り口付近に座っていた男性がわざわざ振り返って、私に向かって怒鳴り声を上げた。その直前にバスの支払いを巡って運転手とちょっとしたやりとりがあり、私は補足説明のつもりで運転手に向かって話しかけていたのだが、その時、その若い男性と目が合い、彼が何やら怒鳴っているように見えた。しかし若者の滑舌が悪かったせいか、何と言っているのか聞き取れなかった。と言うより、私に続いて何人もの人がバスに乗り込んでいる最中だったので、私に向かっての発言なのかも、その時は正直、定かではなかった。

 しかし、その男性がバスを降りる時にも、私を睨み付けて(その時も視線がぶつかった)「くそばばあ」と吐き捨てるのが、今度はハッキリと聞き取れたので、たぶん私に対しての言葉だったのだろう?しかし、なぜ、あの見知らぬ男性が初対面の私に暴言を吐いたのか、未だに分からない。彼はバスの先頭の座席に腰かけていたので、乗車時に私の手荷物が彼に誤ってぶつかりでもしたのか?それとも運転手に言ったことを、自分に向けられた言葉だと勘違いしたのか(しかし、別に人を怒らせるような変なことは言っていない)?或は、単に私の声が大き過ぎてうるさかったのだろうか?

 とにかくその時は、初対面の人間に対して瞬間的に、あれだけの憎悪感情を露わにする彼のメンタリティがちょっと怖かった。一方、すぐ近くにいたはずの夫は、その一部始終に全然気づいていなかった(普段から仙人然として、周囲の動静には無関心な人なので)

 その時は休暇で戻って来ている息子が家にいたので、息子にその時の経緯を話してみた。息子はこともなげに、「お母さんは知らないかもしれないけどさ、世の中にはすれ違いざまに、知らない人に向かって、心の中で"くそばばあ"とか"くそじじい"って悪態ついている人間がいるんだよ。おじさん、おばさんの存在そのものに嫌悪感を抱いているの」と言った。「え?どうして?」と驚く私に「なんか存在そのものが腹立たしいらしいよ。つまり、世の中にはいろいろな人間がいるってことさ。もちろん、僕は違うけどね。」と講釈した。


 それから何日か過ぎて、さまざまな分野の専門家をコメンテーターに揃えて、さまざまな分野の最新情報を伝えるテレビのバラエティ番組を見ていたら、心理学の専門家が「社会に一定割合いると見られるサイコパスと呼ばれる社会的病質者は、ひとりで妄想に妄想を重ねて、怒りを募らせる傾向がある」旨の話をしていた。

 別に件の若者がサイコパスだとは言わないが、あれ以来、人が抱く怒りの感情<怒りの沸点温度も、何にカチンと来るのかも人それぞれで、他人には知りようもないから怖いhekomi>について気になっていたので、人知れず怒りを溜め込み、その怒りが爆発寸前の人間が身近にもいるのかもしれないと、ふと思った。その人間の怒りの爆発の瞬間にたまたま居合わせようものなら、どんな被害を受けるか分かったものでない。時々発生する理不尽な無差別殺人が、正にそうなのではないか?


 昨日、深夜のニュース番組「ニュース23」で、フランスの人口歴史学者エマニュエル・トッド氏(64)が、キャスターらによるインタビューに答えていた。

 番組での紹介によれば、氏は「家族システム」や「人口動態」に着目した分析で知られる気鋭の人口歴史学者で、1976年に初めての著書『最後の転落』でソ連崩壊を、2002年の『帝国以後』ではアメリカの衰退を予言し、そして近年の著書『文明の接近』ではアラブの民主化をいち早く指摘したことで知られた人物らしい。最近、書店の店頭で、氏の著書「シャルリとは誰か?」(文春新書)を見かけて、氏のことが気になっていたこともあり、その話に聞き入った。以下は「ニュース23」より。

 最新著『シャルリとは誰か?』では、昨年未曾有のテロに見舞われた母国フランスを痛烈に批判していると言う。

現在の状況
「現在、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの先進国は危機的状態にある。」
「今の傾向として、『テロは中東から、先進国の外から来ているものだ』と考えられがちだが、第一に重要なことはテロの問題は先進国内部から生まれていると理解することだ。」
「もちろんイスラム国は危険だし、警戒すべきだが、むしろ先進国の社会がうまく機能していない。国内の問題を分析する必要がある」

シャルリエブド事件
「(フランスにおける)大規模なデモは社会的に重要な出来事だったが、(これには)嘘がある。フランスの理念である『自由』『表現の自由』を守ると訴えていたが、この事件(シャルリエブド襲撃事件)でフランスの自由は脅かされていない。シャルリエブドは非常に質の悪い小さな新聞で、『イスラム嫌い』の風刺画に特化した新聞に過ぎない。
「イスラム教がフランスでは少数派で、しかも社会的に弱者であるとわかっていながら風刺するのは"表現の自由の権利"なのだろうか?あのデモには嘘の側面があり、"イスラム嫌い"の表れなのだ。」

不平等の拡大
不平等の拡大は世界的な問題。先進国共通の問題だ。」
「その原因は教育の進展の中にある。フランス、アメリカ、日本で識字率が上がり、人々に平等な初等教育が徹底された。」
「(かつて)高等教育を受ける人は殆どいなかった。その後、各国で中等・高等教育が急速に広まり、人々は『再階層化』された。子供の成功は『教育のレベル』によって決まるようになった。」
「つまり(社会は)不平等を前提に物事を考えるようになった。」

EUの今後
(氏の第4の予言→)ヨーロッパの今後20年間はEUの分散・分解の歴史になるだろう。ヨーロッパ(EU)は機能しなくなっているが、『ユーロ』は存在している。」
「私が恐れていることは、こうした状況で『移民・難民の問題』『イスラムの問題』が、ヨーロッパの指導者らに利用されるということだ。」
「フランスについて言えば、『移民とイスラム』の問題が本来あるべき政策の『代替物』として使われるのではないか?」
「これはハンチントンの言う『文明の衝突』ではなく、西欧社会の麻痺の状態だ。自らの政策の失敗に責任を取らない指導者の麻痺状態。彼ら(指導者)は本来の問題を直視せず、『イスラムの問題』としてすり替え、逃げている。それはもちろん文明の衝突ではないが、非常に非常に危険だ。」
「このような現象は反ユダヤ主義が高まった時期に見られたものだ。ヨーロッパの歴史における最も暗い時代を思い起こさせる。」

打開策
「先進国が危機から脱する出口が見えない状況は、リーダーが凡庸というだけでなく、社会の中間層・中核を成す人々の、自分さえ良ければいいという"エゴイスム"、自己満足の強い"ナルシズム"から生まれているそこに問題がある。」
「この状況を本当に打開するには、今さらのように『善き人生とはどういうものか』という根本的で倫理的な問題について考えるべき。」
「そして各国があるべき姿を模索して行かなければならない。」

日本が進むべき道
「日本の最高の長所は日本の問題点であると言えるだろう。日本の問題は(長所でもある)完璧を求めることに固執しすぎることだと思う。」
「日本が出生率を上げるために、女性のより自由な地位を認めるためには、不完璧さ、無秩序さを受け入れるということを学ぶべきだ。」
「子供を持つこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは、無秩序をもたらす。日本は最低限の無秩序を受け入れることを学ぶべきだと思う。」

 
 エマニュエル・トッド氏の言葉は、現在の自分の心に強烈に響いた(不平等の拡大の項は、著書を読んでみないことには、その真意が測りかねるけれども)

 「エゴイズムやナルシズムは捨てるべし」「善き人生とはどういうものかについて、今一度真剣に考えるべし」は、今年早々の"頂門の一針"になりそうだ。平たく言えば、「袖振り合うも他生の縁」で、出会う人には出来るだけ穏やかに友好的に接し、助けの必要な人には躊躇うことなく手を差し伸べること。社会を形作るひとりの人間として、より良い社会を築くために、自分はどうあるべきか今一度ちゃんと考えること!

 新著の『シャルリとは誰か』、読んでみようかな?


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