はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

(38)試写会に行ってきました…(ネタバレ注意!)

2007年09月29日 | 映画(2007-08年公開)
 試写会に招待していただいて言うのも何ですが、先日見た映画はわたくし的には今ひとつでした。何でも新聞連載小説の映画化らしく、主演俳優らと共に原作者も舞台上に登場(しかし完成披露試写会にしては珍しく監督の姿はなし)。上映が終わって帰る際には、その原作者自ら出口付近に立ち、知り合いと思しき業界関係者らと握手しながら、来場の感謝を述べていました。

 原作者の今回の映画への思い入れの深さは、その振る舞いから十分窺える。我が子同然の小説が映画という形で”成長”したことへの喜びを隠しきれないのだろう。でもなあ…、この作品(小説)って作者のマスターベーション以外の何ものでもない。映画後半で男性のすすり泣く声も後方から聞こえてきたけど、男性の側からすればそれほどまでに主人公に感情移入できるものなのだろうか?

 女である私から見たら、物語の展開は”笑える位男性本位”の”ご都合主義”にしか見えない。大手不動産会社の管理職として仕事をバリバリこなし、瀟洒な一戸建てに住み、美しい妻と一男一女に恵まれた上に、若く美しい愛人までいる。愛人は昔のようなベッタリ依存型ではなく、自立したキャリア女性だから、お金もかからない。同期入社と思しき同僚もライバルというより良き理解者である。そもそも肺ガンになったのは終始タバコを手放さないチェーン・スモーキングが原因と思われる。自業自得である。信じられないのは肺がやられてしばしば酷い咳と呼吸困難に襲われながらも、主人公がタバコを最後まで手放さないことである。一緒に映画を見た元医療関係者の友人もこれには首を傾げていた。「リアリティがない」と。これも主人公の言う「生きること、死ぬまで生き続けること」のひとつなのか?

 主演の役所広司は最終的には10㎏の減量までして、末期の肺ガンで余命半年と宣告された主人公を見事に演じきった。相変わらず達者で安定感のある演技だ。さすが日本を代表する演技派俳優だと思う。その息子・娘役の若手俳優の演技も初々しくて好感が持てる。

 しかし、20年ぶりの映画出演が話題になっている歌手兼女優はどうだろう?今回の物語の設定上、劇中の彼女はあまりにも美し過ぎた。完璧なファッション、艶やかなロングヘア。その表情にはやつれも疲れも殆どない。日々衰え行く夫の看病で、肉体的にも精神的にもキツイ状況にあって、果たして、その美貌を保ち得ることができるものなのだろうか?既出の元医療関係者である友人は、仕事柄多くの患者の家族を見て来ている。その彼女曰く「あり得ない」と。

 女優は今回の妻役を演じるに当たって、患者家族に関するリサーチなど、役作りをきちんと行ったのだろうか?あまりにも”話題作りの為の配役”に見えて、彼女の起用は物語のリアリティを著しく損ねていると思う。彼女の立派な舞台挨拶のスピーチも映画を見終わった後には空疎なものに思えて来た。しかも最後の最後に夫の裏切りを知ってもなお、美しい妻は夫を恋慕う。もし、これが仮に原作通りの、原作の主旨に忠実なヒロイン像だとすれば、これは作者の幻想、願望に違いない。「僕は君を裏切って愛人まで作っちゃったけど、僕のこと、許してね。どうか耳元で”愛している”と言ってくれ」―私だったら絶対許さないけどな、こんなオトコ!

 愚の骨頂、ここに極まれり―と思わず引いてしまったのは、兄に若い愛人への分骨を頼むシーン。まだ未来あるうら若き?(30代前半と思われ…)女性に遺灰をプレゼントするなんて、オトコの自己満足以外のなにものでもないし、受け取る女性にしてみれば大迷惑な話だと思う。井川遥演じるキャリア女性は、どう見ても過去を引き摺るような女性には見えない。しっかり前を向いて歩き続ける女性だろう。こんなに自己陶酔に彩られた物語に、世の男性は、会場ですすり泣いた男性のように感情移入できるものなのだろうか?もしかして、泣いていた男性は自身に心当たりでもあるのだろうか?

 とにかく、物語を貫く主人公(作者?)の自己愛の強さと深さに、私はびっくらこいたのでした。原作者は時代のトレンドを巧みに掴んで、これまで大きな挫折を味わうこともなく来た人なのでしょうか?けっして悪い人ではないと思いますが、彼が描く人物像はおしなべて底が浅いですね。人生ってこんなに単純でキレイなものではないはずです。その意味で彼が、同じく作詞家として偉大な足跡を残し、珠玉の小説を遺した阿久悠氏を越えることは難しいかもしれません(彼自身は自分以外の”誰か”に憧れるとか、”誰か”のようになりたい、とは更々思っていないようですが)。

現実にはこんな生き方もある~命の出前講演を続ける渡部成俊氏

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