はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

(30)ラースと、その彼女(原題:LARS AND THE REAL GIRL,米)

2008年12月20日 | 映画(2007-08年公開)


愛すべきラースの成長物語

母屋に暮らす兄夫婦は、ガレージを改装して作った離れにひとり暮らす弟ラースのことが気がかりでならない。30近くにもなって女性との浮いた噂ひとつなく、自宅と会社、或いは自宅と教会を往復するだけの毎日なのである。特に義姉のカリンは身重の体で、彼のことを本当の弟のように気遣うのだった。兄のガスはガスで、過去の負い目もあって、今ひとつ弟に本音をぶつけることが出来ない。

ラースはカリンが食事に誘っても気乗りしない様子で、しつこく食い下がると黙り込んでしまう。相手が誰であろうと一定の距離を置き、彼の心に踏み込もうとしようものなら、沈黙で拒んでしまうのだった。

そんな彼がある日、珍しく自分から兄夫婦の家を訪れた。遠い国からネットを通じて知り合った女性が彼を訪ねた来たのだが、自分の家に泊めることは憚られるので、兄夫婦の家に泊めて欲しいと言うのである。ついに弟にも春が巡って来たかと喜んだのも束の間、彼が連れて来たのは等身大のリアル・ドール!兄夫婦の驚きと戸惑いにはお構いなく、ラースは”ブラジル生まれの、ブラジル人とデンマーク人のハーフ”という彼女、ビアンカに楽しげに話しかけるのである。彼の中ではビアンカとの会話は成立しているらしいが、兄夫婦には彼の独り芝居にしか見えない。このところ弟は様子がおかしかったが、とうとう…大変だ!そうだ、バーマン医師に相談しよう!

絵本の読み聞かせをするビアンカ 

米国中西部の小さな街で、街中を巻き込んでのラースとビアンカの恋物語。彼とビアンカを取り巻く、兄夫婦を始め、同僚、主治医、周囲の人々の眼差しが暖かい。ラースを愛すればこその、街の人々のビアンカへの処遇。ハリウッド映画にありがちな説明過多でないのも良い。さりげなく登場人物の台詞の端々に込められた断片情報から、徐々にラースの人となりが、明らかになるのだ。それにしても写真のビアンカ、遠目に見れば、何の違和感もない。本当に生きているみたいだ。このリアル・ドールなるもの、ネット通販でお好みの物が入手できるらしいが、ビアンカはアンジェリーナ・ジョリーに激似(笑)。ぽってりとした唇は”セクシー美女”の代名詞?!

ラースはけっして人嫌いなんかじゃない。彼の出生に纏わるトラウマと、その後の生い立ちから、他人とうまく関われないだけなんだと思う。人は幼い頃から段階を踏んで、自分以外の人間との関わり方を学んで行くものだろうに、そのプロセスが、諸事情から彼にはスッポリと抜けていただけ。彼はビアンカとの対話を通して~結局、それは自分自身との対話だったのだろうか?~初めて、そのプロセスを踏むことができたのではないだろうか?その意味で、この作品は彼の内的な成長物語なんだと思う。劇中、兄に「いつ大人になったの?」と質問するラース。その質問は主治医バーマン医師の指導に従っただけのことかもしれないが、この作品の核心に触れた台詞のように思える。

リアル・ドールに恋する大人の男、という一見奇異な出来事で始まったこの物語は、ひとりの人間の成長物語として至極真っ当な結末?へと至り、見る者をおおいに納得させ、そしてその心に暖かな灯りをともす。ラースとビアンカの恋は果たしてどうなったのか?それは映画を見てのお楽しみ!すごく素敵な作品だ。お薦めです。(後日、出演者等について加筆の予定)

『ラースと、その彼女』公式サイト
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