はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

今のところ老化で一番辛いのは眼の老化

2022年06月18日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)

いつだったか、昼時の混雑するレストランの外で順番待ちをしていると、隣の席の80代と思しき女性が眼鏡なしで文庫本を読んでおられたのでちょっと驚いた。

後でよくよく考えてみたら、彼女は白内障の手術を受けて、眼球に人工レンズを装着していたのかもしれない。

そのことに気付けたのは、小学生の頃からド近眼だったと言う夫が60歳で白内障の手術を受け、眼の位置から30cmに焦点を合わせた人工レンズを眼球に装着したおかげで、約50年ぶりに眼鏡なしで読書を楽しめるようになったからか。

私も年に一度の健康診断で目の検査を受けているが、哀しいかな、数年前から白内障が徐々に進行していると医師に指摘されている。そのせいもあってか、最近炎天下では日差しが眩しくて仕方がないし、視力が落ちてとにかくモノが見辛い。

元より老眼が進んでいるせいで、読書やスマホを見るにも老眼鏡が欠かせないが、それ以上に困っているのが美術館で、眼鏡をかけても作品の横に据えられているキャプションの字が見辛くなった。

キャプションには作品タイトルや作者名、制作年など作品に関する基本的な情報が明記されているが、そもそも字が小さい。その上、作品保護の為に館内の照明が抑えられているとさらに見辛く、最近は眼の疲れから途中で見るのを諦めてしまうことも多くなった。

確かな視認性の為にはキャプションはシンプルに白地に黒でクッキリと文字を表記して欲しいと思う。キャプションに変な拘りは要らない。

先日、会期も終わり近いサントリー美術館の「北斎展」に行ったが、コロナ禍以降、入場はオンラインで日時指定予約する美術館が増えた中、ここは以前と変わらず予約なしの入館。会期も終盤とあって混雑を危惧したが、案の定、外で入場を待つ行列が出来ており、館内も芋を洗うような混雑であった。入場していきなり長蛇の列で、最初の展示作品も並ぶ人の影に隠れて見えやしない。

《富岳三十六景》の揃え物など数多の錦絵の傑作で知られた北斎である。しかし、人垣が二重三重の状態では、錦絵の細部を楽しむことなど望むべくもない。しかも繊細な多色刷り版画なので、その保護の為にいつも以上に館内の照明は暗い。

早々に錦絵は諦めて、目当ての肉筆画へと急ぐ。

何と言っても肉筆画は西洋のタブローと同じく世界に唯一つしかない。複数ある錦絵とは希少性が違う(尤も初期作品は現存数が少ないが…)。さらに絵師、彫り師、摺り師の分業体制で作られる錦絵と違い、作家手ずから絵筆で描いた、作家の画力を最も堪能できる逸品とも言える。

肉筆画が展示された最後の展示室はそれまでの展示室ほど混んではおらず、間近でじっくりと作品を見ることが出来た。

一番感銘を受けた《流水に鴨図》は、カーテンの襞のように画布の左上から斜めに流れる数本の水面の波紋の間に見え隠れする鴨が繊細な筆致と色彩で生き生きと描かれ、北斎の観察眼と筆力を余すことなく伝えている。適度に散らされた小さな紅葉の赤が、全体に寒色の画面にアクセントを与えている。外界の暑さを忘れていつまでも眺めていたい、心和む作品である。

しかし、北斎の代表作とも言える肉筆画の少なからずが、遠い異国の大英博物館に所蔵されているのは何となく淋しい。大英博物館にはこの30年の間に何度か足を運んでいるが、日本美術の展示コーナーで、北斎の肉筆画はついぞ見たことがない。常設展示を躊躇うほどに、大英博物館にとっても、否、世界の芸術界においても、北斎の作品は貴重な財産なのだろう。

離れて暮らす息子宛ての絵葉書にその旨を書いたら、「世界で北斎の凄さを認知されているのは嬉しいことじゃない?」とSkypeで返された。若者はいたってポジティブだ(笑)。

まあ、世界を股にかけての分散収蔵は、紛争や自然災害からのリスク分散にも繋がるから、貴重な芸術作品を後世に遺す為には良いことなのかもしれない。

とまれ、涼しい館内で洋の東西を問わず美術作品を鑑賞するのは、私の至福の時間。眼の不調でその大切な時間を失いたくないなとつくづく思う。

蛇足ながら、モノがよく見えないのは、脳の働きをも悪くすると思う。人間は外部からの情報の80%を視覚から得ると言うから、よく見えないことは目の前にある情報の価値判断にも時間がかかり、その分、頭の回転を鈍らせるのだろう。

老化で眼の機能が衰えたら、医学の技術で補うしかないが、補うことが可能なら、それほど悩む必要がないとも言える。

ここではもっぱら老化にフォーカスして語っているが、若い家族なら、子どもの視力に気を付けてあげる必要がある。子どもの学力不振の原因に視力の問題が隠れている可能性があるから。(了)


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