ふるさとの裁判所から、
内容証明付き郵便が届いた。
A4判の封筒にどさっと重い。
開いて見ると、
ボクが大学二年の時に85歳で亡くなった爺ちゃんが、
昭和4年(1929)に250円を貸したお金の担保として、
土地に抵当権を設定した書類であった。
土地の所有者は、ボクの知らない人であったが、
地名は蜂須賀とあった。
「抵当権設定の解除を要求するに当たっての裁判」を
しますから何月何日に出廷するよう依頼の手紙。
ーー爺ちゃんの相続人全員に了解が取れれば、
抵当権の設定を解除するー内容証明付きの手紙であった。ーー
話がさかのぼる。
明治維新後の3年生れの爺ちゃん、翌年4年に廃藩置県がなされた。
知行没収され、殿様は殿様で無くなった。
その後、爺ちゃんが結婚し、女の子供3人を抱えていたおり、
昔,先祖が使えていた殿様が、どうしてか知らないが、
無一文になってしまった。
もともとお殿様であったから、廃藩置県後には、
それ相応の財産を与えられていたのでしょうが、
生活のこと、お金の使い方など、何も知らぬお殿様のこと、
だれか他人に丸め込まれて出資して、
無一文になって、昔の家臣の所へ無心に来た。
その昔、父親が、お仕えしていた関係から、見かねた爺ちゃんが、
自分の所有する田畑を売り払って、
そのお金すべてをご恩になった殿様に差しだした。
お金は貸したことになったが、
稼ぐ方法さえ知ら無い殿様がお金を返すはずがなく、
また、返金の催促さえおぼつかないのは、
目に見えることであった。
爺ちゃんは生活にも困ることになり、
3人の娘の内、一番出来の悪い次女を残し、
長女と三女を養子に出して、口減らしを計った、
その長女がボクの母親である。
爺ちゃんは、働いて働いて夜を日に次いで、
その生涯で売り払った田畑をすべて買い戻したという。
母がボクに伝えた、爺ちゃんの教訓、
「お金を貸す時は、差し上げるつもりで貸しなさい。
差し上げることが出来ないお金なら貸すのを断りなさい。
借りる人は、生活に困って借りるのですから、
返ってくるはずがありません。」
その爺ちゃんが、お金を貸す時、
殿様が持って居た土地に抵当権を付けていた。
それがそのまま現代に至って居たのだ。
爺ちゃんの教訓とはちょっと違うが、
どの道 爺ちゃんは諦めていたお金のこと、
ボクはさっぱり諦めた。
そこで初めに戻る。
内容証明付き郵便である。
抵当権を付けた金額は250円であった。
返済が無ければ日歩6厘の利息が付くと書いてある。
上記で述べたように、お金は一銭も返っていないはずだ。
抵当権設定の時期からは90年経過している。
現在のお金にすると、今、元利合計で幾らになるか?
計算してみたら、なんと、元金250円を日歩6厘で
250円が元利合計で、相当な金額になる。
土地もそれなりの価値がありそう。
裁判所の依頼に、やっぱり異議申し立てしようかしら・・・
ちょっと気持ちがゆれる。
土地には現代のお金に相応しい価値は無さそうだが、
少し請求しようかしら・・・
そんな欲が向き出る・・・
でも、爺ちゃんの教訓もあるし、
当方は金に困って居るわけでも無いと、
さっぱり諦めた。
兄弟の所にも同じものが届いて居たので、
裁判所に電話して、
「裁判にかかる費用の負担を言って来ているが、
費用はいくらですか?」と聞いたら、
「それは訴人の弁護人に聞いてください」と言うので、
電話した。
「異議申し立てがないのなら、裁判に出廷しなければ良いのです。
訴訟費用は当方が申し出なければ、ありません。」と弁護人。
「兄弟そろって、誰も出廷しないように伝えますので、
費用は無しで、よろしく」と伝えて終わった。
その後、また裁判所から手紙が来て、
「新コロナの関係で、裁判の日程延期の通知」
こんな所にもコロナは付いてくる。
その後、どうなったか知らないが、コロナは終わって無いけど、
裁判は何も起きずに終わったに違いない、
無事終わったくらい、お手紙があっても良さそうだが・・・・