WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ジョン・コルトレーンのマイ・フェイヴァリット・シングス

2006年08月06日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 26●

John coltrane      My Favorite Things

Scan20001  昨夜から家人が出かけており、私一人だ。しばらくぶりに、大きな音で音楽を聴いてみたいと思い取り出したのは、John coltrane My Favorite Things だ。表題曲についていえば、例えば Selflessness 収録のものの方が、演奏としての面白みがあり、また創造的プレイだといわれている(私もそう思う)。けれども、個人的な思い入れがあるのだ。思えば、学生時代、私の心の中では、いつもこの演奏が鳴り響いていたような気がする。当時はまだ、Selflessness は聴いていなかったのだ。私の学生時代の1980年代前半には、コルトレーンを神のようにあがめる時代はとうに終わっており、世間ではケニー・ドリューのスケッチ風のおしゃれなジャケットのやつ(「エレジー」とかそういうやつ)やマンハッタン・ジャズ・クインテットなどが流行していたが、私はレンタルレコードからダビングしたカセットテープでとりつかれたようにトレーンを聴いていた。うまく説明できないが、トレーンの音楽の何かが私をとらえたのだと思う。若い頃の一時期、私はコルトレーン漬の一時期を送り、My Favorite Things は、中でも好きな演奏だった。カセットテープで聴いていたのは、レコードをたくさん買うお金がなかったからだ。そのテープはその後も聴き続け、Atlantic Jazz 1500 シリーズの24 bit デジタルマスタリングのものを1500円で購入したのは、つい最近のことだ。 

 やはり、素晴らしかった。しばらくぶりにおいしい空気をすったような気持ちだ。なんといっても、① My Favorite Things である。エルヴィン・ジョーンズの正確無比なドラムに支えられて、スティーブ・デイヴィスの重厚なベースとマッコイ・タイナーのピアノのブロックコードが創り出すリズムは、まるで寄せては返す大海の大きなうねりのようだ。そのうねりの間をトレーンのソプラノサックスが縦横無尽に駆け巡る。ビートに身をゆだねていると、胸の鼓動が聞こえ、身体が熱くなってくるのがわかる。トレーンのソロは、自由に空を飛びまわる。ああ、自分も空を飛びたい。この演奏を聴くたび、私はいつもそう思うのだ。 

 この作品は1960年の録音だ。私の生まれる前である。しかし、考えてみれば不思議だ。録音という技術によって、自分の生まれる前の演奏を聴くことができ、そしてそれに感動することができるのだから……。


グラント・グリーンのアイドルモーメンツ

2006年08月06日 | 今日の一枚(G-H)

●今日の一枚 25●

Grant Green        Idle Moments

Scan10012  いい。ほんとうにいい。ブルージーだ。ギターはこうあって欲しい。1963年録音のこの作品は、ギタリスト、グラント・グリーンの代表作だ。グラント・グリーンは、コードワークをほんんど使わない。ただ、シングルトーンで弾きまくるだけだ。しかし、ヴィブラートを効果的に使ったそのフレージングはブルースフィーリング溢れる泣きのギターだ。

 このアルバムについていえば、サイドメンもがんばっている。まず、ジョー・ヘンダーソンのテナーサックス。これもブルージー。今でこそビックネームのジョーヘンだが、このころはそんなに有名ではなかったはずだ。ヴァイブのボビー・ハッチャーソンもいい。硬質な美しい音が演奏全体に絶妙なアクセントをつけている。そして、ピアノのデューク・ピアソン。控えめだが、知的に洗練された音だ。ライナーノーツには、デューク・ピアソンのピアノがアルバム全体の大きな原動力になっていると書いてある。私にはそんなことはわからないが、時折、ググッとくるフレーズを繰り出してくることは確かだ。

 ギター、ヴァイブ、テナー、ピアノとタレントたちが、入れ替わり立ち代り、ソロを展開していくが、ブルージーな色彩が全体を統一している。暑い夏には、こういうのもいい。ハッチャーソンのヴァイブが「風鈴」のように聴こえるのは私だけだろうか。