●今日の一枚 26●
John coltrane My Favorite Things
昨夜から家人が出かけており、私一人だ。しばらくぶりに、大きな音で音楽を聴いてみたいと思い取り出したのは、John coltrane の My Favorite Things だ。表題曲についていえば、例えば Selflessness 収録のものの方が、演奏としての面白みがあり、また創造的プレイだといわれている(私もそう思う)。けれども、個人的な思い入れがあるのだ。思えば、学生時代、私の心の中では、いつもこの演奏が鳴り響いていたような気がする。当時はまだ、Selflessness は聴いていなかったのだ。私の学生時代の1980年代前半には、コルトレーンを神のようにあがめる時代はとうに終わっており、世間ではケニー・ドリューのスケッチ風のおしゃれなジャケットのやつ(「エレジー」とかそういうやつ)やマンハッタン・ジャズ・クインテットなどが流行していたが、私はレンタルレコードからダビングしたカセットテープでとりつかれたようにトレーンを聴いていた。うまく説明できないが、トレーンの音楽の何かが私をとらえたのだと思う。若い頃の一時期、私はコルトレーン漬の一時期を送り、My Favorite Things は、中でも好きな演奏だった。カセットテープで聴いていたのは、レコードをたくさん買うお金がなかったからだ。そのテープはその後も聴き続け、Atlantic Jazz 1500 シリーズの24 bit デジタルマスタリングのものを1500円で購入したのは、つい最近のことだ。
やはり、素晴らしかった。しばらくぶりにおいしい空気をすったような気持ちだ。なんといっても、① My Favorite Things である。エルヴィン・ジョーンズの正確無比なドラムに支えられて、スティーブ・デイヴィスの重厚なベースとマッコイ・タイナーのピアノのブロックコードが創り出すリズムは、まるで寄せては返す大海の大きなうねりのようだ。そのうねりの間をトレーンのソプラノサックスが縦横無尽に駆け巡る。ビートに身をゆだねていると、胸の鼓動が聞こえ、身体が熱くなってくるのがわかる。トレーンのソロは、自由に空を飛びまわる。ああ、自分も空を飛びたい。この演奏を聴くたび、私はいつもそう思うのだ。
この作品は1960年の録音だ。私の生まれる前である。しかし、考えてみれば不思議だ。録音という技術によって、自分の生まれる前の演奏を聴くことができ、そしてそれに感動することができるのだから……。