●今日の一枚 153●
Rahsaan Roland Kirk
The Man Who Cried Fire
盲目のマルチ・リード奏者ローランド・カークの未発表ライブ音源を集めたもの。
これはすごい。ずっと以前に購入し、一時期狂ったように聴いていたのだが、何故か忘れていた。ふとしたことがきっかけで10数年ぶりに再生装置にのせた。最高だ!こんなブルースが聴きたかった!① Slow Blues 、静かな暗闇の中からカークのサックスがひっそりと立ち上がってくる。あとは真性ブルースの世界だ。ブルースの洪水に浸りながら、心は、そして身体は、至福だ。私のためにつくられたレコードではないかと考えたくなるほどにお気に入りの一枚だ。
カークは、テナーとアルトとバリトンを同時にくわえて吹いたり、フルートやマンゼロにもちかえたり、果てはホイッスルを鳴らしたり、あるいはこのアルバムでもそうであるように、楽器を吹きながら歌ったりすることすらあるので、キワモノ的な目で見られがちである。真面目なジャズ・ファンは、下品だと考えるかもしれない。しかし、これについてはすでに何度か引用した後藤雅洋氏の次の文章をあげれば十分であろう。
《 重要なのは、ローランド・カークの演奏技術が彼の音楽表現と不可分に結びついているということであり、決してテクニックのためのテクニックではないという点なのだ。その証拠にカークは、この奏法をのべつまくなしに披露するわけではなく、よく聴いていればわかるが、音楽的に必要と思われるところでしか使用することはない。…………ここで重要なのは、それが二人の演奏者がそれぞれテナーとマンゼロを吹いたのでは絶対に表すことができない表現力を獲得している点なのだ 》(『Jazz Of Paradise』Jicc出版局)
実際、複数の楽器をハモらせるカークの演奏は不思議な響きをたたえている。
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