WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

貨幣はすべてを均質化していく

2007年04月17日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 154●

Art Pepper

Winter Moon

Watercolors0005_7  「ウインター・ムーン」。1974年にカムバックしたアート・ペッバーが、1980年、Galaxyに録音した唯一のウィズ・ストリングス盤だ。

 私はウィズ・ストリングス作品はいくつかの例外を除いて基本的に好きではない。あまりに予定調和的というか、退屈なイージー・リスニングを聴いているような気分になってしまうのだ。ペッパーのこの作品は、数少ない例外のひとつだ。ウィズ・ストリングスなのに、そんな感じがしない。演奏はあくまでペッパーのコンボ中心で、部分的にストリングスが効果的に導入されているという感じだ。ペッパーのアルトも流麗で刺激的なアドリブを展開する。

 後期ペッパーについては否定的な人も多いが、音に込める思いというか、一音一音のニュアンスが若き日に比べてよりリアルになったような気がする。このウィズ・ストリングス盤にしても、バラード演奏における切々とした哀愁のアルトの繊細さは筆舌に尽くしがたい。じっと聴いていると、そのあまりの情感の豊かさに涙がでそうになるほどだ。イージー・リスニングとして仕事のBGMにしようと思っても、思わず手を止め、耳を傾けてしまう、そんな演奏である。

 実は友人から録音してもらったMDでずっと聴いていたのだが、廉価盤がでたので購入してみた。何と1000円である。1993年に発売された商品と同一のものということで安く出来たのだと思うが、十分に気持ちよく聴くことができる。いつも思うことだが、昨日コンビニで缶ビールに支払った代金もほぼ1000円、ペッパーのこの「名作」も1000円である。これが貨幣経済の現実というものなのだろう。究極の平等主義者「貨幣」の働きにはただ沈黙するのみである。

 「貨幣」は、すべてを均質化していく……。