●今日の一枚 188●
Bill Evans
Affinity
子どもたちは夏休みだというのにどこにも連れて行ってあげられず申し訳ないなどと思い、少しぐらいは夏の想い出を作ってあげようと、数日前、仕事をがたまたま早く終わったこともあって、夕方から次男を近所の海水浴場に連れて行った。思えば、子どもたちがもっと小さな時は、夕方からしばしば一緒に近所の海を訪れたものだった。夕方の海水浴場はいい。多くの客が帰った後の本当に広々とした開放感とどこか感傷的な雰囲気が何ともいえない。そして何より、駐車場が無料なのだ(4時5時を過ぎると駐車場のおじさんも、顔見知りということもあってまけてくれるのだ)。
次男に教えようと、倉庫から古いボディー・ボード(昔はブギー・ボードといっただが……)を引っ張り出し、得意げに講釈を加えつつ車を運転し、自宅から5分ほどの海水浴場に到着したのだが、何と遊泳禁止だった。波は穏やか、天気は最高なのにどうして、とレスキューの人に尋ねてみると、何とすぐ側で船が座礁し、油が流出したとのことだった。ずっと沖を眺めてみると、確かに白い船が傾いていた。こんなに暑くて天気のいい日に遊泳禁止だなんて、海水浴場関係者も気の毒だなどと考え、日光浴だけをして素直に戻って来たわけだが、おかげで少しは日に焼けて「健康的っぽく」なった。
さて、暑い夏の日に涼しげな一枚。ビル・エヴァンスの1978年録音作品『アフィニティー』。エヴァンス・トリオ最後のベーシストとなるマーク・ジョンソンとの初の競演盤だ。なんといっても、トゥース・シールマンスのハーモニカが絶品である。ハーモニカの親しみ易い音色はどこか涼しげで、暑い夏に窓からやってくる爽やかな風のようだ。カシオペアの野呂一生はかつてこのアルバムを、「エヴァンスの一枚」として推薦していたが(『別冊ジャズ批評』)、世間的には傑作とか名盤とかの評価を受けているわけではないようだ。けれども、大衆的でわかりやすい作品ながら(というのも変だが)、十二分に聴くに値する作品だと思う。私は好きだ。金属的な印象を受けるジャケットが、エヴァンスのピアノの趣を十分に伝えず、まるでフュージョン的なサウンドのようなイメージを与えてしまい、その点損をしているように思う。
その点、岩田靖弘氏がこのアルバムについて、「一聴するとあまりに感傷的で、しかも誰の耳にも違和感のない大衆性を感じさせるこの作品の背後には、『修練をもって処理されたロマンチシズムは最も美しいたぐいの美だ』と語ったエヴァンスの理想の表現が脈打っていることを見逃してはならない」(『ビル・エバンス あなたと夜と音楽と』講談社1989)と述べたことは傾聴に値する。
名曲 Blue in Green (なぜか Blue and Green というタイトルになっているが)のリリカルな響きに、夏の暑さも忘れてしまう。