●今日の一枚 192●
Stan Getz
Sweet Rain
まだまだ残暑は厳しいが、さすがに夕方になると過ごしやすくなってきた。私の家の周りでは、朝には蝉の、薄暗くなると秋の虫たちの鳴き声が聞こえてくる。こんな時には、去り行く夏を思いながら、爽やかなサウンドを聴きたいものだ。
そう思って取り出したのは、スタン・ゲッツの1967年録音盤『スウィート・レイン』だ。いつものごとく情感豊かで流麗なゲッツのテナーもさることながら、やはり新進気鋭のチック・コリアの優雅で軽やかなピアノが耳をひく。チックはこのアルバムで初めて広くファンに知られるようになったのだ。私は若い頃、結構熱心なチックのリスナーだったのだが、年をとるにしたがってあまり聴かなくなってしまった。なぜだかよくわからない。チックの演奏技術が優れていることはもちろん否定すべくもないし、チックの演奏がよりダイナミックに進化していることも理解できるのだが、いつの頃からかその作品をターンテーブルやCDトレイにのせることが極端に少なくなってしまったのだ。不遜な言い方だが、しいて言えば、私にとって「退屈」な音楽になってしまったといったらいいだろうか。しかし、このアルバムの時代のチックは、今聴いても素直に感動できる。才気に溢れるその優雅な指さばきからは、きらきらと光る水滴が滴り落ち、まぶしく弾けるようである。
アルバム全体に優しく、瑞々しい雰囲気が漂っている。私見によれば、優しさはゲッツが、瑞々しさはチックが担当している。
気分の良いアルバムだ。