王様の耳はロバの耳

横浜在住の偏屈爺が世の出来事、時折の事件、日々の話、読書や映画等に感想をもらし心の憂さを晴らす場所です

「鼓動」を読む

2007-04-28 08:45:23 | 本を読む
「鼓動」は新潮社の編集による5人の作家による警察小説の選集です
その中でも大沢在昌氏の「雷鳴」を紹介したい
解説を読むとこの作品は「短編というより掌編」と紹介があり「掌編」なる言葉に引かれて辞書を調べた 「短編の事」とある これでは言葉の言い換えではないか
でも文庫本で15ページ程の量であるからその意味を考えれば「たなごころ(掌)に乗る程の小編」つまり短編中の短編という意味であろう そういえば昔ショートショートという極々短い作品群が有った

ひどい雷の晩とバーテンの一人語りで始まる
新宿の場末のバーに一晩だけバーテンの交代を頼まれ店を開けている
こんなひどい雷雨の日には客など来ないであろうと思うところに濡れ鼠になった男が駆け込んでくる しきりに時間を気にしながら一杯飲む 問わず語り:小さなやくざの組員だったが親分が捕まり組は解散して大阪に流れ3年 又新宿に舞い戻ったらしい

やがてもう一人の男が雨の中入ってくる やくざ者は新客が「新宿鮫」と気づく
「新宿鮫」はやくざ者の元親分から本人が自首するよう頼まれたので説得に来た
実はやくざ者は関西で鉄砲玉として相手の親分を銃撃した物の弾は外れた 逃げ場が無くて元の古巣に立ち戻って依頼主の迎えを待っていたようで
鮫は説得する 今は両者で手打ちはすみ 邪魔なのは鉄砲玉で「消し去る」手筈を整えているようだと 「足を洗うのはシノギを続けるより辛い」との元親分の言葉を伝える 鮫が逮捕するより自首した方が裁判官の心証も良いだろう
男は雷鳴の聞こえる中ざんざ迷った末(自首のため)外に出てゆく

後に残るのはバーテンと鮫の二人
やくざは勘定をして行かなかった 待ち合わせの人に貰うというバーテンに鮫が答える 「待ち人はこない」と

鮫は続ける あいつはこの店を知らない 組の人間に言われて「いらなくなった鉄砲玉を消すプロが待っているとも知らず あんたはこの店の人間ではない この雨に傘立ての場所さえ知らなかった あんたはころあいを見てあいつの口を塞ぐつもりだったろう」
バーテンはエプロンの下で握っていたアイスピックの柄を離した
警官の前で男を消すには警官とも消す覚悟が必要です そこまでのギャラは貰っていない あんたとはもうあわないだろうといって鮫は出て行った
雷鳴は何処か遠くになっていた
新宿鮫こと鮫島はあの日二人の人間の足を洗わせたのです

その他4話もいけますよ
コメント
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