王様の耳はロバの耳

横浜在住の偏屈爺が世の出来事、時折の事件、日々の話、読書や映画等に感想をもらし心の憂さを晴らす場所です

「終戦のローレライ」 を読む その6

2007-04-15 07:21:25 | 本を読む
「終戦のローレライ」 その5の続きです 
第4巻第5章
これまでに「朝倉大佐」の異常さ その異常さに行き着く原因 そこから導き出された国家としての切腹 その為の構想----「イ507搭載のローレライを米軍に引き渡す事と引き換えに東京に原爆を落とさせる」という事でした
トラック島出港後米軍2世部隊5名と朝倉の伏せ手(手先)6名により一度は制圧されたイ507でしたが「大人が勝手に始めた戦争でこれ以上人が死ぬのはいやだ」との折笠の叫びに朝倉魔術に掛かりかけていた絹見艦長、伏せ手の高須先任将校・田口掌砲長までも呪縛が解けイ507の支配をわが手に取り戻します

朝倉大佐が告げた様に米国の首脳は「ローレライの入手如何に関わらず東京に原爆を落とす事を決めました 同時に全力をあげイ507の拿捕と出来なければ撃沈する作戦を発動しました

偶然にもイ507では絹見艦長と幹部が「テニアン島に突撃、飛行場を破壊して特殊爆弾(原爆)を搭載した爆撃機の離陸を阻止する」作戦を決めました
この事は東京に無電を打ち海軍大臣米内迄知るところだが日本軍には阻止する力が無い
11日9時22分 テニアン島まで100キロの所で絹見は「志願者のみでのテニアン突入」を乗員に諮る 退艦を希望した小松甲板士官以下18名をランチに乗せトラック島へ向わせる 残る53名でテニアン島突入となる 時午後9時 爆撃機発進まで12時間半が残り時間だ

この後イ507は米国海軍が空母を旗艦に戦艦・巡洋艦・駆逐艦・潜水艦計40隻の特設機動部隊の待ち受けるテニアン沖に向う
絹見艦長以下全員の奮闘で全魚雷を発射、ナーバルの持つ能力全てを以って敵艦隊に大打撃を与え包囲網を突破する 回収の時間が無い事を口実にナーバルは搭乗員のパウラと折笠を乗せたまま「自力で戦場離脱」を命じられイ507と分離される

戦闘により計画の時間から遅れたイ507が浮上した時は9時30分を過ぎており原爆を搭載したB29と観測機は離陸を始めていました
重傷の田口掌砲長はウェブナー少尉の補助で艦載の20.3センチ砲を2斉射 2機を撃墜する
 
「作戦終了 帰還の途に付く」絹見の命令でイ507はテニアン島を離れる
今やイ507の拿捕を諦めた米海軍は撃沈を命じる
浮上の途中潜航舵を傷めたイ507は水上航行しか出来ない 絹見は艦橋で鼻歌を歌う やがて歌詞が口から ♪名も知らぬ遠き島より----
距離が開くに従って正確になる米軍射撃 誰が歌っているのか艦内は「椰子の実」の大合唱
♪名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実一つ 艦に砲弾が命中する 木崎戦死
♪故郷の岸を離れて汝はそも波に幾月 機関室はまだ動く 岩村機関長戦死
♪我もまた渚を枕 一人身の浮き寝の旅ぞ 射撃室に命中 エブナー少尉戦死
♪実を取りて胸にあつれば新たなリ流離の憂い 弾薬庫誘爆 沈み始める
絹見は奇跡的に生きていた 伝声管と腰をつなぐ策を確り確認した 脳裏に浮かぶ光 イ507が産み落とした一粒の種 若い二つの命を乗せた椰子の実がどこまでも伸び続ける輝きの軌跡 艦橋を瀑布が飲みつくした
♪海の日の沈むを見れば たぎり落つ異郷の涙 艦首を下に向けて沈降する
イ507はマリアナ海溝1万メートルに粉々になり霧散する
♪思いやる八重の潮々 いずれの日にか国にかえらん---

それから2時間後トラック島の日本基地は米国艦載機の徹底爆撃を受ける 直前に小松甲板士官が朝倉大佐を射殺する 爆撃による破壊と死亡で全ての謀略の後は証拠隠滅された

何日経ったであろうか 疲労困憊の極みにいるパウラと折笠 ナーバルのラジオが日本放送を拾う 「朕、深く世界の大勢と現状とに鑑み、非常の措置を持って時局を収拾せむと欲し、ここに忠良なるなんじ臣民に告ぐ。朕は帝国政府をして----」
1945年8月15日正午 終戦

終章
2003年夏 温子(あつこ パウラの日本名)は75歳 息子の運転する車で国道220号線を日向灘に沿って日南海岸を南下する これまで折笠と何度も訪れた「宮崎県南那珂郡伊井比井の松森岬の海蝕洞」(爺注:鵜戸神社の周辺)

あの日夜陰に紛れ「海蝕洞」にナーバルを自沈させ早々にその場を後にした
終戦直後のドサクサで折笠の郷里を経て東京にでた 4年後闇市で「須崎温子」のヤミ戸籍を入手、朝鮮戦争を機に折笠は時計メーカーの工場に職を得る 朝鮮戦争後の景気回復を汐に折笠との結婚 やがて真史と徳子の二人の子供 そして高度経済成長、石油ショック、バブル経済とその崩壊 人並みの人生である山と坂と谷 

折笠は1990年胃がんを発病 翌年あっけなくこの世を去る 享年62歳
折笠はイ507の仲間の元に帰ったと思い温子は余り悲しまなかった ローレライ(魔女)は長生きするものだ

温子も腰痛に悩まされ最後となりそうな「日本漂着地詣」 人生最後のけりだ
誰も居ない海に裸足の足を漬けると懐かしい感応が広がった 膝まで進む 泣き喚く絶叫や悲鳴 不快な波動 不意に強烈な意思の波動が流れこむ 「それは不快な波動を払い、疲れで濁った心を激しく揺り動かす ほんの一瞬、世界の悲鳴さえ閉じ込めてしまった なんて無遠慮で、生硬で、怖い物知らずの意思」

自分と同じ肌合いを感じさせる意思の源に目を向けると孫娘の弥生の立ち姿が映り、その足首を洗う波が引くと、若い波動も途絶えた 
古い物に対する感傷を押しのけ大海に乗り出して行こうとする椰子の実のなんと元気なこと
終戦のローレライ 了

写真:鵜戸神社 ローレライはこの辺りの海蝕洞の一つにたどり着いた
コメント (2)
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