語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『つぶやき進化論  「140字」がGoogleを超える!』

2010年08月02日 | 批評・思想
 2008年の米国大統領選挙の帰趨は、ソーシャルメディアが左右した。TwitterやYouTubeでバラク・オバマのファンが広がり、オバマ陣営への小口献金は総体として莫大な額となった。オバマのスローガン「チェンジ」は、選挙の手法においてすでに実践されていたのである。

 なぜソーシャルメディアがかくも盛んに活用されるのか。
 サーチエンジンには致命的な欠陥がある、と本書は指摘する。ウェブの情報量が多すぎて、全体を把握するために別のツールが必要なのだ。そのツールがソーシャルメディアというわけだ。ソーシャルメディアによって、手軽に速やかに質の高い情報が入手できる、と本書は実例をあげて説く。
 かくて、「グーグルの強敵は他のサーチエンジンであるYahoo! 、MSN 、Ask などではなく、ソーシャルメディアなのだ。グーグルをはじめとするサーチエンジンはこの流れに気づいていて、サービスをよりソーシャルメディアに近づけようとしている」

 ソーシャルメディアは社会にどのような行動の変化をもたらすか。
 例1。消費者は、気になる商品があればソーシャルメディアで評判を調べ、あるいはみんなの意見に耳をかたむけて、買うかどうかを決めることができる。
 例2。企業、マーケッティング担当者は、ソーシャルメディアにおいて以前よりも容易に批判的な意見を見つけだせるから、問題発見はこちらに任せ、問題解決に時間を傾注する。有能な企業はかくのごとく批判的な意見を前向きに受け止めるが、無能な企業は逆にソーシャルメディア上の批判的な意見を隠蔽する操作に忙殺されるのだ。

 ソーシャルメディアは、ビジネスモデルの変革を強いる。端的な例は、新聞にみることができる。
 ビジネスモデルを変えないと、それまでのサービスをデジタル化するだけで、従前とおなじ購読料を設定することになる。この愚行の結果、世界第2位の巨大メディア企業、トリビューン社は2008年に破産申告した。
 逆に、先進的な決断をしたのは「ニューヨークタイムズ」紙だ。自動的に記事がダウンロードできるサービスを設け、月額12ドルというわずかな購読料のみを課金している。バラク・オバマが小口献金を集めて、結果として何百万ドルに達したやり方に似ている。

 本書には新たなビジネスモデルのアイデアが盛りこまれているから、「有能な」企業は食指をそそられるはずだ。たとえば電子書籍。これまで本の中に商品を登場させた場合の効果を測定できなかったが、ハイパーリンクを取り入れることで新たな収入源を生む、と本書は予測する。

 ところで、本書にキーワードを設定するなら、「みんな」である。みんなのメディア、みんなの経済(ソーシャルノミクス)、みんなの迷い、みんなが何をしているのか知りたい、みんな必死です、みんな、みんな・・・・。
 「140字」には「140字」の情報や思想しか盛りこむことはできないのだが、量は質に転化するのである。ソーシャルメディアに示されるメッセージは概して主観的なものだが、主観が多数集まれば客観性を帯びるというわけだ。まことにアメリカ的な、あまりにも大衆社会アメリカ的な。

【注】本書は、R+から献本していただいた。条件は、書評400字程度を書くこと、である。
 レビュープラス

□エリック クォルマン(竹村詠美/原田卓・訳)『つぶやき進化論  「140字」がGoogleを超える!』 (イースト・プレス、2010)
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【読書余滴】『つぶやき進化論  「140字」がGoogleを超える!』 のさわり

2010年08月02日 | 批評・思想
 『つぶやき進化論  「140字」がGoogleを超える!』 の各章末に添えられた「キーポイント」は、次のとおり。

■1章クチコミ(ワ ールド・オブ・マウス)は世界をかけめぐる!
(1)インターネットによって市場は細分化されたが、人々は今でもみんなの動向を知りたいと思っている。そこで役に立つのがソーシャルメディアだ。
(2)ソーシャルメディアで時間をつぶすと、実は生産性があがる! ソーシャルメディアには、「情報の消化不良」を防止する力がある。サリー・スーパーマーケットの例でわかるように、以前ならぼんやり過ごしていた10分間が、ソーシャルメディアを使うことで非常に意味のあるひとときになるし、直後の行動決定にも意義ある影響がありうる。
(3)企業はそもそも、ビジネスモデルを大きく変えなくてはいけない。ビジネスモデルを変えもせずに、「デジタル化するだけ」ではダメなのだ。ソーシャルメディアの影響と需要に応えられるような、根本的な変革が必要だ。
(4)昔ながらの新聞や雑誌は、オンラインでの生き残りに苦労している。記事を書くのに最もふさわしい人間は、無償で、楽しみのために書いているフリーのブロガーだからだ。彼らは購読料を稼ごうなどとは思っていない。無報酬で、自分の意見、動画、調査結果といったコンテンツを投稿しているのは、ただ「みんなに見てもらいたいから」だ。ジャーナリストや出版社はこうした、購読料なしの、質のいいブログとの厳しい勝負を強いられている。
(5)これからは、どのニュースを読めばいいか考えなくてもいい。「ニュースのほうから集まってくる」、あるいは自分が発信するようになる。
(6)ソーシャルメディアの重要な点は、大勢の人が、まるで紙のフォルダーにラベルを貼るように、「情報にタグをつけることができる」機能があることだ。こうしてウェブ内の情報は整理され、すべてのユーザーにとって使いやすいものになる。
(7)すばらしいマーケティングのアイデアは、企業のマーケティング部門の会議から生まれるとは限らない。すでに草の根で高く評価されている活動に協力するのも賢明な企業戦略だ。ストライドガムと「踊るマット」の例に学ぶべきことは大きい。

■2章Twitter 上は360度「ガラス張り」
(1)企業も個人も、誰かと結びついていたくて、ソーシャルメディアで公開日記をつける。何にもまして、自分より大きな存在の一端を担っていると感じたいからだ。企業でも個人でも、この開かれた状態には責任がつきまとう。
(2)いまや、金曜夜のパーティーのあられもない自分の姿が、YouTube で公開される時代。
(3)個人も企業も、母親や重役に一挙一動を監視されているかのような暮らしを始めつつある。おそらく実際に見られているだろう。ソーシャルメディアがもたらしたこうした行動の変化には欠点もあるが、社会にとってはおおむね有益だ。
(4)ソーシャルメディアは案外、「親子の距離」も縮めている。
(5)ソーシャルメディアをとおして、顧客の不満は「瞬時に」投稿される。企業にとってはまたとない「顧客ケア」のチャンス。
(6)ソーシャルメディアでは、企業は以前よりも容易に批判的なコメントや投稿を探し出せる。だから問題の「発見」に時間を費やす代わりに、「解決」に心血を注ぐことができる。
(7)有能な企業や個人は、ソーシャルメディアを介しての批判的なフィードバックを前向きに受け止める。改善すべきところを明らかにしてくれる顧客の意見は何ものにも代
えがたい。
(8)愚かな企業は、ソーシャルメディア上の批判的なコメントを「見えにくくしたり」「消したり」、操作することにとかく時間を費やす。

■3章Twitterの中の「自慢したがり」な面々
(1)ソーシャルメディアがあれば人々はその場で人生を見直し、いつも人々を悩ませてきた「私の人生はこれでいいのか?」という問題に答えを出しやすくなる。今までより多くの人が生産的な活動や社会貢献に関わろうとするようになるため、社会にとってもプラスになる。
(2)「視聴者参加型番組」の代わりに「自分参加型のソーシャルメディア」の時代だ。重要なのは、テレビに出ている他人ではなく「友達や自分自身」の現実だ。
(3)これからの「受信ボックス」はソーシャルメディアになる。若い世代は電子メールを時代遅れで古臭いと思っている。
(4)ジェネレーションYとZは、1対1や口頭のコミュニケーションの必要がないソーシャルメディアに依存しているため、対人コミュニケーション能力が低くなっている。
(5)ジェネレーションYとZは、世の中の役に立ちたいという意志が強い世代であり、慈善事業や社会貢献のためにソーシャルメディアを活用している。
(6)消費者は好きなブランドを自分のイメージとしてアピールし、商品を「自慢」してくれる。彼らに任せてみようではないか!

■4章「ソーシャルメディアが大統領にした」男
(1)政治でもビジネスでも、開放型の双方向対話は、一方的に視聴者に向けられたコミュニケーションよりもはるかに効果がある。ソーシャルメディアはこの双方向対話を可能にする。従来の広告よりも、無料のソーシャルメディアツールを用いて宣伝を行うほうが、今の時代に即した費用対効果の高い方法だ。
(2)有権者を巻き込むことで、ソーシャルメディアは投票率に好影響をもたらした(1908年以来の最高率、また若年層でも最高率)。
(3)アメリカ大統領選挙にオンライン投票を導入すれば、推定67億ドルの生産性損失を回避できる。
(4)インフルエンザの流行を予測して予防したり、次のイギリス首相を予想したりできるか? については、まだ「集団的知性」の可能性のほんの表層部分が引っかかれているだけだ。
(5)「フォーチュン500」に名を連ねる企業はオバマから学ぶべきだ。彼はソーシャルメディアを信用し、一般市民に彼というブランドを自由に使わせて、思いもよらないほどの成功につなげた。
(6)インターネットがなければ、オバマは大統領にはならなかった。ビジネス同様、政治家や政府もソーシャルメディアの進歩に遅れを取らないようにする必要がある。政治の場でうまくソーシャルメディアを活用すれば、大きな恩恵を受けられる。

■5章「みんなのメディア」は“みんなの迷い”を吸い込んで成長する!
(1)消費者はソーシャルメディアを介して、商品、サービス、健康問題などについて、仲間に助言を求める。優れた商品やサービスを提供する企業だけがこうした会話で話題になる。月並みではすぐに排除されてしまうだろう。今日では、78%の人が他人の意見を頼りにしている。広告に頼るのは14%にすぎない。
(2)ソーシャルメディアのおかげで、みんなが同じことを繰り返さなくてよいので労力が重複しない。結果として効率のよい社会になる。
(3)安い、速い、質がよい、のうちふたつしか併せ持つことができないという古い格言は、ソーシャルメディアにはあてはまらない。3つすべてを持つことは可能だ。
(4)ソーシャルメディアで成功する企業は、従来の広告会社的性質よりもむしろ、エンターテインメント会社、出版社、パーティープランナーのような機能を有するようになるだろう。
(5)電子書籍の人気が高まれば、ブランドにとって新たなデジダルメディアに広告を出すチャンスとなる。映画におけるプロダクト・プレイスメントに似ているが、本のなかでブランドの文字部分をクリックしたり、その状況をたどったりすることができる。
(6)最も成功するソーシャルメディアとモバイルアプリケーションは、ユーザーが自慢したり、競い合ったり、友だちに教えることで自分が格好よく見える、そういったものだ。
(7)検索戦争でグーグルを最も脅かすのは他社のサーチエンジンではなく、何かを探そうとする人びとがソーシャルメディアで他の人に尋ねる質問の増加である。以前にも増して、商品やサービスが消費者のもとへ自然に集まってくるようになるだろう。

■6章「自分以外のもの」になれない時代
(1)ソーシャルメディアによって情報がすぐに広まる世の中では、いろんな顔をもつことが少なくなる。「仕事」用の自分と「パーティー」用の自分を使い分けることもなくなるだろう。人も企業も、ひとつの本質を持ち、その本質に忠実でいなくてはいけないだろう。
(2)個人にとっても企業にとっても、「多才」であることはあまり意味がなくなる。自分の核になる「強み」を活かすほうがうまくいく。それがライバルとの差につながる。
(3)ソーシャルメディアの世界で勝つのは、派手なメッセージに頼っているだけの企業ではなく、すぐれた商品やサービスを提供する企業だ。ソーシャルメディア内のつながりは世界最大かつ最強のリファーラルシステムだ。
(4)マーケティング担当者の仕事は、開発した商品を「売りこむ」ことから、顧客や見込み客の声を聞き、ニーズを満たし、要求に応えることへと変わった。

■7章「140文字」の世界で覇者たるには?
(1)完璧な人や企業などないのだから、過ちを認めてしまうのがベストだ。そうすれば一目置いてもらえる。
(2)これまでの広告は、番組や記事といったコンテンツを挟み込むように配置されていた。クチコミのチャンスを利用するためには、コンテンツのなかに溶け込ませる必要がある。
(3)CNNやESPNがやってみせたように、企業は「トム・ソーヤー的アプローチ」を活用して、熱狂的ファンに商品や番組やサービスに貢献してもらおう。
(4)今日の顧客やファンは、明日の競争相手かもしれない。そうならないように積極的に手を打とう。
(5)デイヴィッド・オグルヴィよりデール・カーネギーのように。まずは耳を傾けてから、売り込む。
(6)ソーシャルメディアライフでは何もせずに過ごすよりも、失敗するほうがよい。
(7)サーチエンジン最適化とソーシャルメディアはつながっていることを忘れずに。

■8章「みんなの経済」時代の消費者は「ガラスの家」に住む
(1)自社でソーシャルネットワークの二番煎じをつくっても、誰も来ない「悪夢の野球場」でしかない。既存のツールの中から最高のものを選んで接続するのが賢い。ソーシャルメディア企業でもないのに無理して新規参入しようとするのは愚かなことだ。
(2)ソーシャルメディアによって、インターネットアクセスがコンピューターからモバイルデバイスに推移している。
(3)求職や求人に関してソーシャルメディアの中で行われる情報交換の形は、10年前から激変した。情報の流れが増えたことによって、求人側と求職者の最適な出会いが増えた。
(4)ソーシャルメディアツールによって情報交換が迅速におこなわれるようになり、マーケティングではリファーラルを重視するようになった。人材募集や就職活動でも同じように、かつてないほど紹介を重視するようになるだろう。
(5)直接会って話す必要のないコミュニケーションが多すぎるため、若い世代の対人コミュニケーションスキルは衰えている。
(6)サーチエンジンの検索結果や古いウェブ広告のモデルは時代遅れだが、ソーシャルメディアによっていずれも革命的に変わるだろう。そうでなければウェブ広告のシェアは激減することになる。
(7)今後、個人や企業がどれだけ業績をあげられるかは、まさに、ソーシャルメディアをうまく利用できるかどうかにかかっている。
(8)前に進みながら倒れよう。失敗するなら俊敏に、よりたくみに。
(9)モバイルの進化は「つねにつながっている社会」を実現すべく進化している。ソーシャルメディアの利用は、携帯でソーシャルメディアが利用出来るデバイスが普及するにつれて、さらに増加するだろう。
(10)デジタルのビジネス・ネットワークは、「必要となる以前に自分のほうから」積極的に構築しておくこと。

【参考】エリック クォルマン(竹村詠美/原田卓・訳)『つぶやき進化論  「140字」がGoogleを超える!』 (イースト・プレス、2010)
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