著者は、『雇用崩壊と社会保障』終章で、雇用崩壊・社会保障危機への処方箋を交付する。
ここでは、雇用保障に係る提言を抜き書きする。
(1)労働者派遣法の廃止、当面の抜本的改革
1985年制定の労働者派遣法に代表される労働法の大幅な規制緩和が非正規労働者の拡大、その結果としての雇用破壊の原因となった。
よって、(ア)労働者派遣法を廃止する。失業の増大には、失業時の生活保障の拡充で対応しつつ、政府による雇用創出施策で労働市場改革を同時に進めていく。これを前提としたうえで、労働者派遣事法は廃止する。労働者派遣事業そのものを禁止する。
(イ)当面は同法の抜本的改正と派遣労働の徹底した例外化をおこなう。日雇い派遣、スポット派遣は弊害が多い。これらのみならず、登録型派遣、製造業派遣も例外なく禁止する。
(ウ)派遣労働自体を例外化する。当面は、1999年の労働者派遣法改正前のポジティブリスト方式(限定列挙方式)に戻す。
(エ)これらと並行して、労働者派遣事業に対する規制を強化する。たとえば、届出受理方式による特定等同社派遣事業を廃止する。すべて厚生労働大臣の認可を要件とし、雇用実態のない派遣業者は許可しない。
(オ)派遣労働者も、派遣先で直接雇用されている労働者との同一以上の待遇保障を義務づける。
(カ)違法派遣(無許可派遣、期間を越えた派遣、対象業務外派遣)がある場合には、派遣先に直接雇用義務があることを明確にする。
派遣労働のような低賃金・不安定雇用を残すと、労働条件がかぎりなく切り下げられていく。失業の増大よりも弊害が大きい。
ILO活動の目標「ディーセントワーク(働きがいのある仕事)」の保障にも反する。
適職・生活可能な職で働く権利は、労働者の人権である(世界人権宣言第23条)。
失業の増大には、失業時の生活保障の拡充で対応しつつ、政府による雇用創出施策で労働市場改革を同時に進めていく。
これを前提としたうえで、労働者派遣事法は廃止する。労働者派遣事業そのものを禁止する。
(2)企業の直接雇用責任の強化
派遣先=受け入れ企業の直接雇用責任を拡大する。
製造現場を中心に偽装請負方式での違法派遣が蔓延した(2006年頃から明らかになった)。こうした違法派遣には、派遣先と派遣労働者との間に労働契約関係が存在することを明確にする。派遣先企業の直接雇用責任を果たさせる(大阪高裁判決「松下プラズマディスプレイ事件」)。
(3)有期契約の規制
合理的な理由がない限り解雇できない(労働契約法第16条)。その一方で有期契約が拡大している。
業務が恒常的であるにもかかわらず労働契約に期間を設定する合理性はない。有期雇用自体が、期間満了という形で労働契約法の解雇規制をまぬがれるための脱法行為である。
そもそも、労働契約は期間の定めのない契約を原則とするべきである。
有期契約は、代替的、一時的、季節的な特別な業務の場合など、契約期間を定める合理的な理由のある場合にしか締結できないことを労働契約法に明記する。
そして、有期契約の場合にも、契約の締結に際し、期間の定めをする理由や更新の有無などについて、書面により労働者に通知することを義務づけるとともに、有期契約更新拒否についても一定の規制を加える。
(4)同一価値労働同一賃金原則の法定化
(ア)労働基準法に同原則の明示規定を盛りこむ。
(イ)それと並行して、客観的な職務評価制度を構築する。
同一価値労働同一賃金は、EU諸国の賃金体制には確立した原則である。
ILO100号条約は、同一価値労働同一賃金原則を規定する。日本は、批准したが(1951年)、とくに正規労働者と非正規労働者との賃金格差が先進諸国のなかでもきわめて大きく、しかも拡大傾向にある。
(5)最低賃金の引き上げと労働時間規制の強化
(ア)最低賃金を引き上げる。
2007年の最低賃金法改正により、生活保護との整合性を図る条項が盛りこまれた(第9条第3項)。しかし、最低賃金の機能が強化されたとはいえない。現状では生活保護基準の法的保養は不十分である。生活保護基準が引き下げられれば、最低賃金も引き下げられることになる。最低賃金を確実にするには、生活保護法の改正も併せて必要になる。
最低賃金決定過程の透明化、全国一律の最低賃金決定の方式も検討されてよい。
最低賃金の大幅な引き上げが必要だが、当面は生活保護との逆転現象の解消に重点をおいて女女に引き上げていく。
大企業や官庁の非正規労働者については、現時点でも最低賃金の大幅な引き上げは可能ではないか。
(イ)労働時間規制を強化する。
2010年の労働基準法改正で、月60時間超の時間外労働の割増賃金率は現行の25%から50%以上に改正された。残業抑制の実効性に疑問がある。サービス残業を強いられるおそれもある。
時間外労働の上限を法定し、一定以上の残業を禁止する規制が必要である。
(ウ)労働法令を遵守させる監督行政を強化する。
労働法令が適用される事業所は450~500万か所、役員を除く適用労働者は推定5,000万人。かたや、労働基準監督署は約350か所、労働基準監督官は約3,000人。
ILOの基準(監督官一人当たりの労働者数を最大1万人とする)にしたがえば、日本には最低5,000人の労働基準監督官が配置されなければならない。
(6)雇用保険の拡充と失業扶助制度の創設
(ア)雇用保険を拡充する。
非正規労働者を含め、労働者すべてを雇用保険の適用対象とすることが望ましい。
また、再就職できない人が多数にのぼる現在、給付日数の弾力的延長などをおこなう必要がある。
(イ)失業扶助制度を創設する。
英独仏端の各国では、失業給付期間を超えても、減額はされるが、一定額の給付が失業者に支給される失業扶助制度がある。失業保険の給付期間を超えた失業者だけではなく、失業保険に加入していなかったり、給付要件を満たさない失業者にも、一定の条件を満たせば給付される。
現在の日本では、生活保護への負荷がかかりすぎている。同じ公費支出であるならば、稼働能力のある人については、一定の職業訓練などを条件に、収入・資産要件を大幅に緩和した「第二のセイフティーネット」を創設するべきである。
【参考】伊藤周平『雇用崩壊と社会保障』(平凡社新書、2010)
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ここでは、雇用保障に係る提言を抜き書きする。
(1)労働者派遣法の廃止、当面の抜本的改革
1985年制定の労働者派遣法に代表される労働法の大幅な規制緩和が非正規労働者の拡大、その結果としての雇用破壊の原因となった。
よって、(ア)労働者派遣法を廃止する。失業の増大には、失業時の生活保障の拡充で対応しつつ、政府による雇用創出施策で労働市場改革を同時に進めていく。これを前提としたうえで、労働者派遣事法は廃止する。労働者派遣事業そのものを禁止する。
(イ)当面は同法の抜本的改正と派遣労働の徹底した例外化をおこなう。日雇い派遣、スポット派遣は弊害が多い。これらのみならず、登録型派遣、製造業派遣も例外なく禁止する。
(ウ)派遣労働自体を例外化する。当面は、1999年の労働者派遣法改正前のポジティブリスト方式(限定列挙方式)に戻す。
(エ)これらと並行して、労働者派遣事業に対する規制を強化する。たとえば、届出受理方式による特定等同社派遣事業を廃止する。すべて厚生労働大臣の認可を要件とし、雇用実態のない派遣業者は許可しない。
(オ)派遣労働者も、派遣先で直接雇用されている労働者との同一以上の待遇保障を義務づける。
(カ)違法派遣(無許可派遣、期間を越えた派遣、対象業務外派遣)がある場合には、派遣先に直接雇用義務があることを明確にする。
派遣労働のような低賃金・不安定雇用を残すと、労働条件がかぎりなく切り下げられていく。失業の増大よりも弊害が大きい。
ILO活動の目標「ディーセントワーク(働きがいのある仕事)」の保障にも反する。
適職・生活可能な職で働く権利は、労働者の人権である(世界人権宣言第23条)。
失業の増大には、失業時の生活保障の拡充で対応しつつ、政府による雇用創出施策で労働市場改革を同時に進めていく。
これを前提としたうえで、労働者派遣事法は廃止する。労働者派遣事業そのものを禁止する。
(2)企業の直接雇用責任の強化
派遣先=受け入れ企業の直接雇用責任を拡大する。
製造現場を中心に偽装請負方式での違法派遣が蔓延した(2006年頃から明らかになった)。こうした違法派遣には、派遣先と派遣労働者との間に労働契約関係が存在することを明確にする。派遣先企業の直接雇用責任を果たさせる(大阪高裁判決「松下プラズマディスプレイ事件」)。
(3)有期契約の規制
合理的な理由がない限り解雇できない(労働契約法第16条)。その一方で有期契約が拡大している。
業務が恒常的であるにもかかわらず労働契約に期間を設定する合理性はない。有期雇用自体が、期間満了という形で労働契約法の解雇規制をまぬがれるための脱法行為である。
そもそも、労働契約は期間の定めのない契約を原則とするべきである。
有期契約は、代替的、一時的、季節的な特別な業務の場合など、契約期間を定める合理的な理由のある場合にしか締結できないことを労働契約法に明記する。
そして、有期契約の場合にも、契約の締結に際し、期間の定めをする理由や更新の有無などについて、書面により労働者に通知することを義務づけるとともに、有期契約更新拒否についても一定の規制を加える。
(4)同一価値労働同一賃金原則の法定化
(ア)労働基準法に同原則の明示規定を盛りこむ。
(イ)それと並行して、客観的な職務評価制度を構築する。
同一価値労働同一賃金は、EU諸国の賃金体制には確立した原則である。
ILO100号条約は、同一価値労働同一賃金原則を規定する。日本は、批准したが(1951年)、とくに正規労働者と非正規労働者との賃金格差が先進諸国のなかでもきわめて大きく、しかも拡大傾向にある。
(5)最低賃金の引き上げと労働時間規制の強化
(ア)最低賃金を引き上げる。
2007年の最低賃金法改正により、生活保護との整合性を図る条項が盛りこまれた(第9条第3項)。しかし、最低賃金の機能が強化されたとはいえない。現状では生活保護基準の法的保養は不十分である。生活保護基準が引き下げられれば、最低賃金も引き下げられることになる。最低賃金を確実にするには、生活保護法の改正も併せて必要になる。
最低賃金決定過程の透明化、全国一律の最低賃金決定の方式も検討されてよい。
最低賃金の大幅な引き上げが必要だが、当面は生活保護との逆転現象の解消に重点をおいて女女に引き上げていく。
大企業や官庁の非正規労働者については、現時点でも最低賃金の大幅な引き上げは可能ではないか。
(イ)労働時間規制を強化する。
2010年の労働基準法改正で、月60時間超の時間外労働の割増賃金率は現行の25%から50%以上に改正された。残業抑制の実効性に疑問がある。サービス残業を強いられるおそれもある。
時間外労働の上限を法定し、一定以上の残業を禁止する規制が必要である。
(ウ)労働法令を遵守させる監督行政を強化する。
労働法令が適用される事業所は450~500万か所、役員を除く適用労働者は推定5,000万人。かたや、労働基準監督署は約350か所、労働基準監督官は約3,000人。
ILOの基準(監督官一人当たりの労働者数を最大1万人とする)にしたがえば、日本には最低5,000人の労働基準監督官が配置されなければならない。
(6)雇用保険の拡充と失業扶助制度の創設
(ア)雇用保険を拡充する。
非正規労働者を含め、労働者すべてを雇用保険の適用対象とすることが望ましい。
また、再就職できない人が多数にのぼる現在、給付日数の弾力的延長などをおこなう必要がある。
(イ)失業扶助制度を創設する。
英独仏端の各国では、失業給付期間を超えても、減額はされるが、一定額の給付が失業者に支給される失業扶助制度がある。失業保険の給付期間を超えた失業者だけではなく、失業保険に加入していなかったり、給付要件を満たさない失業者にも、一定の条件を満たせば給付される。
現在の日本では、生活保護への負荷がかかりすぎている。同じ公費支出であるならば、稼働能力のある人については、一定の職業訓練などを条件に、収入・資産要件を大幅に緩和した「第二のセイフティーネット」を創設するべきである。
【参考】伊藤周平『雇用崩壊と社会保障』(平凡社新書、2010)
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