●はじめに
スウェーデンという国は国民の政治的努力によって作られたのではないか?
日本人がもち続けている封建的な非合理性を、スウェーデン人はなぜいち早く脱却して、それこそ西欧民主主義国家のどこよりも進んだ民主主義的合理性を身につけることができたのか?
この問いに答える一つの試みが、論文、訓覇法子『スウェーデン共生社会「国民の家」を支える「国家-地方-市民社会」の連携』である。
訓覇さん、スウェーデン語で考え、スウェーデン語で読み書きする暮らしが長かったせいか、論文はいささか読みづらい。要約がてら、読みやすい文章に置き換えてみる。それだけの価値がある論文だ。
●論文の考察視点
近代工業社会においては、福祉の生産・供給責任は社会の3つのサブシステムが分担してきた。すわなち、①国家、②市場、③市民社会(家族・地域社会)・・・・である。
③の市民社会のひとつ、家族システムは、産業構造の変化や都市化などによって弱体化した。その家族システムを支えるため、所得分配政策や混合経済体制によって国家が国民生活の安全に最大の責任を負うこととした。この「大きな政府」の代表が福祉国家である。
福祉国家の対極に位置するのが新自由主義国家で、「小さな政府」と大きな市場を理想とする。
「大きな政府」、福祉国家は、産業化が進む先進諸国共通のコンセプトだった。
しかし、脱工業社会化が進行するにつれ、ケインズ的福祉国家は見直しと修正を余儀なくされた。さらに、国際化による経済システムの変容、官僚機構の肥大化、生活社会の植民地化(ハーバーマス)、人口の高齢化と少子化、女性就業率の増加、地域共同地や家族機能の弱体化など、現代社会が直面する危機は3つのサブシステム全体に及ぶ。
(1)終身雇用の形骸化、非正規雇用や勤労貧困層の増大など経済システムの不能、(2)企業内福祉の崩壊、市場拡大による地域共同体の弱体化によって生みだされた大量の国民の貧困化・・・・これが現在、日本のもっとも深刻な社会問題である。
生活が消費によって営まれる以上、市民社会は自らの力によるだけでは生活の安全を確保することはできない。経済システムおよび政治システムに大きく依存する。
しかるに、金融危機などの市場に失敗によって、多くの国民の生活の安全が脅かされている。最後の砦たる政治システムは、生活困窮者の救済をまっとうしていない。
社会のサブシステム間の相補関係に視点をおきたい。
特に重要なのは、政治システムにおける国家と地方自治の関係、そして政治システムと市民社会との関係である。
政治システムと市民社会との関係において、地方自治体は国家と個人の間のフィルター的役割をはたす。同時に、アソシエーションも国家と市民を連結する存在である。アソシエーションとは、任意に形成された市民社会の多様な組織、諸個人がその自由な選択意思により互いに契約して形成する連合体のことである。
国家を動かすのは国民の意思である。国民による統治を実現するための媒介的存在が地方自治であるならば、「国家-地方自治体-市民社会」の相互関係を考察しなければならない。
スウェーデンを考察の基軸にすえるのは、生活安全保障において、スウェーデンが日本ときわめて対照的な「大きな政府」だからだ。
スウェーデンは、福祉国家の条件の一つとして、「国民の生活条件の均等化・平等」、すなわち「反・格差社会」、「共生社会」の実現を重要な民主主義的政治課題として追求してきた。スウェーデンの貧困率は5.3%で、15.3%の日本の3分の1にすぎない。
生活保護制度などの選別的福祉の力だけでは、今日の国民生活の安全を守りきることはできない。
さらに考察していく視点は、資本主義体制の安全弁ではあるが、国民生活の根幹に大きくかかわる社会政策的視点である。
新自由主義者の「大きな政府」批判につきまとうのは、社会権が拡大することで、市場への自由権を侵害する点だ。
共生社会を構築するにあたり、自由権と社会権とは、どのように融合していけばよいのか。
スウェーデン型福祉国家「国民の家」という共生社会の構築において、国家、地方自治体、市民社会はそれぞれどのような努力を払い、互いに連携してきたのだろうか。
このような複眼的視点にたつことで、はじめてスウェーデンという福祉国家とその市民との関係(ダイナミックス)を理解できる。
【参考】訓覇法子『スウェーデン共生社会「国民の家」を支える「国家-地方-市民社会」の連携』(「社会福祉研究」第104号、財団法人鉄道弘済会、2009年4月号)
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スウェーデンという国は国民の政治的努力によって作られたのではないか?
日本人がもち続けている封建的な非合理性を、スウェーデン人はなぜいち早く脱却して、それこそ西欧民主主義国家のどこよりも進んだ民主主義的合理性を身につけることができたのか?
この問いに答える一つの試みが、論文、訓覇法子『スウェーデン共生社会「国民の家」を支える「国家-地方-市民社会」の連携』である。
訓覇さん、スウェーデン語で考え、スウェーデン語で読み書きする暮らしが長かったせいか、論文はいささか読みづらい。要約がてら、読みやすい文章に置き換えてみる。それだけの価値がある論文だ。
●論文の考察視点
近代工業社会においては、福祉の生産・供給責任は社会の3つのサブシステムが分担してきた。すわなち、①国家、②市場、③市民社会(家族・地域社会)・・・・である。
③の市民社会のひとつ、家族システムは、産業構造の変化や都市化などによって弱体化した。その家族システムを支えるため、所得分配政策や混合経済体制によって国家が国民生活の安全に最大の責任を負うこととした。この「大きな政府」の代表が福祉国家である。
福祉国家の対極に位置するのが新自由主義国家で、「小さな政府」と大きな市場を理想とする。
「大きな政府」、福祉国家は、産業化が進む先進諸国共通のコンセプトだった。
しかし、脱工業社会化が進行するにつれ、ケインズ的福祉国家は見直しと修正を余儀なくされた。さらに、国際化による経済システムの変容、官僚機構の肥大化、生活社会の植民地化(ハーバーマス)、人口の高齢化と少子化、女性就業率の増加、地域共同地や家族機能の弱体化など、現代社会が直面する危機は3つのサブシステム全体に及ぶ。
(1)終身雇用の形骸化、非正規雇用や勤労貧困層の増大など経済システムの不能、(2)企業内福祉の崩壊、市場拡大による地域共同体の弱体化によって生みだされた大量の国民の貧困化・・・・これが現在、日本のもっとも深刻な社会問題である。
生活が消費によって営まれる以上、市民社会は自らの力によるだけでは生活の安全を確保することはできない。経済システムおよび政治システムに大きく依存する。
しかるに、金融危機などの市場に失敗によって、多くの国民の生活の安全が脅かされている。最後の砦たる政治システムは、生活困窮者の救済をまっとうしていない。
社会のサブシステム間の相補関係に視点をおきたい。
特に重要なのは、政治システムにおける国家と地方自治の関係、そして政治システムと市民社会との関係である。
政治システムと市民社会との関係において、地方自治体は国家と個人の間のフィルター的役割をはたす。同時に、アソシエーションも国家と市民を連結する存在である。アソシエーションとは、任意に形成された市民社会の多様な組織、諸個人がその自由な選択意思により互いに契約して形成する連合体のことである。
国家を動かすのは国民の意思である。国民による統治を実現するための媒介的存在が地方自治であるならば、「国家-地方自治体-市民社会」の相互関係を考察しなければならない。
スウェーデンを考察の基軸にすえるのは、生活安全保障において、スウェーデンが日本ときわめて対照的な「大きな政府」だからだ。
スウェーデンは、福祉国家の条件の一つとして、「国民の生活条件の均等化・平等」、すなわち「反・格差社会」、「共生社会」の実現を重要な民主主義的政治課題として追求してきた。スウェーデンの貧困率は5.3%で、15.3%の日本の3分の1にすぎない。
生活保護制度などの選別的福祉の力だけでは、今日の国民生活の安全を守りきることはできない。
さらに考察していく視点は、資本主義体制の安全弁ではあるが、国民生活の根幹に大きくかかわる社会政策的視点である。
新自由主義者の「大きな政府」批判につきまとうのは、社会権が拡大することで、市場への自由権を侵害する点だ。
共生社会を構築するにあたり、自由権と社会権とは、どのように融合していけばよいのか。
スウェーデン型福祉国家「国民の家」という共生社会の構築において、国家、地方自治体、市民社会はそれぞれどのような努力を払い、互いに連携してきたのだろうか。
このような複眼的視点にたつことで、はじめてスウェーデンという福祉国家とその市民との関係(ダイナミックス)を理解できる。
【参考】訓覇法子『スウェーデン共生社会「国民の家」を支える「国家-地方-市民社会」の連携』(「社会福祉研究」第104号、財団法人鉄道弘済会、2009年4月号)
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