(1)スウェーデンの国民性
個性と精神的自立心が強いのがスウェーデンの国民性である。しかも、その個性は、社会民主党政権の自由・平等・共生の理念に裏打ちされている。
(2)スウェーデン企業の戦略
したがって、企業がスウェーデンで成功するためには、顧客の個性を尊重し、顧客の生活意識の高さに応える企業戦略を展開しなくてはならない。しかも、すべての国民を顧客とする戦略である。
ここから商品の多様化が生まれ(画一的な商品はつくらない)、商品の低価格が実現する(特定の層のみをターゲットとする商品をつくらない)。
多様化と低価格とのバランスをはかりながら、全国民を顧客とする・・・・それがスウェーデン企業の戦略である。
(3)企業の社会的責任
スウェーデンの企業は、社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)をはたすことに熱心である。社会的責任とは、厳格な品質管理と生産過程の監視、企業の説明責任と透明性、被雇用労働者の環境整備、地球環境に対する配慮などである。
CSRをはたすことで、国民に商品の安全と安心を提供する。
と同時に、商品のクォリティを高めている。
CSRによって商品のクォリティを高めることで、商品の競争力を高めている。
スウェーデンは、CSRで世界第一位、環境分野でOECD加盟国第一位、社会の持続可能性分野で世界第一位の評価を得ている。
(4)H&M
H&M(Hennes & Mauriz)の創業は、1947年である。婦人服専門の店からスタートして、今日の巨大企業に成長した。2009年度通期決算では、売上高は衣料品専門店で世界第一位(165億8,600万ドル)、世界37か国に1,988店舗、7万6,000人以上の従業員をかかえる。
H&Mの商品は、世界で支持されている。
H&Mは、老若男女すべての人の個性に合わせたさまざまなデザインの商品を提供しようとする。一部の金持ち層にのみ受け入れられるようなセレブ志向の商品展開はおこなわない。
顧客は、H&Mの商品によって、自分が自分であることを主張し、自分らしさを発揮できる。自分の個性を外にむけてアピールできる。
H&Mの品質のよさ、多様なデザイン、納得のいく価格は、すべての顧客の受け入れるところとなる。
品質のよさは、高い素材を使って高級仕様の商品をつくることではない。厳しい品質管理と正しい生産工程の構築のみならず、環境への配慮も商品のクォリティを高めている。また、労働者の権利を守り、コスト削減のしわ寄せが労働者に向かうことのない環境づくりも配慮している。
低価格ではあるが、画一的ではない商品のため、H&Mは、商品構成の企画、仕入生産、物流・配送、店舗のアレンジメント、エネルギー消費など、さまざまなところで工夫をこらし、コストを削減している。
H&Mの経営陣は、定期的に売り場にでて、顧客にじかに接する。ファッションをリードするのは個性を知る顧客であり、企業側ではない、という認識が底にあるからだ。
日本のユニクロは、人件費や流通コストを大幅に削減し、低価格商品を展開する。ユニクロに経済的メッセージはあっても、社会的メッセージ性は薄い。また、ユニクロは、最近顧客セグメントの手法を取り入れ、若い女性客をターゲットにした商品開発や店舗展開をおこなっている。他方、H&Mはすべての顧客をターゲットとする。
スペイン国内で生産していたZARAの商品展開のコンセプトは、ファッション・トレンドの追求だ。ひとつのアイデアが商品化されるまでのスピードの速さがZARAの特徴である。他方、H&Mも商品化のスピードの速さを競うが、ZARAとちがってトレンドを追わない。個々の顧客のライフスタイルにあった商品展開が基本である。
(5)イケア
H&Mとならんでスウェーデン・ヴァリューを体現しているイケアは、1943年、イングヴァル・カンプラードが17歳のとき始めた雑貨商に端を発する。2009年度末現在、世界25か国に267店舗、従業員数10万人超、売上高2兆4,000億円の巨大企業に成長した。
カンプラードは、平等と個性の尊重、共生などの価値を経営の基本においている。いまなお社会民主党を支持し、元首相ハンソンの「国民の家」の理念に共鳴している。競争・効率・株主至上主義の米国的企業経営を痛烈に批判していることでも名高い。
現在、オランダに本社をおくスティヒティング・インカ・ファウンデーションがイケアの持ち株会社インカ・ホールディンッグスを所有している。イケア・グループは、この持ち株会社インカ・ホールディングスの傘下にある。
スティヒティング・インカ・ファウンデーションは、カンプラードが1985年に設立した慈善団体だ。慈善団体に最終的に会社の支配権を委ねるやり方は、欧米ではよく見られる。「誰にも支配されない会社」をつくろうというわけだ。
イケアの商品コンセプトは、H&Mと酷似している。イケア製品の特徴は、デザイン性、機能性、廉価にある。
デザインの多様性は、イケアのセールス・ポイントである。多様なデザインの家具やキッチン用品は、自分らしい生活空間の演出を可能にする。自分にあったファッションは個性の主張だが、自分にあった暮らしの演出も個性の発揮である。
フラット・バックは、イケアの特徴だ。つまり、商品を分解して販売し、顧客が組み立てる販売方式だ。顧客は、家具の組み立てという能動的な行為によって、みずからの個性を表現するわけだ。
イケアは、1974年に日本に進出したが、1986年に撤退した。当時の日本では、DIY(Do It Yourself)、自分で家具などを組み立てる販売方法が受け入れられなかったのである。顧客自ら生活空間を演出する楽しさより、組み立てる煩わしさのほうが、当時の日本人には大きかった。国民性のちがいというべきか。
イケアは、2006年、再度日本に進出した。その後順調に店舗を拡大し、成功をおさめている。日本人も変わりつつあるらしい。
(6)個性と平等
H&Mやイケアの企業戦略の根底に、徹底した個性の尊重がある。人には、外見のみならず内面的にも異なる価値観、美意識、習慣があって、それらを個性と目するならば、個性の尊重は人間を平等に扱うことを意味する。
個性の尊重による自由・平等・共生の社会の実現は、戦後、社会民主党政権が推進してきたことだ。こうした長い歴史をへて形成されたスウェーデンの個性的で自立心の強い国民性、そのスウェーデン人を顧客として成長してきたのがH&Mやイケアである。
H&Mやイケアの商品は、世界共通仕様で、とくに日本向けにアレンジした商品はない。
イケアは、顧客自ら家具を組み立てるところに価値がある、と考える。しかし、その考えは欧米人には受け入れられても、日本の顧客にはなかなか通用しないようだ。イケアは、「家具を自らつくりあげ、生活空間を演出することの楽しさ」「インテリアを創造することの面白さ」を体感できるイベント、セミナーなどを開催し、日本の顧客を啓発している。
H&Mやイケアの企業戦略は、現在の世界企業のスタンダードではない。むしろ、株主至上主義の企業経営からすれば異端である。
しかし、安心で安全な商品の追求、さまざまなレベルで企業の社会的責任をはたすことが企業利益の増大につながる・・・・との認識が先進諸国で広まりつつある。H&Mやイケアが注目されるゆえんだ。
【参考】北岡孝義『スウェーデンはなぜ強いのか -国家と企業の戦略を探る-』(PHP新書、2010)
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個性と精神的自立心が強いのがスウェーデンの国民性である。しかも、その個性は、社会民主党政権の自由・平等・共生の理念に裏打ちされている。
(2)スウェーデン企業の戦略
したがって、企業がスウェーデンで成功するためには、顧客の個性を尊重し、顧客の生活意識の高さに応える企業戦略を展開しなくてはならない。しかも、すべての国民を顧客とする戦略である。
ここから商品の多様化が生まれ(画一的な商品はつくらない)、商品の低価格が実現する(特定の層のみをターゲットとする商品をつくらない)。
多様化と低価格とのバランスをはかりながら、全国民を顧客とする・・・・それがスウェーデン企業の戦略である。
(3)企業の社会的責任
スウェーデンの企業は、社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)をはたすことに熱心である。社会的責任とは、厳格な品質管理と生産過程の監視、企業の説明責任と透明性、被雇用労働者の環境整備、地球環境に対する配慮などである。
CSRをはたすことで、国民に商品の安全と安心を提供する。
と同時に、商品のクォリティを高めている。
CSRによって商品のクォリティを高めることで、商品の競争力を高めている。
スウェーデンは、CSRで世界第一位、環境分野でOECD加盟国第一位、社会の持続可能性分野で世界第一位の評価を得ている。
(4)H&M
H&M(Hennes & Mauriz)の創業は、1947年である。婦人服専門の店からスタートして、今日の巨大企業に成長した。2009年度通期決算では、売上高は衣料品専門店で世界第一位(165億8,600万ドル)、世界37か国に1,988店舗、7万6,000人以上の従業員をかかえる。
H&Mの商品は、世界で支持されている。
H&Mは、老若男女すべての人の個性に合わせたさまざまなデザインの商品を提供しようとする。一部の金持ち層にのみ受け入れられるようなセレブ志向の商品展開はおこなわない。
顧客は、H&Mの商品によって、自分が自分であることを主張し、自分らしさを発揮できる。自分の個性を外にむけてアピールできる。
H&Mの品質のよさ、多様なデザイン、納得のいく価格は、すべての顧客の受け入れるところとなる。
品質のよさは、高い素材を使って高級仕様の商品をつくることではない。厳しい品質管理と正しい生産工程の構築のみならず、環境への配慮も商品のクォリティを高めている。また、労働者の権利を守り、コスト削減のしわ寄せが労働者に向かうことのない環境づくりも配慮している。
低価格ではあるが、画一的ではない商品のため、H&Mは、商品構成の企画、仕入生産、物流・配送、店舗のアレンジメント、エネルギー消費など、さまざまなところで工夫をこらし、コストを削減している。
H&Mの経営陣は、定期的に売り場にでて、顧客にじかに接する。ファッションをリードするのは個性を知る顧客であり、企業側ではない、という認識が底にあるからだ。
日本のユニクロは、人件費や流通コストを大幅に削減し、低価格商品を展開する。ユニクロに経済的メッセージはあっても、社会的メッセージ性は薄い。また、ユニクロは、最近顧客セグメントの手法を取り入れ、若い女性客をターゲットにした商品開発や店舗展開をおこなっている。他方、H&Mはすべての顧客をターゲットとする。
スペイン国内で生産していたZARAの商品展開のコンセプトは、ファッション・トレンドの追求だ。ひとつのアイデアが商品化されるまでのスピードの速さがZARAの特徴である。他方、H&Mも商品化のスピードの速さを競うが、ZARAとちがってトレンドを追わない。個々の顧客のライフスタイルにあった商品展開が基本である。
(5)イケア
H&Mとならんでスウェーデン・ヴァリューを体現しているイケアは、1943年、イングヴァル・カンプラードが17歳のとき始めた雑貨商に端を発する。2009年度末現在、世界25か国に267店舗、従業員数10万人超、売上高2兆4,000億円の巨大企業に成長した。
カンプラードは、平等と個性の尊重、共生などの価値を経営の基本においている。いまなお社会民主党を支持し、元首相ハンソンの「国民の家」の理念に共鳴している。競争・効率・株主至上主義の米国的企業経営を痛烈に批判していることでも名高い。
現在、オランダに本社をおくスティヒティング・インカ・ファウンデーションがイケアの持ち株会社インカ・ホールディンッグスを所有している。イケア・グループは、この持ち株会社インカ・ホールディングスの傘下にある。
スティヒティング・インカ・ファウンデーションは、カンプラードが1985年に設立した慈善団体だ。慈善団体に最終的に会社の支配権を委ねるやり方は、欧米ではよく見られる。「誰にも支配されない会社」をつくろうというわけだ。
イケアの商品コンセプトは、H&Mと酷似している。イケア製品の特徴は、デザイン性、機能性、廉価にある。
デザインの多様性は、イケアのセールス・ポイントである。多様なデザインの家具やキッチン用品は、自分らしい生活空間の演出を可能にする。自分にあったファッションは個性の主張だが、自分にあった暮らしの演出も個性の発揮である。
フラット・バックは、イケアの特徴だ。つまり、商品を分解して販売し、顧客が組み立てる販売方式だ。顧客は、家具の組み立てという能動的な行為によって、みずからの個性を表現するわけだ。
イケアは、1974年に日本に進出したが、1986年に撤退した。当時の日本では、DIY(Do It Yourself)、自分で家具などを組み立てる販売方法が受け入れられなかったのである。顧客自ら生活空間を演出する楽しさより、組み立てる煩わしさのほうが、当時の日本人には大きかった。国民性のちがいというべきか。
イケアは、2006年、再度日本に進出した。その後順調に店舗を拡大し、成功をおさめている。日本人も変わりつつあるらしい。
(6)個性と平等
H&Mやイケアの企業戦略の根底に、徹底した個性の尊重がある。人には、外見のみならず内面的にも異なる価値観、美意識、習慣があって、それらを個性と目するならば、個性の尊重は人間を平等に扱うことを意味する。
個性の尊重による自由・平等・共生の社会の実現は、戦後、社会民主党政権が推進してきたことだ。こうした長い歴史をへて形成されたスウェーデンの個性的で自立心の強い国民性、そのスウェーデン人を顧客として成長してきたのがH&Mやイケアである。
H&Mやイケアの商品は、世界共通仕様で、とくに日本向けにアレンジした商品はない。
イケアは、顧客自ら家具を組み立てるところに価値がある、と考える。しかし、その考えは欧米人には受け入れられても、日本の顧客にはなかなか通用しないようだ。イケアは、「家具を自らつくりあげ、生活空間を演出することの楽しさ」「インテリアを創造することの面白さ」を体感できるイベント、セミナーなどを開催し、日本の顧客を啓発している。
H&Mやイケアの企業戦略は、現在の世界企業のスタンダードではない。むしろ、株主至上主義の企業経営からすれば異端である。
しかし、安心で安全な商品の追求、さまざまなレベルで企業の社会的責任をはたすことが企業利益の増大につながる・・・・との認識が先進諸国で広まりつつある。H&Mやイケアが注目されるゆえんだ。
【参考】北岡孝義『スウェーデンはなぜ強いのか -国家と企業の戦略を探る-』(PHP新書、2010)
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