税・社会保険料負担が重くなると、国民の勤労意欲や企業の活力が損なわれ、経済成長を阻害する・・・・という説は誤りである。
1990年代をつうじて、スウェーデンの租税・社会保障負担の対GDP比は世界最高水準で推移している。日本は先進諸国のうちでは比較的低い水準で推移している。ところが、1990年代初めは日本がスウェーデンより成長率が高いが、1990年代なかば以降は1996年を除きスウェーデンのほうが日本より成長率が高い。
租税・社会保障負担が経済成長率の水準に決定的な影響を与えているとは考えにくい。
「高負担」の国にかなり経済活力が確保されているのはなぜか。さまざまの要因が複合的に関係しているのでいちがいにいえないが、次のような傾向が理由として考えられる。
(1)負担の大部分は国民に還元されている。
負担の6割以上が現金給付、保健医療サービス、社会サービスなどの形で国民に還元される。これが国民に安心感を与える。その安心感が就労生活や消費生活を支えている。いわば貯金のようなもの、という理解だ。
(2)社会保障制度が現役世代にとってもメリットが感じられるものとなっている。
社会保障給付費の内訳において、家族現金給付(児童手当・育児休業時の所得補償等)、家族サービス(保育サービス等)、積極的労働市場施策(職業訓練等)といった現役世代が受益者となる給付の比重が、他の先進諸国(特に日本)と比較して大きい。これが労働者に安心感をもたらしている。
また、現役世代も高齢世代も区別なく付加価値税(日本の消費税に相当する)の税率が25%と非常に高い。現役世代に極端に偏った負担とはなっていない。
(3)社会保障制度が高額所得者にとってもメリットが感じられる制度となっている。
普遍主義の原則により、ほとんどの現金給付やサービスは所得審査を行わずに提供される。
また、所得水準が高くなる所得比例の現金給付も多い(傷病手当・両親手当等)。所得比例年金もそうだが、上限額がある。
(4)公的な負担によって指摘な負担が軽減されている。
公的制度がカバーする範囲を縮小しても、その給付が個々の人に必要なものであれば、その分は民間サービスの購入や家族の無償労働等により対応せざるをえない。結局、何らかの形で国民が負担することには変わりがない。
個々の人がバラバラに自らのリスクに備えるよりも、公的制度をつうじて専門家が全体的に対応したほうが効率的になる。
(5)企業にとっての立地条件は総合的にみて良好である。
社会保険料は高いが、賃金をふくめた労働費用を他の先進諸国と比較した場合、それほど際だって高いわけではない。しかも、法人税率28%は先進諸国のなかで低い水準である。
労働者の教育水準の高さ、電気代・通信費等の安さ、整備の進んだインフラストラクチャーなどもふくめて総合的に評価すれば、企業にとって立地条件のよい国である。
(6)社会保障への公的資金の投入は経済成長を促進する波及効果を持ち得る。
保健医療サービスや福祉サービスは、単に消費されるだけのものではない。新たな需要が生みだされ、それがさまざまな産業部門に波及して生産額の増加をもたらす。こうした過程をつうじて生じた雇用の増加や賃金の増加が消費支出の増加をもたらし、これがまた生産額の増加につながる。
育児休業時の所得補償制度や保育サービスの充実は、優秀な女性労働者の雇用確保につうじる。また、職業訓練などの労働者再教育に係る制度の充実は、企業の合理化に対する労働者の反発をやわらげるし、新しい技術・知識を修得した人材の確保が容易になるので、産業構造転換を促進する。
(7)公的制度において効率化に向けたインセンティブが働いている。
スウェーデンでは、1990年代に入ってから、財政に関わる諸制度や社会保障制度等の分野で急速に効率化が図られた。これが経済回復と安定に寄与し、ひいては高福祉国家の堅持にも貢献した。
【参考】井上誠一『高福祉・高負担国家 スウェーデンの分析 -21世紀型社会保障のヒント-』(中央法規、2003)
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1990年代をつうじて、スウェーデンの租税・社会保障負担の対GDP比は世界最高水準で推移している。日本は先進諸国のうちでは比較的低い水準で推移している。ところが、1990年代初めは日本がスウェーデンより成長率が高いが、1990年代なかば以降は1996年を除きスウェーデンのほうが日本より成長率が高い。
租税・社会保障負担が経済成長率の水準に決定的な影響を与えているとは考えにくい。
「高負担」の国にかなり経済活力が確保されているのはなぜか。さまざまの要因が複合的に関係しているのでいちがいにいえないが、次のような傾向が理由として考えられる。
(1)負担の大部分は国民に還元されている。
負担の6割以上が現金給付、保健医療サービス、社会サービスなどの形で国民に還元される。これが国民に安心感を与える。その安心感が就労生活や消費生活を支えている。いわば貯金のようなもの、という理解だ。
(2)社会保障制度が現役世代にとってもメリットが感じられるものとなっている。
社会保障給付費の内訳において、家族現金給付(児童手当・育児休業時の所得補償等)、家族サービス(保育サービス等)、積極的労働市場施策(職業訓練等)といった現役世代が受益者となる給付の比重が、他の先進諸国(特に日本)と比較して大きい。これが労働者に安心感をもたらしている。
また、現役世代も高齢世代も区別なく付加価値税(日本の消費税に相当する)の税率が25%と非常に高い。現役世代に極端に偏った負担とはなっていない。
(3)社会保障制度が高額所得者にとってもメリットが感じられる制度となっている。
普遍主義の原則により、ほとんどの現金給付やサービスは所得審査を行わずに提供される。
また、所得水準が高くなる所得比例の現金給付も多い(傷病手当・両親手当等)。所得比例年金もそうだが、上限額がある。
(4)公的な負担によって指摘な負担が軽減されている。
公的制度がカバーする範囲を縮小しても、その給付が個々の人に必要なものであれば、その分は民間サービスの購入や家族の無償労働等により対応せざるをえない。結局、何らかの形で国民が負担することには変わりがない。
個々の人がバラバラに自らのリスクに備えるよりも、公的制度をつうじて専門家が全体的に対応したほうが効率的になる。
(5)企業にとっての立地条件は総合的にみて良好である。
社会保険料は高いが、賃金をふくめた労働費用を他の先進諸国と比較した場合、それほど際だって高いわけではない。しかも、法人税率28%は先進諸国のなかで低い水準である。
労働者の教育水準の高さ、電気代・通信費等の安さ、整備の進んだインフラストラクチャーなどもふくめて総合的に評価すれば、企業にとって立地条件のよい国である。
(6)社会保障への公的資金の投入は経済成長を促進する波及効果を持ち得る。
保健医療サービスや福祉サービスは、単に消費されるだけのものではない。新たな需要が生みだされ、それがさまざまな産業部門に波及して生産額の増加をもたらす。こうした過程をつうじて生じた雇用の増加や賃金の増加が消費支出の増加をもたらし、これがまた生産額の増加につながる。
育児休業時の所得補償制度や保育サービスの充実は、優秀な女性労働者の雇用確保につうじる。また、職業訓練などの労働者再教育に係る制度の充実は、企業の合理化に対する労働者の反発をやわらげるし、新しい技術・知識を修得した人材の確保が容易になるので、産業構造転換を促進する。
(7)公的制度において効率化に向けたインセンティブが働いている。
スウェーデンでは、1990年代に入ってから、財政に関わる諸制度や社会保障制度等の分野で急速に効率化が図られた。これが経済回復と安定に寄与し、ひいては高福祉国家の堅持にも貢献した。
【参考】井上誠一『高福祉・高負担国家 スウェーデンの分析 -21世紀型社会保障のヒント-』(中央法規、2003)
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