1990年代中頃からの「失われた15年」の間に、日本の世帯所得は低下した。世帯あたりの平均所得は、659.6万円(1995年)から556.2万円(2007年)へと、約100万円、率では15.7%ほど低下した【注1】。
世帯所得の分布をみると、中間所得世帯(Y:300~700万円)の比率がほぼ不変だった反面、それより所得の高い世帯(Z:700万円以上)の比率が減り、より所得が低い世帯(X:300万円未満)の比率がほぼ同じだけ増加した【注2】。
「Xの比率が増加して、Zの比率が低下する」という現象は、各所得階層の所得が等しい率で減少しても生じる。この場合、物価の変化はどの家計でも同じなので、実質所得の変化率はどの家計でも同じである。何の問題も生じない。
しかし、実際に生じたのは、こんなことではなかった。ジニ係数が上昇したからだ【注3】。
1995年と2007年の所得分布をみると、平均所得以上の階層では、どの階層でも所得が12年間に100万円ほど低下した(と解釈できる)。
同じ率ではなく、同じ額だけ低下したので、低所得ほど低下率は高くなる。
物価下落は誰にとっても同じだ。したがって、低所得では実質賃金が大きく下落したが、高所得では実質賃金はさほど下落しなかった。
高所得世帯(Z-2:1,000万円以上)の比率もあまり変わっていない。1995年が18%、2007年が12%である。
なお、1995年から12年間に世帯総数が増えている。増加率は人口増加率(2%)よりも大きい。つまり世帯は細分化されたことになる。特にXにおいて、高齢者や若年層の単身世帯が増えた(可能性がある)。
Xでは、YやZとは異なる現象が生じている。600~700万円以下では増加している。ことに。400~500万円以下で顕著である。これは、生存に必要な水準以下に所得を減らすことはできないからだ。生活保護や最低賃金レベルの年間150万円程度が世帯所得の一応の下限であり、これより世帯所得を下げることは困難である。
そこから300万円程度までの所得水準において、「底だまり」「吹きだまり」的現象が発生することになる。
実体面では、それまでは正規労働者によって担当されていた仕事が非正規労働者に変わることによって、こうした現象が生じるのであろう。
高度成長期の日本は、しばしば「一億総中間階層社会」とか「平等社会」と言われた。正確には、所得格差は存在していた。ただし、すべての階層の所得がほぼ比例的に上昇したので、格差が拡大することはなかった。
しかるに、1990年代後半以降、底辺所得世帯が増える反面、高額所得世帯はあまり影響を受けなかった。
つまり、二極分化が進み、格差が拡大したわけだ。
こうなった背景は、外需依存のための新興国との競争である。競争のために低賃金労働が必要となり、他方で企業利益は増加したのだ。
これまで日本社会に存在した階層間の安定は破壊され、貧しくなった低賃金・低所得階層とあまり影響を受けなかった上流階層に分解した。
このような日本社会の変化は、消費動向、資産動向などにも大きな影響を与えた。自動車保有率の低下なども、これによってもたらされた(可能性がある)。
【注1】「国民生活基礎調査」(厚生労働省)による。
【注2】Xの比率は、22.4%(1995年)から31.3%(2007年)に増加した。他方、Zの比率は、37.2%(1995年)から27.5%(2007年)に低下した。Yは、40.4%(1995年)と41.4%(2007年)で、あまり変化していない。
【注3】総務省統計局の「全国消費者実態調査」によれば、2人以上世帯の年間収入のジニ係数は0.297(1994年)から0.308(2004年)まで上昇した。つまり、この間の所得の変化は、一定率の縮小ではなく、格差を拡大させるようなものだった。
【参考】野口悠紀雄「経済危機後の大転換 ~ニッポンの選択第28回~」(「週刊東洋経済」2010年8月28日号所収)
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【BC書評】


世帯所得の分布をみると、中間所得世帯(Y:300~700万円)の比率がほぼ不変だった反面、それより所得の高い世帯(Z:700万円以上)の比率が減り、より所得が低い世帯(X:300万円未満)の比率がほぼ同じだけ増加した【注2】。
「Xの比率が増加して、Zの比率が低下する」という現象は、各所得階層の所得が等しい率で減少しても生じる。この場合、物価の変化はどの家計でも同じなので、実質所得の変化率はどの家計でも同じである。何の問題も生じない。
しかし、実際に生じたのは、こんなことではなかった。ジニ係数が上昇したからだ【注3】。
1995年と2007年の所得分布をみると、平均所得以上の階層では、どの階層でも所得が12年間に100万円ほど低下した(と解釈できる)。
同じ率ではなく、同じ額だけ低下したので、低所得ほど低下率は高くなる。
物価下落は誰にとっても同じだ。したがって、低所得では実質賃金が大きく下落したが、高所得では実質賃金はさほど下落しなかった。
高所得世帯(Z-2:1,000万円以上)の比率もあまり変わっていない。1995年が18%、2007年が12%である。
なお、1995年から12年間に世帯総数が増えている。増加率は人口増加率(2%)よりも大きい。つまり世帯は細分化されたことになる。特にXにおいて、高齢者や若年層の単身世帯が増えた(可能性がある)。
Xでは、YやZとは異なる現象が生じている。600~700万円以下では増加している。ことに。400~500万円以下で顕著である。これは、生存に必要な水準以下に所得を減らすことはできないからだ。生活保護や最低賃金レベルの年間150万円程度が世帯所得の一応の下限であり、これより世帯所得を下げることは困難である。
そこから300万円程度までの所得水準において、「底だまり」「吹きだまり」的現象が発生することになる。
実体面では、それまでは正規労働者によって担当されていた仕事が非正規労働者に変わることによって、こうした現象が生じるのであろう。
高度成長期の日本は、しばしば「一億総中間階層社会」とか「平等社会」と言われた。正確には、所得格差は存在していた。ただし、すべての階層の所得がほぼ比例的に上昇したので、格差が拡大することはなかった。
しかるに、1990年代後半以降、底辺所得世帯が増える反面、高額所得世帯はあまり影響を受けなかった。
つまり、二極分化が進み、格差が拡大したわけだ。
こうなった背景は、外需依存のための新興国との競争である。競争のために低賃金労働が必要となり、他方で企業利益は増加したのだ。
これまで日本社会に存在した階層間の安定は破壊され、貧しくなった低賃金・低所得階層とあまり影響を受けなかった上流階層に分解した。
このような日本社会の変化は、消費動向、資産動向などにも大きな影響を与えた。自動車保有率の低下なども、これによってもたらされた(可能性がある)。
【注1】「国民生活基礎調査」(厚生労働省)による。
【注2】Xの比率は、22.4%(1995年)から31.3%(2007年)に増加した。他方、Zの比率は、37.2%(1995年)から27.5%(2007年)に低下した。Yは、40.4%(1995年)と41.4%(2007年)で、あまり変化していない。
【注3】総務省統計局の「全国消費者実態調査」によれば、2人以上世帯の年間収入のジニ係数は0.297(1994年)から0.308(2004年)まで上昇した。つまり、この間の所得の変化は、一定率の縮小ではなく、格差を拡大させるようなものだった。
【参考】野口悠紀雄「経済危機後の大転換 ~ニッポンの選択第28回~」(「週刊東洋経済」2010年8月28日号所収)
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