東京証券取引所の一部上場企業522者の2010年4~6月期決算で、経常利益が前年同期比約4.3倍になった。
しかし、これをもって国内企業の復調が鮮明になった、とすることはできない。
利益の前年同期比が高かったのは、2009年4~6月期の水準が非常に低かったからである。この期には、製造業はほとんどが赤字だった。電機は5,000億円、自動車は1,664億円の赤字だった。日本経済は文字どおり「奈落の底」に落ちこんでいたのである。
だから、この時点と比較した伸び率は、きわめて高い値になる。そのため「順調に成長している」という錯覚に陥るのだ。
今年は、これが黒字に転換した。しかし、黒字といっても、電機で6,494億円、自動車で7,260億円である。経済危機前、トヨタ自動車1社で年間2兆円を超える利益があったことを思うと隔世の感がある。
前述の上場企業利益でみると、リーマン・ショック前に比べてまだ92%の水準でしかない。つまり、まだ経済危機前には回復していない。
しかも、電機と自動車は、政府支援の特需に支えられている。また、雇用調整助成金の支援もある。
しかし、この施策は需要を増加させたのでなく将来の需要を先食いしただけだ。自動車の購入支援策が9月に、電機の支援策が今年中に終了すれば、需要は急減する。
また、2009年には中国に対する輸出が急激に伸びたが、今後は同じようには伸びないだろう。
だから、よくてピークの8~9割の水準を維持できるだけで、それを超すことは当分のあいだはできないだろう。平均株価は、ピーク時(2007年7月頃)の52%程度の水準でしかないが、これが利益の長期的見通しを示している、とみてよい。
日本の企業は、黒字になったというものの、利益率は非常に低い。
利益率は、事業モデルが経済の構造変化に対応しているか否かを示す。
総資本利益率(ROA)を見るのがよい。「1単位の資本投入でどれだけの利益が得られるか」
通常用いられる自己資本利益率(ROE)は、借入を増やせば事業の実態が変わらなくとも上昇してしまう。ROAは、こういう操作の影響を受けない。
2010年3月期連結決算においける日本企業のROAは、次のとおりだ。ホンダ2.3%、トヨタ0.7%、日産0.4%、ソニー▲0.3%、東芝▲0.4%、日立製作所1.2%。
主要企業のROAは、ホンダを除けば国債の利回りよりかなり低い。しかも、政府による購入支援策が与えられている状況での数字である。
ホンダの場合、2008年のROAは4.9%だったから、半分以下に低下したことになる。
これは経済危機後、需要の動向が利益率を引き下げる方向に変わったことを示している。
それは、新興国シフトだ。新興国向けの伸びが高いということの実態は、「利益の高い先進国が伸びないので、利益率の低い新興国に向かざるをえない」ということだ。
アメリカ企業のROAをみると、次のとおりだ。マイクロソフト18.8%、アップル18.4%、グーグル14.1%、IBM11.5%。
日本企業の利益率とは隔絶的な差がある。しかも、これは政府の支援に支えられたものではない。また、外需に依存するものでもないので、為替レートの変動によって動いてしまうものでもない。新しい技術に支えられたものだ。だから、将来の動向にあまり大きな不確実性はない。日本企業とはまったく異質の事業を展開しているとしか考えようがない。
ここでみた先端的企業以外の企業もふくむダウ平均株価でみても、現在の水準はピーク(2007年7月)の77%である。日本の52%と比べると、だいぶ高い。
今回の決算をみて日本企業が順調に回復していると考えるのは、大きな誤りだ。
「基本的な方向転換をしなければどうしようもないところに追い詰められた」と考えるべきである。
【参考】野口悠紀雄『「超」整理日記No.525』(「週刊ダイヤモンド」2010年8月28日号所収)
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しかし、これをもって国内企業の復調が鮮明になった、とすることはできない。
利益の前年同期比が高かったのは、2009年4~6月期の水準が非常に低かったからである。この期には、製造業はほとんどが赤字だった。電機は5,000億円、自動車は1,664億円の赤字だった。日本経済は文字どおり「奈落の底」に落ちこんでいたのである。
だから、この時点と比較した伸び率は、きわめて高い値になる。そのため「順調に成長している」という錯覚に陥るのだ。
今年は、これが黒字に転換した。しかし、黒字といっても、電機で6,494億円、自動車で7,260億円である。経済危機前、トヨタ自動車1社で年間2兆円を超える利益があったことを思うと隔世の感がある。
前述の上場企業利益でみると、リーマン・ショック前に比べてまだ92%の水準でしかない。つまり、まだ経済危機前には回復していない。
しかも、電機と自動車は、政府支援の特需に支えられている。また、雇用調整助成金の支援もある。
しかし、この施策は需要を増加させたのでなく将来の需要を先食いしただけだ。自動車の購入支援策が9月に、電機の支援策が今年中に終了すれば、需要は急減する。
また、2009年には中国に対する輸出が急激に伸びたが、今後は同じようには伸びないだろう。
だから、よくてピークの8~9割の水準を維持できるだけで、それを超すことは当分のあいだはできないだろう。平均株価は、ピーク時(2007年7月頃)の52%程度の水準でしかないが、これが利益の長期的見通しを示している、とみてよい。
日本の企業は、黒字になったというものの、利益率は非常に低い。
利益率は、事業モデルが経済の構造変化に対応しているか否かを示す。
総資本利益率(ROA)を見るのがよい。「1単位の資本投入でどれだけの利益が得られるか」
通常用いられる自己資本利益率(ROE)は、借入を増やせば事業の実態が変わらなくとも上昇してしまう。ROAは、こういう操作の影響を受けない。
2010年3月期連結決算においける日本企業のROAは、次のとおりだ。ホンダ2.3%、トヨタ0.7%、日産0.4%、ソニー▲0.3%、東芝▲0.4%、日立製作所1.2%。
主要企業のROAは、ホンダを除けば国債の利回りよりかなり低い。しかも、政府による購入支援策が与えられている状況での数字である。
ホンダの場合、2008年のROAは4.9%だったから、半分以下に低下したことになる。
これは経済危機後、需要の動向が利益率を引き下げる方向に変わったことを示している。
それは、新興国シフトだ。新興国向けの伸びが高いということの実態は、「利益の高い先進国が伸びないので、利益率の低い新興国に向かざるをえない」ということだ。
アメリカ企業のROAをみると、次のとおりだ。マイクロソフト18.8%、アップル18.4%、グーグル14.1%、IBM11.5%。
日本企業の利益率とは隔絶的な差がある。しかも、これは政府の支援に支えられたものではない。また、外需に依存するものでもないので、為替レートの変動によって動いてしまうものでもない。新しい技術に支えられたものだ。だから、将来の動向にあまり大きな不確実性はない。日本企業とはまったく異質の事業を展開しているとしか考えようがない。
ここでみた先端的企業以外の企業もふくむダウ平均株価でみても、現在の水準はピーク(2007年7月)の77%である。日本の52%と比べると、だいぶ高い。
今回の決算をみて日本企業が順調に回復していると考えるのは、大きな誤りだ。
「基本的な方向転換をしなければどうしようもないところに追い詰められた」と考えるべきである。
【参考】野口悠紀雄『「超」整理日記No.525』(「週刊ダイヤモンド」2010年8月28日号所収)
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