語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】雇用崩壊・社会保障危機への処方箋 ~医療保障制度の再構築~ 

2010年08月19日 | 医療・保健・福祉・介護
 著者は、『雇用崩壊と社会保障』終章で、雇用崩壊・社会保障危機への処方箋を交付する。
 ここでは、社会保険、ことに医療保障制度の再構築に係る提言を抜き書きする。

(1)医療費増大策への方向転換
 診療報酬の大幅な引き上げなど医療費増大策へ転換する。
 日本の医療費水準は、対GDP比では国際的にみて低水準である。先進諸国G7では最低である。
 高齢化進行のなかで、医療費の伸びを抑制する方針には限界がある。先進諸国にくらべて低水準の公費負担や事業主負担を増やすことで、医療保険財政の建て直しを図るべきだ。
 医師は、少なくとも10万人不足している。民主党政権も医師数増大を掲げている。それを実現する財源の確保が今後の課題だ。

(2)医療保険の制度設計
 後期高齢者医療制度は廃止し、老人保健制度に戻す。「民主党政権は後期高齢者医療制度の廃止を先送りしたが、後期高齢者医療制度の目的は、高齢者医療費の抑制にあるため、高齢者医療の崩壊をますます加速させ、さらには後期高齢者支援金の増大などで、健康保険の財政悪化を加速させるだけである」
 老人保険制度に問題がなかったわけでないが、「医療キャップ制」(←高齢者医療費抑制のシステム)は組みこんでなかったし、高齢者は国民健康保険などに加入するため拠出金の根拠も明確だった。
 当面は、現行の国民健康保険、被用者保険の並列状態を維持しつつ、老人保健制度や国民健康保険への公費投入を増やしていく。まずは、減らしつづけてきた国民健康保険の医療費国庫負担を元の水準、少なくとも1984年改正前の45%に戻す。
 70歳以上の高齢者、乳幼児に係る医療費の自己負担を廃止する(無料化)。
 将来的には、政府を保険者とし、すべての国民を対象とする医療保険制度を構築する。保険料は応能負担とし、低所得者(生活保護基準以下)は保険料を免除する。そして、(ア)被用者については事業主が、(イ)自営業者など今の国民健康保険加入者については公費で、保険料の半分を負担する。そのうえで、10割給付の医療保障を実現する。

(3)介護保険法の改正
 介護療養型医療施設の廃止を凍結する。
 医療施設増設計画を作成し、計画的に病床数を増大させていく。

【参考】伊藤周平『雇用崩壊と社会保障』(平凡社新書、2010)
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