語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】佐々淳行の、東京電力批判 ~『ほんとに彼らが日本を滅ぼす』~

2011年09月30日 | 震災・原発事故


 ここでは2例を引く。

(1)「呆れ果てた東電の記者会見」
 「原子力発電所を所有する東京電力の情報公開は、初動から混乱を極めていた」
 1号機の水素爆発についても、東電が発表したのは2時間半後。「『通信手段が途絶えた』(勝俣恒久会長)というお粗末さだ」
 混乱はその後も続くのだが、佐々淳行が「AERA」誌4月11日号から引く武藤栄・東電副社長の記者会見を抜粋してみよう。

 ●3月25日の会見
 --(海水注入は)爆発後では遅すぎませんか。
 「我々としては最大限の努力をしてきたのでございます」

 ●3月26日の会見
 --武藤さんが現地にいる間に1号機で爆発がありました。武藤さんが海水を入れてでも温度を下げようと決断したのはいつですか。
 「えーと、すいません。手元に資料がございません。淡水がなくなった段階で海水を注入しようと準備を始めました」
 --私の聞いているのは時間です。海水注入の意思決定は1号機の爆発(12日午後3時36分)の前ですか、後ですか。
 「手元に記録がございません」
 --これは重要なことですよ。記録がないとわからないのですか。
 「手元に資料がございません」
 --(略)2、3号機でも海水を注入すれば相次ぐ爆発は避けられたのではないですか。
 「事実関係は確認させていただきます」
 --あなたが現地で指揮をとっていたときのことですよ。なぜ記憶がないのですか。
 「記憶につきましては、記録をもう一度しっかり整理して確認したく思います」

 ●3月27日の会見
 --(略)ご記憶はよみがえりましたでしょうか。
 「全体をよく確認する必要があると思います」
 --経済的損失を恐れて決断が遅れたのではないですか。
 「我々は安全を最優先にして、できる限りの手を打ってきたということでございます」

 ●3月28日の会見
 --3月12日午前7時20分から20分間、現地に視察に訪れた菅首相に会われていますが、何を話されましたか。   
 「しっかりと記憶を確認する必要があります」
 --その時点でかなり危機的な状況であることを菅首相に進言、相談されなかったのですか。
 「発言は控えさせていただきます」

 佐々は、「責任を追及されることを徹底的に避ける、見事な官僚答弁」だったと、太字で評している【注1】。
 「後日、武藤副社長は大きな事故になった理由を『設計で想定した以上の津波がきたために、非常用発電機がすべて動かなくなった。地震で外部電源が停止し、非常用バッテリーが冠水していて使えなくなった。電源がなくなり、海水の冷却ができなくなり起きた事故』という認識を語っている。/想定外の大津波が原因であって、東京電力に落ち度はないと、婉曲ながら言い放ったのだった」【注2】

 【注1】「枝野官房長官が廃炉に言及しても『申しあげる段階ではない』(21日記者会見)と交わす武藤栄・東京電力副社長は面妖な人物だった。/記団の質問をノラリクラリと交わしてやたらと話が長い。低音でよく聞き取れないのも記者泣かせだ」「あげ足を取られることはないが、人間らしい温かみが全く感じられない答弁だ。/2002年発覚した『事故隠し事件』で東電は告発されてもなお“記録にない”、“記憶にない”で誤魔化そうとした。武藤副社長は東電の社風が作り上げた人物であることは間違いないようだ」【「「東電情報隠し」の裏で進行する放射能汚染 ~その5~」(田中龍作ジャーナル)】
 【注2】武藤の食言は、その後明らかになった。例えば、「【震災】原発>安全対策における主要な3つの欠陥 ~『原発を終わらせる』~」。

(2)「前世紀の遺物-東京電力」
 4月25日、東京電力は、巨額の賠償負担の財源のひとつとして役員報酬の減額を発表した。
 「東京電力には役員が20人もいて、そのうち副社長が6人だという。社外取締役を除く取締役19人の平均報酬は年間約3,700万円。これを聞いて怒ったのは私だけではあるまい。これには海江田経産相も『全然足りない』と苦言を呈していた。/しかしさらに、5月14日、海江田経産相がテレビで、『(一部首脳は)50%カットでも3,600万円残る。ちょっとおかしい』と発言したことにより、トップが年間7,200万円も受け取っていたことが明らかになったのである。清水社長は『50%カットは大変厳しい数字』と会見で述べたが、何をかいわんや、である」
 「この国会答弁をきいて、怒ったのは私一人ではあるまい。副社長6人も多すぎる。ほとんど天下りだという。役人の次官・局長クラスは年収2,000万円ぐらい、退職金は7~8,000万だろう、年齢も60歳以上。それが東京電力の役員に天下りすると次官の3.5倍の報酬で、出身官庁の役人の接待が6人の副社長の仕事だという。何が『半額にします』だ!! こんな前世紀の遺物が生き残っていたのか」
 「役員20人が全員辞職すれば、それだけで年間7億円の人件費が浮くではないか。給与の半減でなく、役員の数をこそ半減すべきだ」
 「東電は『メルトダウン』という重大な事実を約2ヶ月、隠し続け、チェルノブイリとはちがうと言い続け、冷却装置の電源を人為的に切り、廃炉を避けようとウソを言い続けた。独占・準国家企業で地域を独占的に支配し、国民の電気料金で超高級の経営を行ってきた。会長以下役員総辞職、リストラ、諸施設売却、いずれも当然の罰である」

 「東京電力の役員たちに物申す。/なぜ、『男の美学』を晩年に発揮して、志願して原発建屋内に命がけで突入していく現場作業員の陣頭に立たないのか」

□佐々淳行『ほんとに彼らが日本を滅ぼす』(幻冬舎、2011)

    *

 福島第1原発事故の原因究明や検証を行うため、国会に事故調査委員会が設置されることになった。関係者を参考人として招致できるなど、調査委に強い権限を付与している。
 (a)調査委は、有識者10人で構成。会議は公開が基本で、関係団体・機関に資料の提出を要求できる。発足から半年後に報告書を提出する。
 (b)衆参両院の議院運営委員会による合同協議会も設置。証人喚問を行うことも可能だ。

 以上、記事「国会に原発事故調設置=参院、全会一致で成立へ」(2011年9月30日6時6分 asahi.com)に拠る。
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【震災】原発>野田政権の原発政策 ~古賀茂明/原英史の所見~

2011年09月30日 | 震災・原発事故
●規制官庁を経産省から環境省へ
 本末転倒だ。3首脳の交代人事では、原子力安全・保安院院長に商務流通審議官が昇格した。従来と同じ経産省内部の人事ローテーションだ。なぜ、まず人事の段階で外部の民間の専門家を登用し、これまでのやり方を改めようとしないのか。組織改革は法改正が必要だが、幹部を入れ替える人事はすぐできたはずだ。【原英史】
 組織を移す、という発想が限界を露呈している。保安院は1回つぶす、と考えたほうがいい。何をやるためにどういう組織がいいのか、という順番で考えるべきだ。【古賀茂明】
 不祥事や大きな事故が起きるとすぐ組織改革をやるのは官僚の入れ知恵。国際標準でみると、欧米では米国の原子力規制委員会(NRC)など専門家がトップについている機関が規制している。しかし、日本の今回の改革案は、環境省の下に「原子力庁」のような機関をおき、大臣がトップの“普通の官僚組織”にするというもの。環境省には原子力の専門家はいない。結局、現在の保安院など原子力村の官僚が環境省に移るだけで実態は変わらない。【原】
 保安院にはもともと原発を規制する能力はない。保安院には鉱山保安を担当していた人々が多数いる。鉱山が閉山した時、原子力が拡大したから、組織を吸収したのだ。日本の場合、原子力がちゃんとわかる専門家が原発推進派である電力会社とメーカーにしかいない。ここが難しいところ。電力会社に依存しているケースが多い。米国では、原子力空母や原潜があるから、軍の原子力専門家がいる。そこからNRCなどで規制に携わるルートがあるから、電力会社と中立性が保てる。だから、高い給料を払っても、外国人の専門家を入れたほうがいい。そうすれば、電力会社、役所、メーカーの専門家が都合の悪い情報は出さない、というこれまでの体質は通用しなくなる。【古賀】
 3月の事故の際にも、NRCやフランスのほうがよほど正確な情報をもち、事態を冷静に分析していた。【原】
 本来、原子力のような高度な専門的知識が必要で、重要な安全規制こそ、政治的に中立な第三者機関が求められる。今回、「SPEEDI」の情報が隠されたのは、公表してパニックになったら大変だ、という政治的判断による。専門家が科学的知見と倫理観のみを判断材料にやっていれば、公表し、夜のうちに住民を強制的に避難させる手段がとれた。それが政治的中立の真の意味だ。【古賀】
 だから、今の組織改革案では、今後、原発推進派の政権ができた時に、政権の政治的判断で決められる危険がある(<例>津波の基準は3mでいいことにしておこう)。どんな政権になっても、科学的知見と両親で安全基準を変えない仕組みが必要だ。【原】

 他の問題。こういう事故が起きると、組織改革と並んで基準や規制ができるのだが、多くの場合、安全規制は国民のためではなく、業者のためのものになっている。今回も、電力業界は、津波の基準は国の定めたとおりになっていた、とか言い訳している。本来、基準は実質的な安全が担保されるのが重要だ。それが逆に、業者にとって後で責任を問われないアリバイを与えるために作られている。【古賀】
 役所は、業者の責任回避と同時に、自分たちの言い訳も考えている。法律に不備があれば、我々は法に従っているだけだ、と言う。政令、省令で定めた規制は、審議会など第三者機関で中立の有識者に議論してもらった、という形をとっている。その審議会では、役所が作った案を学者の委員に根回しして決めている。誰も責任をとらない仕組みだ。【原】

●「やらせメール」露見で原子力村の内輪もめ(電力業界と経産省)
 役所の感覚では、原発の住民説明会でも、他の政策でパブリックコメントを求める時も、雛形を作って政策推進の根回しをするのは当たり前だ。むしろ、やらなかったら上司に怒られる。やったことを隠せなくなり、電力会社と経産省のどちらかが責任を負わされる状況になって、互いに責任転嫁を始めたわけだ。【原】

●役所が便乗規制で権限強化 
 震災復興には,(a)期限限定で規制をかけなければならない分野と、(b)思い切って規制を緩和しなければならない分野とがある。ところが役人は、自分たちが責任を負う難しい規制は必要でも尻込みする(<例>街づくりのために土地保有に一時的に制限をかける)。責任がなく、どうでもいい規制だけが好きなのだ。【古賀】
 食品の放射能汚染でも、牛肉ならエサはどうか、農作物は土壌や汚染された汚泥や落ち葉をどうするかという複合的要因があって、役所をまたがる全体のパッケージで対策をとらないと、個々の役所、担当課では無理だ。その司令塔がないから、まだ拡大を止められないでいる。【原】
 それとカネ。役所は、どういう対策が必要かを本当はわかっている。でも、下手に「こうしたい」と予算を要求すると、財務省に「やりたいなら他の予算を削ってやれ」と言われる。だから官邸に根回しして、「これは緊急だから特別枠で予算を使っていい」と了解をとってからしか、必要な政策を言わない。【古賀】
 そのくせ財務省は、必要がないものに予算をつける。【原】
 埼玉県朝霞の総事業費100億円の公務員宿舎建設は、事業仕分けでいったん凍結した。それを野田・財務相は、総理になる直前、ひそかにゴーサインを出し、総理就任直後の9月1日に着工された。【古賀】
 一応、あの住宅は震災復興事業の名目なのだ。といっても、被災者を住まわせるためではない。古い公務員宿舎の土地を売却して復興財源を作らなければならない。だから、公務員には新しい宿舎が必要、という滅茶苦茶な理屈をたてている。【原】
 公務員も民間の賃貸住宅に住めばいい。震災で住む家がない被災者は仮設住宅で生活している。それなのに、役人は高級マンションを建てている。復興財源が足りないから増税する、と言っても説得力がない。【古賀】

 以上、対談:古賀茂明/原英史(政策工房社長)「野田新総理、その『政権構想』には“財務省の罠”が仕掛けられています!」記事「」(「SAPIO」2011年10月5日号)に拠る。
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