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人は元日に何を読むか。その答は知らないが、私は井伏鱒二を読む。井伏は大岡昇平のようには研究心を喚起しないが、その分、気楽に読める。元日のノンビリにふさわしい。繰り返すが、私にとって。
一冊の本の何処から読み初めてもよいし、どこで中断しても差し支えない。漱石のいわゆる非人情な読み方ができる。
今年の元旦に手にしたのは、井伏の数ある作品のうち『厄除け詩集』だ。筑摩文庫版も手元にあるが、詩集はやはりハードカバーで読みたい。
17編の訳詩が狙いだ。高適「田家春望」は訳詩が正月向きだが、余り好みではない。
好みは、例えば柳宗元「登柳州蛾山」だ。井伏の訳詩を含めて。ただし、読み下し文は『厄除け詩集』にない、念のため。
柳宗元は昨年岩波文庫に入り、入手しやすくなった。
荒山秋日午 荒山 秋日 午なり
獨上意悠悠 ひとり上る 意 悠悠たり
如何望郷處 いかんぞ 郷を望む処
西北是融州 西北はこれ融州
アキノオンタケココノツドキニ
ヒトリノボレバハテナキオモヒ
ワシノ在所ハドコダカミエヌ
イヌヰノカタハヒダノヤマ
□井伏鱒二『厄除け詩集』(筑摩書房、1977)
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