玉村豊男の文章は、軽くて、読みやすい。あれほど読みやすい文章は、なかなか書けるものではない。
その軽さに騙されて、一読、そのまま忘却するのはもったいない。あれだけ世界を旅している人だ。本人に批評する意図がなくても、自ずから批評が生まれる。
団塊世代に対する田舎暮らしガイドブック『田舎暮らしができる人 できない人』は書く。
通信手段の発達が田舎暮らしの不便を解消した、という。インターネットは暮らしのスタイルを根本から変えてしまった、と。
原稿を書くにあたり、調べものをするには、東京に住んでいたときは都立や国立の図書館に行き、神田の古書店街を歩いて資料を探した。大型の書店にも出入りした。今ではパソコンの前に座るだけで、世界中の情報が検索できるし、教えを請えば姿の見えない無数の人が寄ってたかって教えてくれる・・・・。
これは、さほど目新しい発見ではない。
情報だけでなく、買物もインターネットで激変した。本を買うにも、本屋へ行くよりパソコンの中に探すほうが早く確実だ。本に限らず、そして東京に住んでいても、都心のデパートや専門店に行くよりネットショップのほうがはるかに能率的だ・・・・。
これも、さほど目新しい発見ではない。
ちょっと独創的なのは、ネットショップを支える宅配便サービスの充実を賞揚している点だ。
日本では、インターネットであれ直接の電話であれ、注文すればどこへでも間違いなくモノが届く。あたりまえのように思いがちだが、消費者物流をこれほど正確迅速安全におこなうことができる国は、世界でもめったにないのだ。
商品を、間違いなく、ていねいに運び、正確な時刻に、きちんと相手に届ける。しかもその場で代金を受け取り、事務処理までして、帰って会社に報告する(カード決済でない場合)。こういうことをやらせたら、日本人の右に出る国民はない。
世界の多くの国では、配達人を信用して現金を渡すことはできないだろう。
だから、もし仮に日本が沈没して外国で生きなければならなくなったら、スシ職人になれない人は宅配業者が一番だ。いや、日本沈没がなくても、世界中に日本の宅配便システムを広め、汗をかきながら律儀にものを運んでいれば、日本人は世界の敬意を集め、戦争の準備をしなくても平和に生きることができるであろう・・・・。
このあたりが、かなり独特な考察だ。そして、現実性のある考察で、事実、クロネコヤマトは海外に進出したし、国際宅急便に新規に乗り出した事業所もあるらしい。
玉村は、念を押すように、書いている。
<それぞれの国には、お家芸とでもいうべき得意の職業があるものです。フィリピン人はその笑顔とホスピタリティーで看護師、介護福祉士、ハウスメイド、もしくはその天性のリズム感を生かして歌や踊りのエンタテイナー。インド人は、貴金属商でなければ理髪師か仕立屋さん。ギリシャ人は船乗りか美容師。ポルトガル人はコンシェルジュ(アパートの管理人)、というように、私は、日本人が世界の中で生きていくには、宅配をお家芸にするのがいちばんいいのではないかと思っています。>
産業構造転換のヒントになるかもしれない。
□玉村豊男『田舎暮らしができる人 できない人』(集英社新書、2007)
【参考】
「【玉村豊男】大食漢の話 ~体重500キロ~」
「【玉村豊男】料理の四面体 ~理論と実例~」
「【読書余滴】玉村豊男の、ワインと女は古いほどよい ~熟成と生涯学習~」
「【読書余滴】玉村豊男の、批評する要件または批評の仕方 ~日本版ミシュランを採点する~」
「【読書余滴】玉村豊男の、フランスのレストラン・ガイド、料理批評 ~『ミシュラン東京版』の狙い~」
「【読書余滴】玉村豊男の、東京の隠れ家 ~都市の中の自由とその代償~」
「【読書余滴】理論と実践又はアルジェリア式羊肉シチューの事 ~料理の四面体~」
「【読書余滴】玉村豊男の、沖縄の人がコンブをたくさん食べる理由 ~聴衆からの質疑に答える極意~」
「【読書余滴】玉村豊男の、赤ん坊はキャベツから生まれる」
「書評:『パリ 旅の雑学ノート』」
「書評:『エッセイスト』」
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その軽さに騙されて、一読、そのまま忘却するのはもったいない。あれだけ世界を旅している人だ。本人に批評する意図がなくても、自ずから批評が生まれる。
団塊世代に対する田舎暮らしガイドブック『田舎暮らしができる人 できない人』は書く。
通信手段の発達が田舎暮らしの不便を解消した、という。インターネットは暮らしのスタイルを根本から変えてしまった、と。
原稿を書くにあたり、調べものをするには、東京に住んでいたときは都立や国立の図書館に行き、神田の古書店街を歩いて資料を探した。大型の書店にも出入りした。今ではパソコンの前に座るだけで、世界中の情報が検索できるし、教えを請えば姿の見えない無数の人が寄ってたかって教えてくれる・・・・。
これは、さほど目新しい発見ではない。
情報だけでなく、買物もインターネットで激変した。本を買うにも、本屋へ行くよりパソコンの中に探すほうが早く確実だ。本に限らず、そして東京に住んでいても、都心のデパートや専門店に行くよりネットショップのほうがはるかに能率的だ・・・・。
これも、さほど目新しい発見ではない。
ちょっと独創的なのは、ネットショップを支える宅配便サービスの充実を賞揚している点だ。
日本では、インターネットであれ直接の電話であれ、注文すればどこへでも間違いなくモノが届く。あたりまえのように思いがちだが、消費者物流をこれほど正確迅速安全におこなうことができる国は、世界でもめったにないのだ。
商品を、間違いなく、ていねいに運び、正確な時刻に、きちんと相手に届ける。しかもその場で代金を受け取り、事務処理までして、帰って会社に報告する(カード決済でない場合)。こういうことをやらせたら、日本人の右に出る国民はない。
世界の多くの国では、配達人を信用して現金を渡すことはできないだろう。
だから、もし仮に日本が沈没して外国で生きなければならなくなったら、スシ職人になれない人は宅配業者が一番だ。いや、日本沈没がなくても、世界中に日本の宅配便システムを広め、汗をかきながら律儀にものを運んでいれば、日本人は世界の敬意を集め、戦争の準備をしなくても平和に生きることができるであろう・・・・。
このあたりが、かなり独特な考察だ。そして、現実性のある考察で、事実、クロネコヤマトは海外に進出したし、国際宅急便に新規に乗り出した事業所もあるらしい。
玉村は、念を押すように、書いている。
<それぞれの国には、お家芸とでもいうべき得意の職業があるものです。フィリピン人はその笑顔とホスピタリティーで看護師、介護福祉士、ハウスメイド、もしくはその天性のリズム感を生かして歌や踊りのエンタテイナー。インド人は、貴金属商でなければ理髪師か仕立屋さん。ギリシャ人は船乗りか美容師。ポルトガル人はコンシェルジュ(アパートの管理人)、というように、私は、日本人が世界の中で生きていくには、宅配をお家芸にするのがいちばんいいのではないかと思っています。>
産業構造転換のヒントになるかもしれない。
□玉村豊男『田舎暮らしができる人 できない人』(集英社新書、2007)
【参考】
「【玉村豊男】大食漢の話 ~体重500キロ~」
「【玉村豊男】料理の四面体 ~理論と実例~」
「【読書余滴】玉村豊男の、ワインと女は古いほどよい ~熟成と生涯学習~」
「【読書余滴】玉村豊男の、批評する要件または批評の仕方 ~日本版ミシュランを採点する~」
「【読書余滴】玉村豊男の、フランスのレストラン・ガイド、料理批評 ~『ミシュラン東京版』の狙い~」
「【読書余滴】玉村豊男の、東京の隠れ家 ~都市の中の自由とその代償~」
「【読書余滴】理論と実践又はアルジェリア式羊肉シチューの事 ~料理の四面体~」
「【読書余滴】玉村豊男の、沖縄の人がコンブをたくさん食べる理由 ~聴衆からの質疑に答える極意~」
「【読書余滴】玉村豊男の、赤ん坊はキャベツから生まれる」
「書評:『パリ 旅の雑学ノート』」
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