語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】HONZのシロウト書評の限界 ~原発事故~

2013年01月04日 | 震災・原発事故
 書評は一定の実務的経験ないし学問的蓄積のある人が、その専門分野の本を論じるのが本来の姿だと思う。さもないと、問題が十分に掘り下げられなかったり、ネットでも入手できる基本的な情報が看過されたりして、かえって本の価値を貶める。原発事故をテーマにした本は、殊に問題点を見逃しやすいように思われる。
 
 「HONZが選んだ150冊」には、 震災・原発事故に関する本が5冊とりあげられている。
  (1)河北新報社『河北新報のいちばん長い日』
  (2)彩瀬まる『暗い夜、星を数えて ~3・11被災鉄道からの脱出~』
  (3)宮台真司ほか『IT時代の震災と核被害』
  (4)鈴木智彦『ヤクザと原発』
  (5)岩佐『仮設のトリセツ』

 (4)は、「語られる言葉の河へ」でもとりあげた。このときは、福島第二原発の汚染に着目したし、潜入が情報隠蔽を暴く一手段という観点から拾いだしているから、本書の表題となっているヤクザについて部分的にしか触れていない【注1】。ただし、除染・廃炉ビジネスに関連して、本書にもう一度言及している【注2】。
 震災・原発事故のような大きな問題・テーマは、個々の本ごとに論じるより、複数の本を横断的にとりあげるほうが、読者の知見を増やすに役立つと思う。1冊ずつ論じる書評は、どうしても限界がある。
 それでも、評者が論じる主題(ここでは原発ないし原発事故)について浩瀚な知識と広い視野を持っていればよいのだが、原発ないし原発事故に詳しいアマチュア書評家など、滅多にいないだろう。
 はたして、「HONZが選んだ150冊」で(4)を論じた内藤順は、ツボをはずしている。<かつてヤクザの分類に博徒系、的屋系などと名伽藍で、「炭鉱暴力団」という項目が存在していた。暴力という原始的、かつ実効性の高い手段は、国策としてのエネルギー政策と常にセットとして昔から存在しており、原発への関与もその系譜の中に位置するものなのだ。>といいセンまで迫りながら、<たしかに暴力団や放射能は怖い。しかし、事実を知らないということは、もっと怖いことでもある。>などいうモラリスト的感想に帰着させてしまっている。だから、<光は闇より出でて、闇より暗し。>などという意味ありげな、しかし何を言っているのかわからない警句で締めくくる醜態を露呈するのだ。

 原発作業員が直面している問題は、関連する新聞記事をすこし丁寧に追跡すれば、「怖い」で済ませられないことがすぐわかったはずだ【注3】。そして、この国の将来は、事故を起こした原発がぶじ廃炉にもっていけるかどうかにかかっていること、そのためには技術を持った作業員が安定的に確保されるかどうかに拠ることが分かったはずだ。ところが、原発作業員は、福島第一原発事故より前から、使い捨てにされてきた。その事実は、今では広く知られている【注4】。原発にも原発事故にもシロウトの当方でさえ、それくらいは知っている。
 書評した内藤は、せめてネットで平井憲夫氏の告発を読むくらいの労力はかけるべきであった。

 【注1】「【震災】原発>福島第二原発の汚染 ~ヤクザと原発~
 【注2】「【原発】停止しても25兆円儲ける原子力ムラ ~除染・廃炉ビジネス~
 【注3】「【原発】作業員の不足と待遇格差 ~政府の無為無策~
 【注4】「【震災】原発で働く作業員の現実
 
□成毛眞・編著『ノンフィクションはこれを読め! ~HONZが選んだ150冊~』(中央公論新社、2012.10)

 【参考】
【本】まず事実、何よりも事実 ~ノンフィクションの魅力(1)~
【本】HONZが選んだ150冊 ~ノンフィクションの魅力(2)~
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【81】02 情熱の危機

2013年01月04日 | ●アランの言葉
 <情熱や情熱の危機は、冷静な吟味によって幾分は調節されるが、また同時に年齢の加減でも冷めるものだ。>【序言】

□アラン(小林秀雄・訳)『精神と情熱に関する八十一章』(創元ライブラリ、1997)
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【81】01 精神と情熱に関する八十一章

2013年01月04日 | ●アランの言葉
 これから1年間、折に触れて引用する。単なる引用にとどめるつもりだが、多少の注釈、多少の所見を付するかもしれない。なお、引用は(5)の順序どおりではない。
 <凡例>
 (1)テイストは、小林秀雄・訳『精神と情熱に関する八十一章』(創元ライブラリ、1997)である。
 (2)テキストからの引用は、< >で示す。
 (3)タイトルの「【81】01」は、ブログで『精神と情熱に関する八十一章』について書くのが1回目を意味する。
 (4)本文の「【01-01】」は、(5)に記す目次の「第一部第一章」を意味し、「【解説】」は中村雄二郎による「小林秀雄訳・アラン『精神と情熱に関する八十一章』について」を意味する。
 (5)目次は、次のとおり。

    まえがき
    序言
    第一部 感覚による認識
      第一章 感覚による認識のなかにある予想 
      第二章 錯覚 
      第三章 運動の知覚
      第四章 感覚の教育
      第五章 刺激
      第六章 空間
      第七章 感覚と悟性
      第八章 物
      第九章 想像
      第十章 異なった感覚による想像
      第十一章 観念の連合
      第十二章 記憶
      第十三章 からだのなかの痕跡
      第十四章 連続
      第十五章 持続の感情
      第十六章 時間
      第十七章 主観的なものと客観的なもの

    第二部 秩序ある経験
      第一章 あてどのない経験
      第二章 観察 
      第三章 観察者の悟性
      第四章 類推と類似
      第五章 仮設と憶測
      第六章 デカルト讃
      第七章 事実
      第八章 原因
      第九章 目的
      第十章 自然の法則
      第十一章 原理
      第十二章 メカニスム
    第三部 推理による認識
      第一章 言語 
      第二章 会話
      第三章 論理学あるいは修辞学
      第四章 注釈
      第五章 幾何学
      第六章 力学
      第七章 算術と代数学
      第八章 むなしい弁証法
      第九章 形而上学的推論の調査二つ三つ
      第十章 心理学
    第四部 行為
      第一章 判断 
      第二章 本能
      第三章 宿命論
      第四章 習慣
      第五章 決定論
      第六章 精神と身体の一致
      第七章 自由意志と信念
      第八章 神と希望と慈愛
      第九章 天才
      第十章 懐疑
    第五部 情熱
      第一章 幸福と倦怠 
      第二章 賭博熱
      第三章 恋愛
      第四章 自愛
      第五章 野心
      第六章 貪欲
      第七章 人間ぎらい
      第八章 妄想症
      第九章 恐怖
      第十章 怒り
      第十一章 暴力
      第十二章 涙
      第十三章 笑い
    第六部 道徳
      第一章 勇気 
      第二章 節制
      第三章 誠実
      第四章 正義
      第五章 再び正義(つづき)
      第六章 再び正義(つづき)
      第七章 権利と力
      第八章 知恵
      第九章 魂の立派さ
    第七部 儀式
      第一章 連帯関係 
      第二章 礼儀
      第三章 結婚
      第四章 礼拝
      第五章 建築
      第六章 音楽
      第七章 演劇
      第八章 狂信
      第九章 詩と散文
      第十章 公の力
   訳者後記
   あとがき
   小林秀雄訳・アラン『精神と情熱に関する八十一章』について・・・・中村雄二郎 

□アラン(小林秀雄・訳)『精神と情熱に関する八十一章』(創元ライブラリ、1997)
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