語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】007ムーンレイカー

2015年11月07日 | 小説・戯曲
 米子市立図書館の「図書館まつり」は11月の最初の土・日だ。「まつり」のひとつ、「本の市」では蔵書や、市民から提供のあった本を無料で配布する。ただし、10冊まで(数年前まではこの縛りはなかった)。
 今年の「まつり」は11月7・8日で、本書『007 ムーンレイカー』もここででゲットした。

 この本は、中学校の修学旅行のとき国鉄(当時)のなかで読んだ。わりと仲のよいクラスメートが持参していたのである。便は夜行の「出雲」だったのか、特別仕立てなのか、定かではない。たしかなことは、寝台ではなく、硬くて背もたれが垂直の普通席に座ったまま眠ったことだ。米子から東京まで。当然、なかなか眠りがやってこない。くだんのクラスメートは、そのことを予想して、軽いこの本を持参していた。
 しかし、用意周到な彼は、本を座席に投げっぱなしにしたまま、床に敷いた新聞紙の上で、別の同級生たちとトランプに熱中した(復路に読んだ、と後で聞いた)。
 私は、彼に断ってこの本を借り、3分の1ほど読んだところで寝入った。
 このたび、図書館の「本の市」のおかげで、半世紀ぶりに残り3分の2を読むことになる。

□イアン・フレミング(井上一夫・訳)『007 ムーンレイカー』(創元推理文庫、1964)
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【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~

2015年11月07日 | ●佐藤優
 (承前:昭和史を武器に変える10の思考術)

(10)日本人が苦手な類比的思考
 現代の中国と昭和の大日本帝国のように、一見、時代も状況もかけ離れたように見えるものに共通点を見出して分析するには、この類比的思考が必要だ。日本のインテリが最も弱いのが、この類比的思考ではないか。
 ユダヤ教にしてもキリスト教にしてもイスラム教にしても、その核心となる思考法は類比だ。ものごとの原型や規範はすべて聖書やコーランなどのテキストに書かれているのだから、世界のさまざまな現象は、それにあてはめて理解することができる、というわけだ。
 仏教は、仏典の数が多すぎるので、そういう思考法に向いていない。
 重要なのは、ものごとを判断するときに無意識のうちに類比的思考を使う人たちが世界では主流である、ということだ。彼らの内在論理を理解するためには、類比的思考の理解は欠かせない。
 いま日本人がすごく苦しんでいるのは、他者の理解が難しくなっていることだ。韓国が、中国が、米国も分からなくなっている。ましてや中東のような遠い地域の人びとの考えを日本人が理解するのは難しい。
 日本人は世界の中ではマイノリティでありながら、国内では圧倒的なマジョリティだ。だから、他人の身になって考えるという訓練ができていないのかもしれない。
 相手の内在論理を探ることは、インテリジェンスの基本だ。つまり、相手の立場に立って考え、その道筋を理解するのだ。
 むろん、相手の論理を知ること、それにどこまで付き合うかは、また別の問題だ。

 *

 平成は右下がりの時代だ。予測不能の事態はあまり起きてない。
 それに対して昭和は、未知の問題にぶち当たってばかり。日本という国が実力を試された。また、昭和は極端な時代でもあった。極端な軍国主義があり、極端な平和主義があり、極端な統制が敷かれたかと思うと、極端な新自由主義があった。
 極端から極端に揺れる中で、日本は二つの大失敗をやらかした。
  (a)高度国防国家をめざして挫折した「敗戦」。
  (b)経済大国をめざして挫折した「バブル崩壊」。
 昭和の歴史を学ぶとは、この大きな失敗から成功の種子を見つけることだ。そして同時に、成功のさなかにあって失敗の徴候を見出し、それを未然に防ぐことだ。
 「歴史を武器に変える」とは、そういうことだ。

□佐藤優「昭和史を武器に変える10の思考術」(「文藝春秋SPECIAL」2015年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~

  


【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~

2015年11月07日 | ●佐藤優
 (承前:昭和史を武器に変える10の思考術)

(9)地政学の目で中国を読む
 現在、地政学的観点から世界を見たとき、要注意なのは中国だ。中央アジアに大きな変動の兆しが見られるからだ。
 近い将来、
   ①キルギスとカザフ東部とタジキスタンとウズベクのフェルガナ盆地
   ②新疆ウイグルにまたがる地域
で「第二イスラム国」ができる可能性は低くない。
 中国はウイグルに対して弾圧一方の統治だ。地域住民とイスラム全体を敵に回しているから、第二の「イスラム国」ができれば、住民にとって中国政府より歓迎すべき存在となる危険性がある。
 これは非常に大きな恐怖だ。マレーシア、インドネシア、フィリピンまで、イスラム・ベルトに沿って「第二イスラム国」が東南アジア全体へ南下してくる可能性があるからだ。
 地政学の常識からすれば、内陸部に不安定化のおそれがある状況で、南沙や尖閣で挑発を繰り返すような余裕は中国にはないはずだ。しかし、中国は海洋進出を止めようとはしない。
 いまの中国は、昭和の大日本帝国に似ているのではないか。
 両者の共通点は、近代戦の経験から遠ざかっていることだ。戦後中国が経験した近代戦は、
   1969年 中ソ国境における珍宝島(ダマンスキー島)事件
   1979年 中越戦争
くらいで、もう四半世紀、実戦を経験していない。しかもどちらも、陸軍の戦争だった。海軍に至っては日清戦争の黄海海戦(1894年)まで遡らなければならない。120年以上のブランクがある。
 いま南沙や尖閣で盛んに挑発している面々は、本当の戦争などまったく知らない。
 戦前の日本にとって日中戦争が泥沼になったように、中国にとって中央アジアが泥沼の戦場に化すかもしれない。

□佐藤優「昭和史を武器に変える10の思考術」(「文藝春秋SPECIAL」2015年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~

  


【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~

2015年11月07日 | ●佐藤優
 (承前:昭和史を武器に変える10の思考術)

(8)これから重要なのは地政学と未来学
 『小説 日米戦争未来記』は、1920(大正9)年に書かれた近未来小説だ。若者を中心に大ベストセラーになったらしい。反米論がかなり出始めていた当時において、勝つのは「そう簡単じゃない。米国は強いぞ。勘違いしないほうがいい」と戒めているのだ。
 20世紀の終わり頃、移民問題や対シナ問題をめぐり、日米両国の利害が衝突。排日主義を掲げて経済的にアジアを侵略し始めた米国に対し、国際連盟加盟各国は日本を支援。ついに両国は開戦する。
 米国は新兵器「電波利用空中魚雷」、今でいうところの誘導式巡航ミサイルを開発していて、ハワイとフィリピンに向かった連合艦隊の精鋭は、緒戦で全滅してしまう。日本政府はこの事実を明らかにすべきかどうか迷う。「第二戦で勝利してから、真実を発表すべきではないか」「いや、国民にはすべてを明らかにしなければ」というような議論のあげく、後者が勝つ。米国を甘くみて熱狂していた日本国民は、たちまち士気を粗相喪失してしまう。
 朝鮮半島では独立運動が本格化。中国とは対立し、満州日本軍も全滅。日本は窮地に追い込まれていく。戦火は拡大し、世界大戦となる。そこへ登場した天才・石仏博士が、宇宙の引力と斥力を利用した燃料不要の新兵器「空中軍艦」を建造。米国太平洋艦隊が本土へ迫り来る中、日本軍は反撃に出る。
 ・・・・という物語だ。
 国際情勢をもとにしたシミュレーションとストーリーの組み立ては、とてもよくできている。
 著者は樋口麗陽。詳細不明の人だが、興味深いのは、日米対決の帰結が、公開情報をベースにしていたはずの著者にも読めていたことだ。国際情勢の基本が分かっていた当時の人たちは、日米決戦になった場合、そう簡単には勝てないと見抜いていた。
 佐藤優はこの小説を現代語に書き換え、解題をつけて出版した(『この国が戦争に導かれる時 超訳 小説・日米戦争』、徳間文庫)。
 この本には、現代日本で欠けている二種類の「知」を見てとることができる。
  (a)軍事、外交、経済など様々な要素を総合して未来を予測する未来学。
  (b)地政学。
 樋口の発想の基本には(b)がある。
 海洋国家であるイギリスと米国は、いつもくっついている。それに対抗して、大陸国家であるドイツとロシアがくっつく。同じく大陸国家のフランスは。独露と立ち向かうために英米側につく。海洋国家である日本の利害は英米と衝突するから独露の側につく。
 ・・・・というのが樋口の描いた構図だ。
 のちに、1940年、日独伊三国同盟が結ばれたとき、ソ連をそこに加える構想が実際にあったから、樋口の見立てはなかなかあなどれない。
 地理的条件は、人間には変えることができない。時代が経っても変わらない。だから地政学的発想は、時代を超えて応用が利く。
 戦前の日本では地政学がそれなりに学ばれていた。しかし、陸軍の対象はシベリアや大陸支配に向けられ、海洋戦略はほとんどなかった。だから、南方に進出してイギリスの権益を侵しても、米国は出てこないだろうといった甘い見通しを捨てられなかった。
 また、縄張りと地理が極端に異なっているのは危険だ、と地政学では考える。メインランドから遠く離れた土地を自らの縄張りにすると余計なエネルギーが要るからだ。
 米国が遠い中東に兵を出したり、地理的に近いキューバと外交関係を持たなかったのは、地政学に反していた。しかし今、米国が中東から事実上退き、キューバと関係を正常化するのは地政学に適った政策だ。
 ところが、日本は今、地政学的におかしなことばかりしている。<例>安保法制。
 集団的自衛権行使の例として、政府はホルムズ海峡での機雷の撤去の協力を挙げた。しかし、
   ①安保法制の是非が国会で議論になっている頃、国際社会では米英露中仏独の6か国とイランが13年間ものマラソン交渉の結果、核開発問題の合意に至っている。
   ②しかも、オマーンとイランの伝統的な友好関係からしてオマーンの領海内にイランが機雷を敷設するのは、日本の海上自衛隊とフィリピン海軍が衝突する可能性と同じぐらいの確率だ。
 日本政府の地政学レベルは、大正時代の空想小説にも及ばないレベルだ。

□佐藤優「昭和史を武器に変える10の思考術」(「文藝春秋SPECIAL」2015年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
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【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~

  


【詩歌】H・ハイネ「なにゆえにこう悲しいか(ローレライ)」

2015年11月07日 | 詩歌
  

 なじかは知らねど
 心わびて
 昔のつたえは
 そぞろ身にしむ

 さびしく暮れゆく
 ラインのながれ
 いりひに山々
 あかくはゆる

 うるわしおとめの
 いわおに立ちて
 こがねの櫛とり
 髪のみだれを

 梳きつつくちずさぶ
 歌の声の
 くすしき魔力(ちから)に
 魂(たま)もまよう

 こぎゆく舟びと
 歌に憧れ
 岩根もみやらず
 仰げばやがて

 浪間に沈むる
 ひとも舟も
 くすしき魔歌(まがうた)
 うたうローレライ

 Ich weiß nicht, was soll es bedeuten,
 Daß ich so traurig bin;
 Ein Märchen aus alten Zeiten,
 Das kommt mir nicht aus dem Sinn.

 Die Luft ist kühl und es dunkelt,
 Und ruhig fließt der Rhein;
 Der Gipfel des Berges funkelt
 Im Abend sonnen schein.
   
 Die schönste Jungfrau sitzet
 Dort oben wunderbar,
 Ihr goldnes Geschmeide blitzet,
 Sie kämmt ihr goldenes Haar.

 Sie kämmt es mit goldenem Kamme,
 Und singt ein Lied dabei;
 Das hat eine wundersame,
 Gewaltige Melodei.
   
 Den Schiffer im kleinen Schiffe,
 Ergreift es mit wildem Weh;
 Er schaut nicht die Felsenriffe,
 Er schaut nur hinauf in die Höh'.

 Ich glaube, die Wellen verschlingen
 Am Ende Schiffer und Kahn;
 Und das hat mit ihrem Singen
 Die Lorelei getan

□ハインリヒ・ハイネ(近藤朔風・訳)「なにゆえにこう悲しいか(ローレライ)」(『歌の本』の「帰郷」の部)
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