語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【心理】アニマル・セラピー ~セント・バーナード~

2015年11月08日 | 心理
 「これは何という種類の犬かしら」と、ドンツォワ【注】は呆れて尋ねた。その瞬間、女医は今夜初めて自分の病気のことを忘れていた。「セントバーナード」惚れ惚れとオレシチェンコフは犬を眺めていた。「ほかの所は申し分ないんだが、どうも耳が長すぎてね。マーニャが餌をやるとき怒るんだ。『紐ででも縛っておいたらどうなの。お椀の中に入るわよ!』ってね」
 ドンツォワは犬に魅惑された。こういう犬は街の雑踏の中には入れないし、どんな交通機関にも連れて乗ることは許されないだろう。雪男がヒマラヤにしか住めないように、こういう犬は庭のある平屋でしか生きられないのだ。
 オレシチェンコフは肉饅頭の一切れを犬に食べさせた。ただし投げ与えたのではない。人が憐れみから、あるいは面白半分に食べものを投げ与えると、たいていの犬は後足で立ち上がり、友情のしるしに前足を人間の肩にかけたりする。オレシチェンコフは、同等の人間に与えるときように、肉饅頭を差し出したのだ。その掌の皿から、犬も対等の存在として、おもむろに肉饅頭を銜(くわ)えて取った。大して腹は減っていないのだが、一応の礼儀として受け取るというように。
 
 【注】ウズベク共和国の首都タシケント市の総合病院のガン病棟(共和国唯一のガン病棟)の責任者、女医。時期は、第一部では1955年2月初旬の1週間、第二部はそれから1か月後の3月初め。

□アレクサンドル・ソルジェニーツィン(小笠原豊樹・訳)『ガン病棟』(新潮社文庫、1971)の「30 老医師」から引用

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 訳者の小笠原豊樹は、ペン・ネーム岩田宏【注】の詩人として知られる。

【注】「【詩歌】岩田宏「海底の騎士」」ほか
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【メディア】今村岳司西宮市長が報道に異常な攻撃 ~取材監視、会見拒否~

2015年11月08日 | 社会
 (1)今年1月から、今村岳司・西宮市長が報道に異常な攻撃を加えている。
 言論とメディアへの統制と支配を加速する安倍政権の雰囲気と風潮と重なり合って、一地方の問題だと見過ごせない。

 (2)事の発端は、1月15日、テレビ大阪が放送した番組(制作:テレビ東京)だった。
 同番組は、阪神・淡路大震災被災者のために兵庫県西宮市が借り上げている復興住宅に関して、返還期限が迫っていることを取り上げた。
 これを今村岳司・西宮市長は、入居者を一方的に追い出しているかのような放送で、取材しているのに市が行っている支援策にも触れなかった、などと考えてテレビ東京に抗議。
 同局も、誤解が生じる可能性があった、などとして謝罪した(1月23日)。

 (3)今村市長は、(2)を踏まえて一連のメディア対策を矢継ぎ早に打ち出した。
  (a)1月23日の記者会見では、以下の方針を明らかにした。
    ①重要政策の報道に関し、市が「偏向報道」と判断した場合、メディア名と抗議文を広報誌とホームページに掲載する。
    ②改善されない場合、今後その報道機関の取材には応じない。
    ③重要施策でテレビ局の取材を受ける際、広報課の職員が立ち会い、取材状況をビデオ撮影、録画する。
  (b)1月26日、(a)に係る次の変更措置を表明した。
    ①(a)-①での「偏向報道」の文言は撤回する。
    ②(a)-②での「改善」されない場合の取材拒否措置も取り消す。
    ③①および②以外の措置については、(a)-③も含めて変更は加えていない。
  (c)9月25日、今村市長は、間もなく返還期限を迎える復興住宅の問題について、11社が加盟する市政記者クラブが二度にわたって要望しているにもかかわらず、これまで市議会やホームページで説明しているから、などとして記者会見を拒否した。
  (d)10月15日、今村市長は、市の重要施策を公表する方法として記者会見よりホームページに文書をあげるという方針を示した。同市長によれば、記者会見をしても市の見解をそのまま報道してもらえるとは考えていないので、誤解を招き、議論を呼ぶ等の内容については、会見ではなくホームページに文書で市の見解を発表していく、という。

 (4)一連の諸措置は、報道機関へのきわめてあからさまな攻撃だ。取材、報道の自由への深刻な侵害だ。
  (a)「偏向報道」の文言や取材拒否措置は取り消されたものの、当局に批判的な報道についてメディア名や抗議文を公表するのは制裁的な意味を持つ過剰な規制であって、報道の自由を脅かす危険性がある。
  (b)テレビ局取材へのビデオ撮影についても、取材源の秘匿も含む取材の自由そのものに公権力が介入し、メディアを監視することにほかならず、違憲の措置と呼ばざるを得ない。
  (c)ホームページでの対応方針は、記者会見そのものの拒否宣言であり、取材・報道の自由を狭め、市民の知る権利を奪うことを意味する。自由なメディアと民主主義社会にあってはならない挑戦だ。

□田島泰彦(上智大学教授)「取材監視、会見拒否!今村岳司西宮市長が報道に異常な攻撃」(「週刊金曜日」2015年11月6日号)
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