語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【旅】山陰・瀬戸内・四国横断の旅

2017年01月29日 | □旅
 1988年4月10日、岡山県と香川県を結ぶ「瀬戸大橋」が開通し、四国が本州と「陸続き」になった。この機会に「山陰・瀬戸内・四国横断の旅」を構想したのが宮脇俊三。  

 <まず松江を朝7時頃に発車する特急「やくも」岡山行きに乗る。列車は左窓に大山を望みながら中国山地へと分け入って行く。
 四月の山陰地方は、まだ春が浅い。冬雲が空を被(おお)っているかもしれない。
 重厚で、やや陰気なつくりの民家を眺めているうちに鳥取、岡山の県境の谷田峠(たんだだわ)をトンネルで抜ける。
 とたんに窓外の景観が一変する。明るい陽光が降りそそぎ、眩(まぶ)しいほどだ。民家も開放的な構造に変わる。陰陽の気象のちがいを、これほど短時間に明快に見せてくれる路線は少ない。
 列車は高梁川(たかはしがわ)に沿って岡山へと快走するが、急ぐことはないので、9時半頃に着く総社で下車し、吉備線の鈍行列車に乗りかえて、岡山に向かうことにしよう。
 吉備は古代からの史跡に富んだところで、造山(つくりやま)古墳、国分寺、吉備津神社、吉備津彦神社、秀吉の水攻めの高松城跡など、見るべきものが被い。そして、なによりも、のどかな吉備路を散策する気持のよさ。春爛漫の四月は最良の季節である。
 好みの史跡を二、三選んでタクシーと吉備線の併用で回り、12時半頃に岡山に着く。

 さて、いよいよ四国へ向かうのだが、岡山発13時00分発の高知行特急「南風3号」に乗るのがよいだろう。(中略)
 13時25分頃、瀬戸大橋にかかる。島づたいに吊橋(つりばし)、斜張橋(しゃちょうきょう)、高架橋をつらねたもので、めまぐるしく瀬戸内海を眺めるうちに、たちまち四国に進入する。
 琴平から四国山脈を越えると、眼下に吉野川を見下ろす。この眺望は日本の鉄道の車窓の白眉である。
 14時40分頃にに阿波池田に着き、ホームのスタンドで色の黒い「祖谷渓(いやだに)そば」を食べてから徳島本線に乗りかえる。線名は「本線」だが、JRの分類では「地方交通線」つまりローカル線で、吉野川に沿って、のんびりと徳島へ向かう。
 徳島からは四国の東海岸を南下する牟岐(むぎ)線に乗る。沿線は亜熱帯植物が色濃く茂り、南国情緒をかもしだしている。朝に山陰を発し、途中下車や回り道をして、夕べには南国に至る。瀬戸大橋のおかげで、こんな旅が可能になった。
 牟岐線の途中で日が暮れてしまうのが、ちょっと残念だから、阿波池田を回らずに高松経由とするほうがよいかもしれない。これなら1時間半ぐらい短縮できる。
 宿泊地は日和佐(ひわさ)がよい。海の幸が豊富な漁港だ。夏ならば海辺でウミガメの産卵を見ることもできる。>

□宮脇俊三『旅は自由席』(新潮社、1991/新潮文庫、1995)の「山陰・瀬戸内・四国横断の旅」
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【佐藤優】「不可能の可能性」に挑む、言語の果たす役割の大きさ、NYタイムズ紙コラムニストの人生論

2017年01月29日 | ●佐藤優
   
 ①柄谷行人『柄谷行人講演集成1995-2015』(ちくま学芸文庫 1,000円)
 ②OECD教育研究革新センター編著(本名信行・監訳)『グローバル化と言語能力 自己と他者、そして世界をどうみるか』(明石書店 6,800円)
 ③デイヴィッド・ブルックス(夏目大・訳)『あなたの人生の意味 先人に学ぶ「惜しまれる生き方」』(早川書房 2,300円)
 (1)①に収録された「他者としての物」と題された講演録が面白い。
 <私の定義では、他者とは、ヴィトゲンシュタインの言い方でいえば、言語ゲームを共有しない者のことです。彼はその例として、しばしば外国人をあげていますが、精神異常者をあげてもよい。確かに、彼らとの間に合意が成立することは困難です。しかし、まったく不可能ではない。ここで、それがまったく不可能な他者を考えてみましょう。それは死者であり、いまだ生まれざる者です。生きている他者とであれば、いかに文化が異なり、あるいはいくらか正気からかけ離れているとしても、なんらかの合意に至ることがありえないことではない。他方、死者や生まれざる者とは、そのようなことは不可能なのです>
 死者や生まれざる者との対話という「不可能の可能性」に挑むことが、過去と未来の歴史に対して責任を負うことなのだ。

 (2)②において、次の指摘がなされている。
 <言語は、人の認知的発達や対人コミュニケーションに不可欠なものだが、グローバル化によって、異文化間コミュニケーションや世界的なつながりという、さらに高いレベルへとその意味が昇格している。にもかかわらず、言語や言語学習の問題が、グローバル化の重要な要素とみなされることはあまりなく、グローバル化は概して、経済やテクノロジーが動かす現実とみられている。本書は、言語に対するグローバル化の影響は大きく、時に困難を伴うものであること、その一方で、言語や多言語コミュニケーションが、グローバル化や世界全体の今後に寄与することもすでに現実であり、また予測もされていて、その将来的な影響力は、言語のグローバル化の影響と同じく甚大であることを明らかにしてる。>
 グローバル化の過程で他者理解に果たす言語の役割は今後ますます大きくなる。

 (3)③は、「ニューヨーク・タイムズ」紙のコラムニストによる興味深い人生論だ。
 <社会への信頼感は低下している。たとえば、「他人は総じて信用できると思いますか。それと他人と関わる時にはいくら用心しても用心しすぎではないと思いますか。それとも他人と関わる時にはいくら用心をしてもしすぎではないと思いますか」と質問したとする。(中略)1990年代には、いくら用心をしてもしすぎではないしすぎではないと思いますか」と質問したとする。(中略)1990年代には、いくら用心をしてもしすぎではないという人が、信用できるという人より20パーセントも多い、という状況になった。いくら用心をしてもしすぎではないという人が、信用できるという人よりも20パーセントも多い、という状況になった。しかも、この差はまだ広がり続けている。>
 社会を強化するためには、人間間の相互不信を脱却しなければならないが、そのためにも言語の機能が重要になる。

□佐藤優「言語の果たす役割の大きさ ~知を磨く読書 第184回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年2月4日号)
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 【参考】
【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~
【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教
【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議
【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所
【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~
【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国
【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~
【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化
【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築
【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品
【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~
【佐藤優】組織の非情さが骨身に沁みる ~新田次郎『八甲田山死の彷徨』~
【佐藤優】プーチン政権の本質、2017年の論点、ロシアと欧州
【佐藤優】国際人になるための教科書、ストレスが人間を強くする、日本に易姓革命はない
【佐藤優】ロシアでも愛された知識人の必読書 ~安部公房『砂の女』~
【佐藤優】トランプ当選予言の根拠、猫の絵本の哲学、人間関係で認知症を予防
【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口
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【佐藤優】デモや抗議活動のサブカルチャー化、グローバル化に対する反発を日露が共有、グローバル化に対する反発が国家機能を強化
【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
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