語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【旅】内田康夫の神戸

2017年01月31日 | □旅
 内田康夫のトラベルガイドには定評がある。例えば、本書プロローグに曰く、

 <新神戸駅の裏--北側には街はない。駅の向こうには、いきなり六甲山の急峻な斜面が立ち上がる。
 日本でもっとも魅力的な都市の一つといわれる神戸の市街地と、駅の建物を隔てたほんの背中合わせに、深山幽谷のおもむきさえ感じさせる、緑濃い山肌が迫っている。文字どおり「光と影」の対照の妙が鮮やかである。こんな不思議な風景は、ほかでは見ることはできない。
 駅裏にたった一本だけある細い山道を辿ると、布引の滝に達する。
 (中略)この道は、ガイドブックなどに、遊歩道として紹介されているのだが、市民ですらその存在を知る者が少ない。むろん、余所から神戸を訪れる一般の観光客は、滅多に立ち寄らない。近隣に住む者だけの、いわば秘密の小径になっている。
 (中略)布引の滝は、登るにつれて、「雌滝」「鼓ヶ滝」「夫婦(めおと)滝」「雄滝」の順で現れる。雌滝は19メートルほどだが、いちばん上の雄滝は50メートル近い勇壮な飛瀑である。四つの滝からは、たえず霧が湧き上がり、周辺の樹木を潤す。>

 小径へ突き出る小枝には蜘蛛の巣がかかり、俯いて歩いていると、頭にくっついたりする。駅裏から雄滝まで、上りは30分くらいみたほうがよい。
 もう少しオーソドックスなコースは、つづれ折の長い道だ。ハーブ園に至る。ハーブ園にはロープウェイを使ってもよい。往路のみでもよいし、時間がなければ往復ともロープウェイを使うとよいが、花々をめでつつ、ゆっくり歩いて降りていくほうが風情がある。

□内田康夫『神戸殺人事件』(中公文庫、2007)
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    雄滝
  

【派遣】余はいかにして派遣社員となりしか ~中高年派遣社員物語1~

2017年01月31日 | ノンフィクション
 (1)60代なかば、現役の派遣社員。名前を公にできない。若い頃から作家志望、中年になって環境保護に目覚めたので、「森川海守」というペンネームを創造した。森から始まり、川、海へとつながる生態系全体を守るぞ、という心意気だ。
 この連載でも、悲喜こもごもの中高年派遣社員の実体を述べ、中高年の悲哀から始まって、この国のあり方まで俎上に載せたい。ゆくゆくはアベノミクスさん=安倍首相に届け、派遣社員の待遇改善を図りたい。

 (2)筆者(森川氏)が派遣社員になった理由から始めるが、実は生い立ちから話さないと始められない。
 筆者は幼児期に親から見棄てられ、カトリックの施設に保護されて育ち、中学卒業後は施設を出て、たった一人で社会の荒波に漕ぎ出した。要するに天涯孤独な身の上なのだが、最近、ひょんなことから何と、60年前に生き別れた姉2人に出会えた。
 とまれ、施設を出て身寄りもない筆者は、定時制高校に通いながら、プレス機の職工や温度計製作会社に勤めた。いずれも正社員だった。
 大学進学のため、牛乳・新聞配達のアルバイトに転じたものの、筆者の若い頃は高度経済成長時代で、企業に勤めれば、それは正社員だった。
 新聞配達等のアルバイトをしながら、結局3浪して、やっと大学に入学できた。卒業したのは28歳だった。随分と歳の遅い、親のいない、ツテも何もない人間だったが、東京・丸の内の東京海上の高層ビルにあった外資系保険会社の営業員に採用された。

 (3)研修後は埼玉支店に配属され、新規代理店、顧客開拓の仕事をした。支店にいても仕事はないので、出勤後はすぐに店を出て、まったくの飛び込みで旅行代理店や中古自動車店で新規代理店に勧誘し、レストランや団地ではドアを叩き、保険を売り込んだ。
 難しい仕事かと思いきや、実はそうでもない。突然ドアを叩かれ、保険を売り込みに来ました、と言われたら、普通は驚くが、驚かない人もいる。セールストークに乗せられ、そのままお金を払って火災保険等に入る人がいるのである。

 (4)こうして毎日、新規の顧客を開拓、1年もしないうちに毎月新規代理店を開拓するまでになった。おかげで人見知りだった筆者は、営業の基本を学ぶことができた。
 しかし、3年で、営業には向かないこと、保険料率のうさんくささを悟り、勤めながら通信教育で教師の資格をとった後は、塾の講師を経て、地方の高校教師を6年間勤めた。
 ここで環境問題に目覚め、38歳で大学院に入学。修了後は41歳にして民間の廃棄物調査研究所の研究員になった。

□森川海守「余はいかにして派遣社員となったか ~中高年派遣社員物語1~」(「週刊金曜日」2017年1月13日号)
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