(1)健康食品として広く飲まれている青汁の一部商品が、4月初め、デパートの店頭やネット通販からいっせいに撤去された。原料が放射線照射処理されていることが、市民の検査によって明らかになったためだ。
食品に対する放射線照射は、ジャガイモの発芽防止目的を除き、食品衛生法違反だ。
みなと保健所(東京都港区)が、問題となった原料の輸入販売会社「グリーンバイオアクティブ(GBA)」社に「大麦若葉粉末」20トンの自主回収を指導し(4月14日)、後に回収命令に切り替えた(5月2日)。
(2)(1)は、照射食品の違法輸入の氷山の一角にすぎない。
というのは、日本へ食料を輸出している中国、米国、東南アジア諸国などでは照射食品が許可され、流通している。しかも、輸出入の際の検疫は、時々モニタリング(抜き取り)調査をする程度で、きわめて緩やかだ。このため、かなりの量の違法照射食品が検疫をすり抜け、日本人の口に入っている(推定)。
(3)コバルト60などが発するガンマ線や、電子加速器が放出する電子線を食品に当て、病原菌を殺したり、発芽組織を傷つけたりするのが放射線照射だ。
その線量は、日本原子力産業会議の資料によれば(単位はキログレイ(kGy))
・ジャガイモの発芽抑制・・・・0.03~0.15kGy
・香辛料などの殺菌・・・・3~10kGy
哺乳動物の致死線量は0.005~0.01kGyだから、人間に有害な線量よりはるかに大量の放射線が食品に照射されているわけだ。
(4)照射食品について、
(a)国際原子力機関(IAEA)、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)の合同専門家会議は1980年に「意図した技術上の目的を達成するために適正な線量を照射した食品は、適正な栄養を有し、安全に摂取できる」との見解をまとめている。
(b)(a)を基に、国際食品規格委員会(コーデックス委員会、CAC)は、「食品への放射線照射は、正当な技術目的を達成するのに必要な場合を除き、10kGyを超えるべきではない」と定めている。
(c)(a)について、
「合同専門家会議が1976年に公表した検討課題を検討していない」
「重要な実験のデータが公表されず追試が困難」
「検討内容と結論の間に論理の飛躍がある」
などの疑問が出されている。そして、照射食品の安全性に疑問をつきつける動物実験も多い。
(d)(a)について、合同専門家会議が照射によって、
①食品の誘導放射能(放射線を出す力)のレベルが上昇することも、
②特別の「分解生成物」が有害なレベルまで生成されることも、
ほとんどない、としている点にも疑問が出されている。
①については、米国陸軍の研究機関の50年以上も前の実験で誘導放射能が生じていたことが2007年に公表されている。
②については、アルキルシクロブタノン類(ACBs)という生成物に発癌促進作用のあることがルイ・パスツール大学(仏)の研究者らによって2002年に発表された。
(5)(4)-(d)のような事実を無視して「10kGy以下なら安全」という見解が一人歩きしているのだ。
放射線照射は、透過力が強いので、包装した食品でも殺菌効果があり、温度が2度前後しか上がらないので、冷凍食品の殺菌も可能だ。このため、細菌数が多く衛生上問題のある食品を簡単に殺菌でき、検疫を通過させるのに便利だ。照射に対しても新鮮に見えるので、消費者の目を誤魔化すこともできる。
そうした「利点」があるため、照射食品は世界50か国以上で許可されている。照射食品の量は、2005年時点で40万トンにも達した。中国(にんにく・香辛料・穀物などの146,000トンに照射)、米国(肉・果実・香辛料などの92,000トンに照射)が上位1、2位を占めていた。
その後、アジア諸国で急増した。2010年の照射食品量は、中国で200,000トン超、ベトナムで66,000トンになっている。
(6)普及促進の旗振り役は、IAEAなど世界の原子力関係者だ。原子力産業は、食品照射施設を懸命に売り込んでいる。
日本の原子力業界は、1960年代から食品照射の導入に熱心だった。
しかし、1972年にジャガイモの発芽防止用に限って許可されただけで、他の食品への照射は禁止されてきた。
全国でただ一つ、北海道士幌町農協が「芽止めじゃが」の表示付きで照射ジャガイモを販売しているが、年間出荷量は6,000トンにとどまっている。
2000年になって、全日本スパイス協会が香辛料への許可を国に要望し、原子力委員会は2006年、推進を促す文書を厚労省などに通知した。これに対し、厚労省は2010年に、安全性審査に進むにはまだ資料が不十分との趣旨を原子力委員会に回答している。
(7)2011年の福島原発事故以降も、導入に向けた動きは止まらない。
(a)食品安全委員会は、2012年に、ACBsに関するパスツール大学の結論を否定する国内研究者の実験結果を有用なデータだと発表した。これに対し、「実験の方法が異なるので、否定はできていない」との反論が出されている。
(b)厚労省は、2012年9月から、生の牛レバーの殺菌に放射線照射を使うことができないか、研究を進めている。
(a)も(b)も照射食品の導入に道を開こうとしているわけだが、忘れてはならないのは、照射食品は消費者にとってまったく必要がないことだ。
食品の安全を保つには、製造・流通過程を衛生的にすればいいし、そのための技術も数多く開発されている。そもそも「
生命の糧」である食べ物と原子力は相容れない。
照射食品を締め出すために、消費者が声を上げるときだ。
□岡田幹治「健康食品「青汁」を回収へ 原料が放射線で照射されていた」(「週刊金曜日」2014年6月13日号)
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