円の外へ

20070121開設/中学高校国語授業指導案/中学校学級経営案/発達症対応/生活指導/行事委員会指導

中学国語指導案・群読指導・中学校卒業式練習

2010-10-10 18:58:24 | 群読台本中学
2010/10/10up
中学国語指導案・群読指導・中学校卒業式練習

◇卒業式:2007年3月9日
◇内(初3担任・30歳・スキンヘッド)
◇hyo(初3副担・45歳・白髪交じり)

●1ヶ月前
・ある日。
 内「hyoさん。卒業式の台本はよ。できてんの。」
 hyo「いえ・・・まだです。」
 亮「なにやってんの。〆切、2月26日ね。いいね。」
 hyo「はい。」 
・内、ポストイットをhyoの机に貼る。

●2月26日(月)
・卒業遠足前日。 
 hyo「亮さん。悪いけど台本まだなんですが。」
 亮「だめじゃん。無駄に年輪、重ねてんなあ。」
・無駄に年輪重ねてる、はダメな年寄りをさす用語である。

●2月28日(水)
・卒業遠足の翌日。当然、台本はできていない。さすがにあせる。
・学校近くのホテルに電話。二泊する予約を取る。
・帰宅し、二日分の着替え、パソコンを持ち、ホテルに入る。
 パソコンを開きもせず眠る。

●3月1日(木)
・数時間年休をとる。急いでホテルへ帰る。
・午後2時。パソコン起動。生徒を想い出して少し泣く。
・午後9時ちょうど。台本完成。
 7時間のうちイスから立ったのはトイレの一度のみ。
・そして、午後10時。『ヒミツの企画書』完成。
 大きな満足感の中、眠りにつく。

●3月2日(金)
・朝。SHRの時間に台本とヒミツを印刷する。
 hyo「亮せんせい。台本ができました。」
 亮「よし。」
 hyo「それであの、1時間目の式練の時間、台本のセリフ分担させていただきたいんですが。」
 亮「そうか。まあ、しっかりやんなさい。」
 hyo「国語の授業とおんなじなので、学年の先生がいるとやりにくいので、ひとりでやらせてもらいます。」 

・亮さんがいないすきに、学年の先生に頼む。
 hyo「亮さんを教室に近づけないでね。」
 先「オッケー。」 

・教室に入る。
 フォローについてくださる第一教室の先生に、理由なくていねいにご退出願う。
 hyo「急げ。時間がない。机をさげろ。イスだけ持って前にかたまれ!」

・生徒20人黒板の前にかたまる。
・板書(卒業式あとのHR・亮先生を泣かす・乗る?)

・『ヒミツ』をやろうということは、1ヶ月前からある生徒に言われていた。
 しかし、準備できなかった。この時間が勝負だ。
・『ヒミツの企画書』を読み聞かせる。セリフは、四つだけだ。立候補で分担する。
 生徒「手紙書くの? 読むの? 親が入って来るの? エー!!!」
 hyo「うるさいっ! 一生に一度のことだよ。
    亮先生はその手紙を一生とっておくよ。
    お母さんたちが入ってきても、恥ずかしがっちゃダメだよ。」

 生徒「紙は何でもいいの?」
 hyo「ここにある。」
・緑色の手紙用紙を配る。
 hyo「見せるな。落とすな。今すぐ折ってカバンにしまえ。」
・生徒は忍者のように動く。 
 hyo「じゃあ、台本のセリフを分担しましょう。」

・職員室に戻る。
 hyo「亮せんせい。なかなかうまくいかなくて、全部終わりませんでした。」
 亮「えっ。ボケちゃったんじゃないの。hyoさん。」 

●3月3日(土)
・創立47周年を祝う会で出勤。昼の部と夜の部。
 事実上の「閉校式」である。「統合」などではない。物は言いようだ。
月曜は代休。

●3月7日(火)三日前
・セリフ分担は、金曜の帰りに済ませた。
・1校時ラスト、体育館で群読を流す。
 1ページだけで、チャイムが鳴る。チャイムと同時に終了。
 さすが、3年はよどみなく読む。

●3月8日(水)二日前
・1校時群読練習。
 いつものやり方を使う時間がない。やむを得ない。
・亮さんが小さく言う。
   「さあ、見せてもらいますよ。プロの技を。」

 フッフッフッと、彼の心の笑い声が聞こえる。
 hyo「体育館のうしろまで聞こえる声ならマル。聞こえないならバツ。
   サンカクなし。1ページだけ。」


・手に台本と青ペンを持つ。
 hyo「1番。M男。ヨーイ。ハイ!」

・×、×、○、×、×、とセリフ番号に書き、19番で
 hyo「ストップ。聞きなさい。
   1番バツ、2番バツ、3番マル、4番バツ、5番バツ、6番バツ、7番バツ・・・」 

・マルは四つだけ。だめだ。時間がない。
 hyo「2回目。今度は一つずつマルバツを言います。
   1番。M男。ヨーイ。ハイ。」

 hyo「マル、バツ、マル、マル、マル、マル、マル、マル、二重マル・・・。
   よし。良くなった。2ページへ行く。」


・まったく違う声になる。
 ほとんど全部マルになる。
・こうなると、2ページ目は楽勝だ。マルの中に二重丸が混ざり、
  「うまいっ!」
 と瞬間の合いの手を入れる。
・3ページまで通して終了。

●3月8日(木)前日
・1校時。合唱と群読最後の練習時間。
 亮さんが合唱を見たあと群読。
・台本は金曜から四日間毎日手を入れた。
 第1版から4版まで作った。
 朝のSHRで「決定版」を配りライン引きをしておいてもらう。
・生徒は体育館ステージ前の、合唱台に立っている。
 hyo「4ページ。バツが三人続いたらやり直し。
   99番から。
   顔上げろ。
   ヨーイ。ハイ。」
   「バツ、バツ、バツ。ストップ。やり直し。」

・あ~、と生徒はため息をつくが、バツだと自覚しているので、何の文句もない。
・ここで、担任の亮さんが出る。
 亮「お前たち!!!それで全力かっ!!!」
・亮さんはそのまま生徒席に着く。
 hyo「2回目。ヨーイ。・・・ハイッ!」

・マル、マル、マル、マル・・・。
 hyo「それ以上出ないのかっ!」
・122番が最後だ。
 hyo「最後。K男。聞いてなさい。
    ○○○○○ちゅうがっこう……さいごのそつぎょうせい……いちどう!
    47年間で最後のセリフだ。ひとつひとつ、間をあけて言いなさい。
    K男だけ。ヨーイ。全員顔上げろ。ハイ。」


・セリフ終了と同時に、無言で目線と両手でいち、に、さん、し、とお辞儀をさせる。
 hyo「し・び・れ・る~~~」
・と、指揮台の上から転げ落ちてみせる。
 hyo「一回通す。合唱も歌う。時間を計るから、間違えても続けろ。」
・指揮者、伴奏者の動き始めと、戻り方のタイミングは練習済みだ。
 hyo「A子、初めの言葉から戻ったつもり。BGM終わった。伴奏戻った。
   M男。ヨーイ・・・ハイ。」


・学年の教師は黙って座った。
 ぼくは、体育館の後ろで、台本に経過時刻をポイントごとにメモした。
 合唱に入る前に、亮さんの片手が、顔を押さえた。
 全身が震えていた。
・女子が気付いて、一人泣き、二人泣き、亮さんの肩はさらに大きく震えた。
 女子がほとんど全員目をこすりながら、通し練習は終わった。

●3月9日(金)卒業式とヒミツの日
・こういう時、生徒は必ず手紙を書いてくる。
 当日まで、ひと言も何も言わず放っておいた。
 紙をなくした生徒が二人相談に来た。
 一人は、書ききれないのでもう一枚欲しいと言ってきた。
 ろうかの陰で渡して、その場でポケットにしまわせた。

・亮さんは始めての卒業式だから、いろいろ訊いてくる。
 もちろん最後のHRの相談もした。
 卒業式二日前のことだ。

 亮「**さん。どうすればいいのかな。」
 hyo「まあ、一人ひとこと言わせたら、20分すぐたっちゃうよ。」
 亮「うん。」
 hyo「それで、亮さんがしゃべるだろ。5分じゃ終わらないと思うよ。」
 亮「泣いちゃったら、どうしよう。」
 hyo「だろ。そうしたら、10分たつじゃん。お母さんたちが花束渡したりするわけよ。まあ、それで終わりだよ。」
 亮「そうだな。」
 hyo「そうだよ。」

・しかしその時、最後のHRの内容はすべて決まっていた。

・ヒミツは、思わぬところから漏れるものだ。
 ぼくは企画を、学年の教師4人だけに知らせておいた。
 「万が一のため、他の先生には言わないでください。」


・卒業式の朝が来る。教師に確認する。
 「**さん。校長に確認取ったから、卒業生と一緒にすぐ退場してください。」
 「じゃあ、卒業生から離して亮さんだけ、第一教室に連れ込んでしまいます。」
 「いいですねえ。」
 「**さん。証書の筒はドアの前に置いて下さい」
 「**さん。保護者をゆっくり誘導してください。教室に入るタイミングはぼくが指示します。」
 「**さん。卒業生のあとすぐ出て、追い越して、教室準備の手伝いをしてください」


・◇◇校長に別のお願いをした。
 「卒業生の発表のとき、亮さんを卒業生のイスに移動させていいですか。」
 「おお。端っこならいいよ。」 


●卒業式
・亮さんがろうかに生徒を並ばせる。
・ぼくは祝電板の陰で生徒の列を見送る。
・生徒が見えなくなると職員室に隠したCDとデッキと延長コードを持って教室へ走る。
 カラオケが流れる音を確認する。
・教室のドアを閉め、早足で体育館へ向かう。
 館内のいちばん後ろの席で全体を見る。

・プログラムは進む。そして、
「卒業生発表」
 生徒が立つ。
 同時にぼくはスタスタと前に歩く。
・亮さんの耳元で言う。 
 「お立ちください。」 


・ポカンとする彼の礼服の背中をつかみ、立たせ、横に引きずり、
 卒業生座席のまん中近くに押し付けるように座らせる。
 ……校長は「端っこならいいよ」と言ったのだが。
・合唱も群読も素敵だった。
 けれども、意外に生徒は涙を見せなかった。
 その理由を知る人は少なかった。
 ぼくも泣くどころではなかった。

「閉式の言葉」「卒業生退場」
 同時に仁○さんと河○さんの横に歩く。
 「すぐ立って。出口まで動いて。早く。」

・あとで「私が泣いてるのに無理やり立たせた。」と怒られる。
・ぼくも出口に向かう。卒業生に続いて出る。

・亮さんの姿はもうない。仁○さんが、空き教室に連れ込んだのだ。
 卒業生の背中に小声で叫んだ。
 「時間をかせいだ。急げ。走れ!」

・一人残らず全員が走り出す。階段を駆け上がる。

・ぼくも教室まで行く。
 **さんが
 「机を下げなさい! 丸くなって!」

 と仕切るのを確認する。
 相談もしていないのに、円陣にして立たせるところが飛び抜けたセンスだ。

 教室を出て、階段の前で待つ。
・亮さんがとぼとぼ上ってくる。
 まだ、早い。

●ヒミツ
 亮「まだ早いね。どうすればいいの。」
 hyo「間がもてないからさ。ゆっくり行けば。」
 亮「じゃあ、コーヒー飲んでいい?」
・ぼくはろうかをのぞき見る。

・二人の女子が来る。ぼくはサッと職員室のドアへ行く。A子が小さく言う。 
 A子「ちょっと、もう泣きそうなんで、早く呼んでください。」 
・そこで、亮さんに、そろそろ行ったらと言う。
・亮さん。廊下を歩きながら二人に「今日の合唱、へただったなあ。」とか言う。
 二人の女子は合わせて「アハハハ」とか笑う。
 職員室のドアで、三人の背中を遠く見送る。

・教室の前のドアが開くのが見える。
 拍手の音。
 笑い声。

・ぼくは階段の前で待つ。
 保護者が次第に上がってくる。
 「卒業生の保護者の皆様は、ご案内しますので、お待ちください。」

・お揃いのところで説明する。
 「生徒がナイショの計画をやっています。見守ってあげてください。」

・教室後ろのドアは前日に、はずしてある。
 音を立てないためだ。
 保護者を一人ずつ入れる。

・生徒は半円になって教室の前半分に立っている。
 半円の中央のイスに、亮さんが座っている。

・生徒は一人ずつ、亮さんの前に進み出る。
 書いてきた手紙を読む。

 読み始めるが、読めない。
 しゃくりあげ、止まりながら読む。

 亮さんは肩を震わせる。
 震えながら生徒が読む声を聞く。

・生徒。読み終わった手紙を、亮さんに手渡す。
 「ありがとう。ありがとう。」

・亮さんの声は言葉にならない。
・どの手紙にも感謝と寂しさが、詰めこまれて収まりきらず、流れ出した。
・とうてい、涙を見せるとは思えない男子が泣きじゃくった。
・卒業式のあいだ、気迫で歌い言葉を叫んだ男子が、教室では立っていられず泣き崩れた。
・20枚の手紙が読まれた。

 B子「最後に、亮先生のために歌います。
    卒業式と同じ歌ですが、3年1組で歌う最後の歌なので聞いてください。」


・『はばたこう明日へ』 CDの伴奏が流れ始める。
・生徒。歌う。
・亮さん。ますます泣く。
・生徒。泣く。歌う。泣く。
・曲が終わると、生徒がアレンジしたらしい。
 担当の生徒が、学年の先生を教室の前に連れ出す。予定外だ。
 「プレゼントを選びました。」

・3学年の5人の教師は紙包みを手にした。
 プレゼントを開いて披露する間、少し空気は和んだ。
・机とイスが元に戻り、学年の教師は、ろうかの花束と筒をセットした。

・並んだ机の前で、亮さんは、用意した手紙を読み始めた。
・そして出ない声を押し出しながら手紙を読んだ。
・ぼくはその時、机の列の間にしゃがんで見ていた。
・亮さんが一文読むたびに、生徒は声をあげて泣いた。
・声は嗚咽に変わる。

・生徒全員が泣き声を上げるたびに、教室はグラリグラリと船のように揺れた。
 生徒の嗚咽で、部屋が揺れる。
 そんなことがあるのだろうか。
 そんなことは今まで、想像したこともなかった。





 すべてが終わって、

 昇降口を出た生徒は、

 いつまでたっても帰らなかった。


 「帰りたくないよ。」



 「帰りたくないよ。」







 いつか生徒は見えなくなって、

 その声だけが残っていた。




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