第5回漢字音符研究会 2017年9月9日(土)
テーマ 親音符から子音符・孫文字への成長
~音符家族の成長過程を見る~
講 師 山本康喬 『漢字音符字典』著者・漢字教育士
1.1 親音符から子音符・孫音符へ
上の図版は私の『漢字音符字典』の音符「工コウ」のページです。工の字形で「コウ」の発音をもつ文字が18字集まっています。音符である工を除く17字は、音符「工」を親音符とすると、親から生まれた形声文字で子どもに当たる世代の字です。ただし、槓コウ・熕コウ・鴻コウは、孫にあたる世代の字で、子供にあたる世代の字の貢コウ・江コウから生まれています。貢コウ、江コウは音符だからです。繰り返しになりますが、その中でも江コウと貢コウは、更に音符となり、形声文字を作っています。
貢コウ・ク・みつぐ ⇒ 槓コウ・てこ[木+貢] ・ 熕コウ・大砲[火+貢]
江コウ・え ⇒ 鴻コウ・おおとり[鳥+江]
この例から分かるように、一つの基本的な音符は、親から子・孫へと広がって次々と漢字を増やしてゆく様子が見てとれます。
同じような例は多く見ることができます。以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。
左から、親音符 ⇒ 子音符 ⇒ 孫の字の順です。子音符・孫の形声文字の分解は「部首+音符」の順です。
「寺ジ・てら」 ⇒ 時ジ・とき[日+寺] ⇒ 蒔シ・ジ・まく[艹+時] ・ 塒シ・ジ・ねぐら[土+時]
親音符「寺ジ」は形声文字の子音符「時ジ」となり、さらに形声孫文字・蒔シ・ジ、塒シ・ジをつくる。
「召ショウ・めす」 ⇒ 昭ショウ・あきらか[日+召] ⇒ 照ショウ・てる[灬+昭]
「尚ショウ・たっとぶ」 ⇒ 賞ショウ[貝+尚] ⇒ 償ショウ・つぐなう[イ+賞]
「亲シン」 ⇒ 新シン・あたらしい[斤+亲] ⇒ 薪シン・たきぎ[艹+新] ・ 噺はなし[口+新]<国字>
親音符「亲シン」は形声文字の子音符「新シン」となり、さらに形声孫文字・薪シン、および国字の噺はなし、をつくる。
⇘ 親シン・したしい[見+亲] ⇒ 襯シン・はだぎ[衣+親]
親音符「亲シン」は形声文字の子音符「親シン」となり、さらに形声孫文字・襯シン、をつくる。
「疋ソ・ショ」 ⇒ 楚ソ[林+疋] ⇒ 礎ソ・いしずえ[石+楚]
「長チョウ・ながい」 ⇒ 張チョウ・はる[弓+長] ⇒ 漲チョウ・みなぎる[氵+張]
「屯トン」 ⇒ 頓トン・ぬかずく[頁+屯] ⇒ 噸トン[口+頓]<国字>
「白ハク・しろ」 ⇒ 泊ハク・とまる[氵+白] ⇒ 箔ハク・はく[竹+泊]
「米ベイ・マイ・こめ」 ⇒ 迷メイ・ベイ・まよう[辶+米] ⇒ 謎メイ・ベイ・なぞ[言+迷]
「方ホウ・かた」 ⇒ 放ホウ・はなつ[攵+方] ⇒ 倣ホウ・ならう[イ+放]
「矛ム・ほこ」 ⇒ 務ム・つとめる[攵+力+矛] ⇒ 霧ム・きり[雨+務]
以上は、親音符から孫の形声字まで、同じ発音を継承している例ですが、次に発音が変化している例を挙げます。これらは発音が変化しているのではなく、親音符から生まれた会意文字が、或は親字から生まれた会意文字が、別の音の音符に転換し、その音符が新たな形声文字を作り出したのです。
1.2 子音符の発音が変化している例
上の図は、『漢字音符字典』の音符「至シ」を含むページです。親音符「至シ」は合計15の子音符を持っています。しかし、この音符の発音は変化が大きく、シのほかにシツ・チ・チツ・テツ・トウの発音があります。この表を詳細に見ると、以下の三つの子音符に対し、それぞれの孫文字が見られます。
「至シ・いたる」 ⇒ 致チ・いたす[攵+至] ⇒ 緻チ・こまかい[糸+致]
親音符「至シ」は、形声文字の子音符「致チ」をつくり(チ音の子音符)、さらにチ音の形声孫文字「緻チ」をつくる。
⇘ 窒チツ・ふさぐ[穴+至] ⇒ 膣チツ・女性器官[月+窒]
親音符「至シ」は、形声文字の子音符「窒チツ」をつくり(チツ音の子音符)、さらにチツ音の形声孫文字「膣チツ」をつくる。
⇘ 到トウ・いたる[刂+至] ⇒ 倒トウ・たおれる[イ+到]
親音符「至シ」は、会意文字の子音符「到トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「倒トウ」をつくる。
これらの子音符は、それぞれ親音符の発音から変化しています。しかし、孫の文字は子音符の発音を受け継いでいますので、孫文字にとって親音符の発音と異なる子音符の発音が音符になっています。
同じような例を以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。子音符・孫文字の分解は「部首+音符」の順です。
「乍サ・ながら」 ⇒ 窄サク・せまい[穴+乍] ⇒ 搾サク・しぼる[扌+窄]
親音符「乍サ」は、形声文字の子音符「窄サク」をつくり(サク音の子音符)、さらにサク音の形声孫文字「搾サク」をつくる。
「祭サイ・まつり」 ⇒ 察サツ・みる[宀+祭] ⇒ 擦サツ・こする[扌+察]
親音符「祭サイ」は、会意文字の子音符「察サツ」をつくり(サツ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「擦サツ」をつくる。
「鳥チョウ・とり」 ⇒ 島[嶋]トウ・しま[山+鳥] ⇒ 搗トウ・つく[扌+島]
親音符「鳥チョウ」は、会意文字の子音符「島トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「搗トウ」をつくる。
「取シュ・とる」 ⇒ 最サイ・もっとも[日+取] ⇒ 撮サツ・とる[扌+最]
親音符「取シュ」は、会意文字の子音符「最サイ」をつくり(サイ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「撮サツ」をつくる。
「皮ヒ・かわ」 ⇒ 波ハ・なみ[氵+皮] ⇒ 婆バ・ばば[女+波]・菠バ・ホウ[艹+波]
親音符「皮ヒ」は、形声文字の子音符「波ハ」をつくり(ハ音の子音符)、さらにバ音の形声孫文字「婆バ・菠バ・ホウ」をつくる。
「令レイ」 ⇒ 領リョウ・えり[頁+令] ⇒ 嶺レイ・リョウ・みね[山+領]
親音符「令レイ」は、形声文字の子音符「領リョウ」をつくり(リョウ音の子音符)、さらにレイ・リョウ音の形声孫文字「嶺レイ・リョウ」をつくる。
以上の1.1と、1.2の例から、基本字となる音符字に意符(部首)が付加されて形声文字(或いは会意文字)が作られますが、更にその形声文字(或いは会意文字)が音符となり、第三世代の形声文字が生まれることがあり、しかも、この現象はしばしば発生することが分かります。こうした音符群の集合を音符家族といいます。すなわち、基本字が親音符になり、続いて子音符、さらに孫の字へと、成長する軌跡が字形の上に残されます。
2.音符の始まりは
音符の定義は、「形声文字において音を表す文字要素(部分)である」 これが唯一の音符の定義です。従って形声文字のあるところに音符あり、です。意符と音符を組み合わせて形声文字が生まれるとき、その字の音を表す部分はその前に音符になっていた音符か、今回新たに音符となる文字要素のどちらかです。
今回新たに音符となる文字要素とは、今使われている漢字のどれか(象形・指事・会意・形声・仮借)です。同じ音の字なら既存の音符でも良いのですが、新たな音を表すには象形、会意文字を新たに音符として用いるかです。このようにして、時代が進むにつれ漢字が増加し、形声文字が増加する。これまで象形文字や会意文字であった字が音符に変身するのです。
テーマ 親音符から子音符・孫文字への成長
~音符家族の成長過程を見る~
講 師 山本康喬 『漢字音符字典』著者・漢字教育士
1.1 親音符から子音符・孫音符へ
上の図版は私の『漢字音符字典』の音符「工コウ」のページです。工の字形で「コウ」の発音をもつ文字が18字集まっています。音符である工を除く17字は、音符「工」を親音符とすると、親から生まれた形声文字で子どもに当たる世代の字です。ただし、槓コウ・熕コウ・鴻コウは、孫にあたる世代の字で、子供にあたる世代の字の貢コウ・江コウから生まれています。貢コウ、江コウは音符だからです。繰り返しになりますが、その中でも江コウと貢コウは、更に音符となり、形声文字を作っています。
貢コウ・ク・みつぐ ⇒ 槓コウ・てこ[木+貢] ・ 熕コウ・大砲[火+貢]
江コウ・え ⇒ 鴻コウ・おおとり[鳥+江]
この例から分かるように、一つの基本的な音符は、親から子・孫へと広がって次々と漢字を増やしてゆく様子が見てとれます。
同じような例は多く見ることができます。以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。
左から、親音符 ⇒ 子音符 ⇒ 孫の字の順です。子音符・孫の形声文字の分解は「部首+音符」の順です。
「寺ジ・てら」 ⇒ 時ジ・とき[日+寺] ⇒ 蒔シ・ジ・まく[艹+時] ・ 塒シ・ジ・ねぐら[土+時]
親音符「寺ジ」は形声文字の子音符「時ジ」となり、さらに形声孫文字・蒔シ・ジ、塒シ・ジをつくる。
「召ショウ・めす」 ⇒ 昭ショウ・あきらか[日+召] ⇒ 照ショウ・てる[灬+昭]
「尚ショウ・たっとぶ」 ⇒ 賞ショウ[貝+尚] ⇒ 償ショウ・つぐなう[イ+賞]
「亲シン」 ⇒ 新シン・あたらしい[斤+亲] ⇒ 薪シン・たきぎ[艹+新] ・ 噺はなし[口+新]<国字>
親音符「亲シン」は形声文字の子音符「新シン」となり、さらに形声孫文字・薪シン、および国字の噺はなし、をつくる。
⇘ 親シン・したしい[見+亲] ⇒ 襯シン・はだぎ[衣+親]
親音符「亲シン」は形声文字の子音符「親シン」となり、さらに形声孫文字・襯シン、をつくる。
「疋ソ・ショ」 ⇒ 楚ソ[林+疋] ⇒ 礎ソ・いしずえ[石+楚]
「長チョウ・ながい」 ⇒ 張チョウ・はる[弓+長] ⇒ 漲チョウ・みなぎる[氵+張]
「屯トン」 ⇒ 頓トン・ぬかずく[頁+屯] ⇒ 噸トン[口+頓]<国字>
「白ハク・しろ」 ⇒ 泊ハク・とまる[氵+白] ⇒ 箔ハク・はく[竹+泊]
「米ベイ・マイ・こめ」 ⇒ 迷メイ・ベイ・まよう[辶+米] ⇒ 謎メイ・ベイ・なぞ[言+迷]
「方ホウ・かた」 ⇒ 放ホウ・はなつ[攵+方] ⇒ 倣ホウ・ならう[イ+放]
「矛ム・ほこ」 ⇒ 務ム・つとめる[攵+力+矛] ⇒ 霧ム・きり[雨+務]
以上は、親音符から孫の形声字まで、同じ発音を継承している例ですが、次に発音が変化している例を挙げます。これらは発音が変化しているのではなく、親音符から生まれた会意文字が、或は親字から生まれた会意文字が、別の音の音符に転換し、その音符が新たな形声文字を作り出したのです。
1.2 子音符の発音が変化している例
上の図は、『漢字音符字典』の音符「至シ」を含むページです。親音符「至シ」は合計15の子音符を持っています。しかし、この音符の発音は変化が大きく、シのほかにシツ・チ・チツ・テツ・トウの発音があります。この表を詳細に見ると、以下の三つの子音符に対し、それぞれの孫文字が見られます。
「至シ・いたる」 ⇒ 致チ・いたす[攵+至] ⇒ 緻チ・こまかい[糸+致]
親音符「至シ」は、形声文字の子音符「致チ」をつくり(チ音の子音符)、さらにチ音の形声孫文字「緻チ」をつくる。
⇘ 窒チツ・ふさぐ[穴+至] ⇒ 膣チツ・女性器官[月+窒]
親音符「至シ」は、形声文字の子音符「窒チツ」をつくり(チツ音の子音符)、さらにチツ音の形声孫文字「膣チツ」をつくる。
⇘ 到トウ・いたる[刂+至] ⇒ 倒トウ・たおれる[イ+到]
親音符「至シ」は、会意文字の子音符「到トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「倒トウ」をつくる。
これらの子音符は、それぞれ親音符の発音から変化しています。しかし、孫の文字は子音符の発音を受け継いでいますので、孫文字にとって親音符の発音と異なる子音符の発音が音符になっています。
同じような例を以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。子音符・孫文字の分解は「部首+音符」の順です。
「乍サ・ながら」 ⇒ 窄サク・せまい[穴+乍] ⇒ 搾サク・しぼる[扌+窄]
親音符「乍サ」は、形声文字の子音符「窄サク」をつくり(サク音の子音符)、さらにサク音の形声孫文字「搾サク」をつくる。
「祭サイ・まつり」 ⇒ 察サツ・みる[宀+祭] ⇒ 擦サツ・こする[扌+察]
親音符「祭サイ」は、会意文字の子音符「察サツ」をつくり(サツ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「擦サツ」をつくる。
「鳥チョウ・とり」 ⇒ 島[嶋]トウ・しま[山+鳥] ⇒ 搗トウ・つく[扌+島]
親音符「鳥チョウ」は、会意文字の子音符「島トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「搗トウ」をつくる。
「取シュ・とる」 ⇒ 最サイ・もっとも[日+取] ⇒ 撮サツ・とる[扌+最]
親音符「取シュ」は、会意文字の子音符「最サイ」をつくり(サイ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「撮サツ」をつくる。
「皮ヒ・かわ」 ⇒ 波ハ・なみ[氵+皮] ⇒ 婆バ・ばば[女+波]・菠バ・ホウ[艹+波]
親音符「皮ヒ」は、形声文字の子音符「波ハ」をつくり(ハ音の子音符)、さらにバ音の形声孫文字「婆バ・菠バ・ホウ」をつくる。
「令レイ」 ⇒ 領リョウ・えり[頁+令] ⇒ 嶺レイ・リョウ・みね[山+領]
親音符「令レイ」は、形声文字の子音符「領リョウ」をつくり(リョウ音の子音符)、さらにレイ・リョウ音の形声孫文字「嶺レイ・リョウ」をつくる。
以上の1.1と、1.2の例から、基本字となる音符字に意符(部首)が付加されて形声文字(或いは会意文字)が作られますが、更にその形声文字(或いは会意文字)が音符となり、第三世代の形声文字が生まれることがあり、しかも、この現象はしばしば発生することが分かります。こうした音符群の集合を音符家族といいます。すなわち、基本字が親音符になり、続いて子音符、さらに孫の字へと、成長する軌跡が字形の上に残されます。
2.音符の始まりは
音符の定義は、「形声文字において音を表す文字要素(部分)である」 これが唯一の音符の定義です。従って形声文字のあるところに音符あり、です。意符と音符を組み合わせて形声文字が生まれるとき、その字の音を表す部分はその前に音符になっていた音符か、今回新たに音符となる文字要素のどちらかです。
今回新たに音符となる文字要素とは、今使われている漢字のどれか(象形・指事・会意・形声・仮借)です。同じ音の字なら既存の音符でも良いのですが、新たな音を表すには象形、会意文字を新たに音符として用いるかです。このようにして、時代が進むにつれ漢字が増加し、形声文字が増加する。これまで象形文字や会意文字であった字が音符に変身するのです。
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