goo blog サービス終了のお知らせ 

先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

今週の本棚・本と人:『ともいきの思想』 著者・阿部珠理さん

2010-08-16 | 先住民族関連
(毎日新聞 2010年8月15日 東京朝刊)

◇著者・阿部珠理(じゅり)さん
 (小学館101新書・777円)

 ◇物語が息づく生活とは
 アメリカ先住民研究の第一人者で立教大教授のエッセー集。サウスダコタ州の保留地で、20年来続けてきたフィールドワーク体験を振り返っている。平易で温(ぬく)もりのある文章が魅力だ。
 コミュニティー全体の安寧や幸福を願って自らの肉体をささげる「サンダンス」。持っているものを与え尽くす「ギヴ・アウェイ」。先住民たちとの交流がつづられていく。そこに存在しているのは、「ともいき」つまり共生の思想に裏付けられた生活だという。
 「研究論文では書けない、生身の私個人が感じたり考えたりしたことを書きたかった。たとえば、無縁社会と言われる今の日本が失いつつある、人と人がつながることの輝きです。どんなに貧しくても、餓死者も孤児も見当たらない。共同体全体で子供を育てている。私も育児の経験がありますが、親を孤立させず、子供を社会全体で育てるという知恵に共感します」
 具体的なエピソードが連ねられていく。それぞれに鮮やかな場面が描かれるが、特に印象的なのは、著者が部族大学で三島由紀夫の短編『憂国』をテキストに講義をした時の挿話だ。
 2・26事件を背景に、反乱を起こした仲間たちから、新婚だからと配慮されて誘われなかった青年将校が切腹する物語。彼はなぜ、死ななければならないのか。どうして、妻まで死を選んだのか。疑問を口にする白人学生に対して、いつも控えめな先住民の少女が「ここには、美がある」と発言したという。
 「これこそが文化なんです。彼らの生活の中に、物語が息づいているんですね。部族の記憶がストーリーとして、口承で伝えられている。そんな環境で養われた感性が、三島の美意識にも反応するのです」
 先住民研究に導いたのは、作家の故・中上健次だった。以来、彼らから学び、さまざまなことに気づかされた日々だったという。「はからずも、私自身が成長していく過程をつづった一冊になりました」<文・重里徹也/写真・荒牧万佐行>
http://mainichi.jp/enta/book/hondana/news/20100815ddm015070023000c.html

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

《湖沼を訪ねて》シュンクシタカラ湖

2010-08-16 | アイヌ民族関連
(朝日新聞 2010年08月16日)
■手つかず 神秘性は今も
 釧路市阿寒町の布伏内(ふぶしない)集落から林道を車で約1時間。急な上り坂の先に湖面が姿を現す。面積0・11平方キロ、周囲1・8キロ。アイヌ語でシュンクはエゾマツ、シタカラは鳥の鳴き声。原始林に包まれた秘境だ。
 「1970年代、人工衛星で存在が確認された」「日本国内で最後に発見された」。そう紹介されることも多い。
 どうも違うらしい。「戦前、材木の伐採に行った人たちの話で、湖があることは聞いていました」。布伏内の元阿寒町議、金行良武(きんこうよしたけ)さん(73)は話す。そばを流れるシュンクシタカラ川は地元で「ミニ層雲峡」と呼ばれる名所で、ひそかに訪れる人もいたという。
 実際、国土地理院の5万分の1地形図の1920(大正9)年発行版に「シュンクシタカラ沼」と表記がある。当時は実測だが、昭和40年代の航空写真による測量でも確認されている。
 周囲の山々から水が流れ込むが水の出口はなく、地下のどこかでシュンクシタカラ川とつながる。70年代後半にヒメマスなどを放流するまでは魚影はなかった。だが、その放流も遠すぎるという理由で中止になった。
 「最近は釣り人もあまり来ない。まさに知る人ぞ知る湖。だから誤解も生まれるのでしょう」と金行さん。最後に発見された――と信じてしまう神秘性は今も変わらない。
(古源盛一)=終わり
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000001008160004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする