カーサ ブルータスFebruary 9, 2020 |
1970年代初頭にアマゾンの先住民族〈ヤノマミ〉に出会い、彼らの存続のために活動するブラジル在住の女性カメラマン、クラウディア・アンドゥハル。アートを通じて自然や文化の多様性を取り上げて来たカルティエ現代美術財団が、彼女の半世紀にわたる力強く美しい記録の集大成を公開中だ。
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粉末の幻覚剤、ヤコアナの影響下にある若者Antônio Korihana thëri。ロライマ州、カトリマーニ。1972-76年。 © Claudia Andujar
ブラジル、アマゾンの森林地帯で文明との接触をほぼ持たずに存続して来た先住民〈ヤノマミ〉。2003年『ヤノマミ・スピリット・オブ・ザ・フォレスト』展で、その知られざる暮らしや宗教観、世界観とともに、森林開発や病原菌流入による彼らの危機を世界に呼びかけたカルティエ現代美術館。あれから17年、森林破壊や気候変動、大規模な自然災害による地球規模の危機感が人々の日常の意識に上る今、再び、ヤノマミをテーマに大型展を開催する。ヤノマミの存在は、森を敬い、森と共生する、原初のヒトと自然の関係を現代に呼び覚ます。そして彼らの直面する環境問題は、まさに今現代に生きる私たちの置かれている状況と重なるのだと、展覧会は伝える。
クラウディア・アンドゥハルの膨大な写真アーカイブから、選りすぐりの300点以上のモノクロ、カラー写真のほか、映像インスタレーションを展示。さらにはヤノマミのアーティストによる絵も公開し、ヤノマミの世界を深く理解できる内容となっている。写真家としてだけでなく、ヤノマミ族の森林の権利を守るために活動し続けるアンドゥハルの作品は、ときにヤノマミが彼女に見せる親密な表情に迫り、ときに政治的なメッセージを込める。
1970年代後半、ヤノマミの森林への道路建設や農業植民地化プロジェクトが推し進められ、マラリアやはしか(ヤノマミに存在しなかった伝染病)がもたらされ、領土喪失のみならずコミュニティ全体の破壊の危機が迫った。ユダヤ系の父を持ち、幼少期に父を収容所で無くしたアンドゥハルにとって、アマゾンの民族の生存と固有文化の破壊はジェノサイト(大量虐殺)を思い起こさせ、それがヤノマミの世界へ飛び込んだきっかけになったのだと彼女は語る。
ブラジル政府がヤノマミの領土を法的に認めた1992年以降も、違法な金鉱採掘者の流入による大規模な森林伐採と侵略、水銀汚染などに脅かされている。作品や自然環境保護の活動を通じて、今も世界に、彼らの存続の意義と我々の責任を現代社会に問い続ける88歳の女性カメラマンに、熱い視線が注がれている。
『クラウディア・アンドゥハル、ヤノマミの闘い』展
〈カルティエ現代美術財団〉
261, Bd. Raspail 75014 Paris. TEL +33(0)1 42 18 56 50。1月30日~5月10日。11時~20時(火~22時)。月曜休。入館料11ユーロ。事前に予約すると10.50ユーロに。
https://casabrutus.com/art/129653