VOGUE2023年6月2日
毎年6月はLGBTQコミュニティをセレブレートし、ジェンダーやセクシュアリティにもとづく偏見や差別を根絶しようと呼びかけるプライド月間。リアルな体験談や心境を歌い共感を呼ぶ、15曲の必聴アンセムをチェック!
BY HATTIE COLLINS、MINA OBA
1.「Unholy」サム・スミス feat. キム・ペトラス
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全米シングルチャート1位を獲得し、第65回グラミー賞で、最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞したサム・スミスとキム・ペトラスの大ヒット曲「Unholy」なしには、2023年のプライド月間は語れないだろう。若者の間でカルト的人気を誇るキム・ペトラスは、この賞を受賞する初のトランスジェンダー女性となり、レッドカーペットにはドラァグクイーンのヴァイオレット・チャチキやゴットミックなども登場した。そしてプレゼンターを務めたマドンナは、「私は新しい道を切り開く、反逆者たちに感謝するためにここにいます。あなたたちの大胆不敵な姿を、私たちは知っています。そして感謝しています。多くの困難を乗り越え、闘い、『Unholy』という美しい楽曲を誕生させた、信じられないほど才能豊かな2人、サム・スミスとキム・ペトラスです」と紹介した。歴史に名を残す2人の快挙は、ガラスの天井を打ち破ることができるということを証明したに違いない。
2.「STAR WALKIN’(League of Legends Worlds Anthem)」リル・ナズ・X
メットガラ2023で大胆な生ヒップを惜しみなく披露したバースデースーツを着用し、話題をさらったリル・ナズ・X。2022年9月に公開した「STAR WALKIN’(League of Legends Worlds Anthem)」は、どんなに否定的な意見を受けたとしても、音楽界のトップアーティストまで成功するまで自分を信じ続けた思いが表現されている。まさに、リル・ナズ・Xの“プライド”を象徴するアンセムだ。
3.「Sun Goes Down」リル・ナズ・X
また、2021年の「Sun Goes Down」も併せてチェックしたい。今まで見せたことのないようなシリアスで大人な一面が垣間見え、自身が感じる孤独や不安、ホモフォビア(同性愛嫌悪)に対する苦悩から始まるが、最終的には自己肯定とセルフラブというポジティブな世界観へと導かれる。内に秘めた二面性を映し出すミュージックビデオの巧みな演出も必見だ。他にも「THATS WHAT I WANT」や「Montero(Call Me By Your Name)」など、数多くの楽曲の中に、LGBTQ+差別と闘うリル・ナズ・Xの思いが込めらている。
4.「This Hell」リナ・サワヤマ
過去最多の24万人を動員した「東京レインボープライド2023」のテーマソングにも選ばれた、リナ・サワヤマの「This Hell」。ヘイトが存在する地獄のような場所だったとしても、自分をサポートしてくれる友人や家族との愛を見つけ、ダンスができるような曲を作りたいという思いから、サワヤマはこの曲を書き上げたという。東京レインボプライドが行なわれた4月には、日本のオーディエンスに向けてこんな動画メッセージを送っている。「LGBTの人は同じ人間です。愛は愛。家族は家族です。いつの日か平等な社会になることを信じて一緒に戦ってください」。
5.「BREAK MY SOUL」ビヨンセ
約5年ぶりとなるワールドツアー「ルネッサンス」をキックオフしたばかりのビヨンセ。最新アルバム『ルネサンス』に収録されている楽曲「BREAK MY SOUL」のリリックは、自分の心を解放することを歌い、誰にも私の魂を壊せさせないというエンパワリングなメッセージが繰り返される。昨年の6月にMVが初公開されたこともあり、プライドアンセムとして愛される一曲だ。
6.「Can't Tame Her」ザラ・ラーソン
2023年1月にシングル「Can’t Tame Her」をリリースした、ザラ・ラーソン。「誰も彼女を手懐けることはできない」と歌うこの楽曲は、ジェンダーステレオタイプを壊し、社会や権力者の都合の良い方向へと飼い慣らされることへ強く抵抗する思いが込められている。これまでラーソンは各国のプライドイベントでパフォーマンスをするなど、アライのアーティストのひとりとして知られている。今年の6月も、シカゴで開催されるイベントに参加予定だという。
7.「no tears left to cry」アリアナ・グランデ
アリアナ・グランデの兄であるフランキーは昨年、俳優のヘイル・レオンと結婚。深い兄妹愛が溢れるアリアナは、LGBTQ+コミュニティへ寄り添うことをいつだって忘れなかった。そんなアリアナは、もともとはカトリック教徒だったが、兄の存在が受け入れられないことから改宗を決意したことを過去に明かしている。「兄が私に、神様は自分を愛してくれないって告げたとき、私は『それってクールじゃない』と感じた。だからフロリダのカバラセンターにふたりで行ってみた。そうしたらとってもしっくりきた」。そんなアリアナは、「no tears left to cry」の2番の歌詞はLGBTQのファンに向けて書いたと、アメリカの音楽メディア「THE FADER」に明かしている。
8.「It's A Sin」エルトン・ジョン&オリー・アレクサンダー
2021年5月に開催されたブリットアワードでコラボパフォーマンスを披露したエルトン・ジョンと「Years & Years」のオリー・アレクサンダー。二人は、デュオグループ「Pet Shop Boys」が1987にリリースしたシンセポップチューンの「It's A Sin」をアップビートにアレンジし、世代を超えた美しいステージを披露した。このコラボは、HIV/エイズの感染拡大に揺れる80年代のイギリスを描いた同題のドラマ「It's A Sin」(2021)へのオマージュでもある。社会現象となったドラマで主役を演じたアレクサンダーは、一躍、期待の若手俳優のひとりに躍り出た。
9.「Hush」ジェイリー・ウルフ
歌手、俳優、アクティビスト、映像作家など、マルチに活躍するジェイリー・ウルフはバイセクシュアルを公表しており、カナダの先住民の子孫としてエホバの証人の教えのもとで育った。6月18日にリリース予定の新作EP『Wild Whisper』では、こうした自らの生い立ちから、カナダ政府の同化政策によってアイデンティーを奪われた先住民たちの心の傷まで、さまざまなテーマを掘り下げている。中でも注目したいのが、このEPから先行リリースされたシングル曲「Hush」。恥や自己嫌悪といった感情を、プライド、セルフラブ、解放といった前向きな言葉に置き換えるよう力強く呼びかける、クィアコミュニティの応援歌だ。
10.「If I Were You」(リミックス版) k.d.ラング
61歳を迎えたカナダ人カントリー歌手のk.d.ラングは、LGBTQコミュニティの元祖アイコンとしても知られる。1990年代初頭にゲイであることをカミングアウトし、LGBTQの権利やエイズ問題などに積極的に関わってきた彼女は昨年のプライド月間に合わせる形で自身の大ヒット曲のベスト盤をリリースした。このアルバムには「If I were you」(1995)、「Sexuality」(1996)、「Summer Fling」(2000)などの名曲のリミックス版が収録されており、夏のハッピームードを盛り上げてくれる一枚に仕上がっている。
11.「Tavern Kween」デザイア・マレア
南アフリカ東南部のクワズール・ナタール州で生まれ、ヨハネスブルクを拠点とするアートデュオ「FAKA」のメンバーとして活躍するデザイア・マレア。南アフリカのアートシーンを塗り替え、同国のクィア・コミュニティの声を広める存在が、初の自主制作アルバム『Desire』(2021)で音楽業界にも進出した。
中でも注目は、国内外のユース世代から凄まじい反響を得たシングルカット曲「Tavern Kween」。喪失感、精神性、行き場を失くした想いを挑戦的な歌詞に乗せてパワフルに歌い上げる、記憶に残る1曲だ。2020年にはイギリスのロックレーベル、ワープ・レコーズから『Desire』の再リリースが決定し、本格的にヨーロッパデビューを果たした。マレアはファッション業界とのつながりも深く、これまでにテルファー(TELFAR)やヴェルサーチェ(VERSACE)ともコラボしている。
12. 「Horsewh!p」アジャ ft. タイ・バーガー
ダイナミックなサウンドが好みなら、二人のクィアアイコンによるコラボ曲「Horsewh!p」がおすすめ。人気番組「ル・ポールのドラァグレース」(2009〜)で一躍有名になったドラァグクイーンでシンガーのアジャが、ラッパーのタイ・バーガーを迎えて制作したエキセントリックな楽曲だ。
本作の歌詞の中で、二人はアイデンティティを中傷するものに対して痛烈に批判すると同時に、現在のミュージックシーンを席巻するK-POPブームやBTS、さらには着想源になったというキング牧師の妻にも言及している。自らの素晴らしさを堂々とセレブレートしようと呼びかける、パワフルな1曲だ。
13. 「Got No Choice」ブルック・エデン
アメリカ最大級のオーデション番組「American Idol」(2002〜)出身のシンガーソングライター、ブルック・エデンは今年、3枚のシングルを立て続きに発表し、4年間のブランクから見事カムバックを果たした。これらシングルはクィアの恋愛を賛美する3部作であり、最後にリリースされた「Got No Choice」は、ガールフレンドへの熱い愛を歌った純粋なラブソングだ。彼女のみならず、オーヴィル・ペックやブリタニー・ハワードなど、カントリー界は今、クィアなアーティストの活躍が目覚ましい。
14.「Serotonin」マリー・ウルヴェン
豊かな才能を持つノルウェー出身のアーティストで、Z世代のクィアアイコンとの呼び声も高いマリー・ウルヴェン。「Girl in the Red」名義でリリースしたデビューアルバム『If I Could Make It All Go Quiet』(2021)でウルヴェンは、自身の不安やうつ症状、報われない愛など、ディープな心境を赤裸々に告白している。扱うテーマはシリアスだが、とくに収録曲「セロトニン」には希望や喜びが込められている。共同プロデューサーにビリー・アイリッシュの兄フィニアスを迎え、リアルな感情を複雑なメロディとリリックで表現した本作は、多くの人々の共感を呼んだ。
15. 「Back Together」アモルファス ft. ケラーニ
サウンドクラウドで人気に火がついたDJのアモルファスことジミル・リース・デイヴィスは、ジャンルを超えたマッシュアップソングで知られるアーティスト。オプラ・ウィンフリーもファンを公言している彼のデビューシングルは、シンガーソングライターのケラーニをフィーチャリング。ジェンダーに左右されず愛に一喜一憂する心情を歌った「Back Together」は、人々の感情を揺さぶる傑作だ。
Text: Hattie Collins, Mina Oba
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