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釧路市立博物館の収蔵庫ほぼ満杯 資料16万点超 他施設で一時保管、譲渡も

2023-06-02 | アイヌ民族関連
会員限定記事
北海道新聞2023年6月1日 22:36

市立博物館の収蔵庫内で天井近くまで積み上げられた収蔵品
 釧路市立博物館で収蔵品が年々増えて16万点を超え、保管する収蔵庫が「ほぼ満杯状態」になっている。新たな資料の受け入れ余地は乏しく、やむをえず他の市公共施設で一時保管したり、本来は収蔵したい資料を他の博物館に譲ったりする事例も出ている。将来的な収蔵庫の新設を求める声が関係者から出ている。
 市立博物館(4階建て延べ床面積4301平方メートル)は釧路湿原、アイヌ文化、炭鉱など地域の歴史や自然に関する約4千点を展示している。このほか、展示していない約16万点を収蔵庫(約412平方メートル)に保管しているが、資料を詰めた段ボールが積み上がっている。
 さらに新たな寄贈の申し出が日々、市民や研究者から寄せられており、価値を認めたものを多い年で千点以上受け入れている。収蔵庫が満杯状態のため、近年は応急的な対応でしのいでいる。
・・・・・
(上田惟嵩)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/855281/

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アイヌ文様入りパーカ、札幌のアーティスト早坂さんら開発 「格好よさ感じて」CFで受け付け

2023-06-02 | アイヌ民族関連
会員限定記事
北海道新聞2023年6月1日 14:25

商品開発したアイヌ文様入りのパーカを着てポーズを取る早坂賀道さん(左)と山本優さん
 札幌在住のアイヌ民族のアーティスト早坂賀道(よしみち)さん(57)がデザインしたアイヌ文様をあしらったパーカが、札幌の企業によって商品化された。アイヌ文様を使用した商品の多くは土産物で、普段使いできる洋服はまだ少ない。早坂さんは「アイヌ文
・・・・
詳細はCFサイト(https://www.makuake.com/project/ainu_parka)。問い合わせはアピアーズのメール(contact@appears-interactive.jp)へ。(金子文太郎)
※「マタンプシ」の「シ」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/854865/

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「ソーラーの海」に浸食されるアイヌ伝承の地 巨大津波も懸念

2023-06-02 | アイヌ民族関連
毎日新聞6/1(木) 15:00配信

大規模な太陽光発電計画が明らかになった馬主来沼周辺。寄り鯨に関するアイヌ民族の伝承の地でもある=釧路市音別町で2023年3月30日、小型無人機から撮影(市民提供)
 北海道・道東の釧路湿原国立公園の周縁部が、太陽光発電計画の脅威にさらされ、「ソーラーパネルの海」に変わりつつある。設置の「適地」と「不適地」を色分けしないまま、国が再生可能エネルギーの導入を急速に進めたことが背景にあり、その触手はアイヌ民族の伝承の地にも広がった。導入の代償として、かけがえのない自然が壊され、人々の暮らしが脅かされつつある実態に迫る。【本間浩昭】(第1回/全6回)
【地図で見る】伝承の地と計画の位置関係
 { この連載は全6回です。}
 { このほかのラインアップは次の通りです。}
 {第2回 釧路湿原周辺「塩漬け」土地が争奪戦に 発電用地増、パネル一色に(2日15時公開予定)}
 {第3回 パネル増設、条例で抑制狙う釧路市 外堀埋められ対応後手後手に(3日15時公開予定)}
 {第4回 太陽光増設でキタサンショウウオの繁殖地減 開発進む場所に生息域(4日15時公開予定)}
 {第5回 放置された原野を保全 共生へ動き始めた保護団体や不動産店(5日15時公開予定)}
 {第6回 大学生やアイドルも共生に向け活動開始 訴えた教育の必要性(6日15時公開予定)}
 「ワークワーク ワック ワック……」。アイヌの古式舞踏「フンペリムセ(鯨の歌舞)」は、鯨を見つけて騒ぐカラスの鳴き声から始まる。歌詞は「タンター ピシター フンペ ヤンナー」(いま浜辺に鯨が寄り上がった)と続く。
 馬主来沼(パシクルトウ)の水が流れ出る白糠町の海岸線で9月の第1日曜に行われる「フンペ祭りイチャルパ(鯨祭り)」。鯨に扮(ふん)したフチ(おばあさん)が砂浜に横たわり、周りを民族衣装姿の男女が踊る。鯨の解体中にせわしなく飛び回るカラスのふるまいも表現されている。発見者のカラスにも肉が分け与えられ、コタン(集落)が飢餓から救われる物語は、大自然と共生するアイヌの精神世界を示してくれる。
 「フンペはカムイ(神)が下ろしてくれるものです」。白糠アイヌ協会の天内重樹会長(38)は語る。下ろすとは「恵みを授けてくれる」とのアイヌならではの考え方で、「特にフンペは、一つのコタンが潤うほどの食糧なので、飢饉の時期に打ち上がれば、なおのことです」という。
 フンペリムセは白糠アイヌ文化保存会の代表的な古式舞踏。磯部恵津子会長は「踊りはしばらく途絶えていましたが、1996年に復活させて27回を数えます」と振り返る。
 この馬主来沼の西側に当たる釧路市音別町の民有地で、大規模な太陽光発電計画が進んでいることが、取材で明らかになった。計画に対する天内さんの懸念は「伝承の地」の隣接地という理由にとどまらない。500年周期とされる千島海溝沿いの巨大地震と、それに伴う巨大津波が押し寄せた際、自分たちの暮らしへの影響も考えてのことだ。
 沼の東側に当たる白糠町のハザードマップを見ると、馬主来沼付近で想定される最大津波高は12・4メートルで、第1波は地震発生から33分で押し寄せる。しかも沼は湖面標高1メートルだ。「巨大津波が来れば海岸沿いのソーラーパネルはひとたまりもないでしょう。しかもパネルにはカドミウムなどの重金属が含まれています。あのイタイイタイ病を引き起こした有害物質です」
 天内さんの懸念を裏付けるように、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の調査では、馬主来沼で4層の津波堆積物が報告された。このうち約400年前の17世紀に起きた巨大津波は、沼の上流の馬主来川を約3・7キロも遡上(そじょう)していた。
 巨大津波が起きれば、海岸線に設置された太陽光パネルは破壊され、砕けたパネルが湿原に放置されかねない。湿原は厳冬期を除けばぬかるみ、谷地眼(やちまなこ)と呼ばれる底なし沼が人の立ち入りを阻む。
 市環境審議会委員で道教育大釧路校の伊原禎雄教授(動物生態学)は「津波は根こそぎ破壊して押し寄せるパワーがあり、粉々になったパネルの回収は不可能に近い。既製のパネルの多くには鉛などの重金属が使われ、一部にはさらに有害なカドミウムやセレン、ヒ素などが使用されている。仮にこうした物質によって環境が汚染されれば、生活に深刻な影響が生じるだろう」と警鐘を鳴らす。「一度立ち止まって、リスクを伴うことを考えた上で慎重に進めなければ、将来に禍根を残す」と。
https://mainichi.jp/articles/20230531/k00/00m/040/140000c

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[北海道]アイヌ文化の2大拠点巡るバスツアー 今年も7月から 札幌観光バスで販売中

2023-06-02 | アイヌ民族関連
旬刊旅行新聞 2023年6月1日 営業部:鈴木 克範

今年のセタプクサ号は「金茶」色
 札幌観光バス(福村泰司社長、札幌市清田区)は2023年7~9月にかけて、札幌駅・新千歳空港発着で、アイヌ文化の2大拠点、平取(びらとり)町の「二風谷(にぶたに)コタン」と白老町の民族共生象徴空間「ウポポイ」を訪れるバスツアーを企画している。
 平取町からの委託を受けて実施する事業。4年目となる今年は、「びらとり温泉ゆから」での昼食や「ウポポイ」の入場料を含んだ、添乗員同行のバス旅行として実施する。自由散策の「二風谷コタン」では、地元有志の「町歩きガイド」が、自身の得意分野(アイヌの歴史や舞踊、アットゥシ織など)を語りながら案内してくれる。
 ツアーで使うバスは4代目「セタプクサ号」。車体カラーは初代のブルーからレッド、グリーンへと変遷し、今年は「金茶(きんちゃ)」色が登場する。毎年テーマを設けているデザインは、今年の「北海道アイヌ伝統工芸展」で最優秀賞・優秀賞を獲得した平取町内の若手クリエーター平村太幹氏、西山涼氏の2人が担当。「大地、受け継ぐ寶(たから)」をテーマに創作した。バスの愛称「セタプクサ」は、アイヌ語で「すずらん」の意味。平取町内に、北海道原種すずらんの日本一の群生地があることにちなんでいる。
 出発日は2023年7月1日(土)~9月10日(日)までの土日祝日および、月曜日を除く夏休み期間を中心とした、計42日設定した。旅行代金は大人・子供(3歳以上)とも6200円(7月9日出発までは全国旅行支援適用有)。ツアーの参加申し込みは、札幌観光バスの公式ホームページから。
https://www.ryoko-net.co.jp/?p=117867

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参加者募集 「アイヌ神謡集」読む講座 21日から「ヌプル」  登別

2023-06-02 | アイヌ民族関連
苫小牧民報2023/6/1配信
 登別市登別港町の市観光交流センター「ヌプル」は21日から、アイヌ語を学びながら「アイヌ神謡集」を読むアイヌ語ゼミナールを同施設で開講する。来年1月17日まで全8回の予定。  「アイヌ神謡集」は、同市ゆかりのアイヌ文化伝承者、知里幸恵…
この続き:235文字
ここから先の閲覧は有料です。
https://www.tomamin.co.jp/article/news/area2/108769/

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ななまるMAP イッキ見!5月まとめ

2023-06-02 | アイヌ民族関連
NHK2023年6月1日(木)午後2時41分 更新道央いぶりDAYひだか
こんにちは!「ほっとニュース道央いぶりDAYひだか」胆振日高担当リポーターの内部明日香です。ライラックまつりにラーメンショー、札幌にも初夏がやってきましたね。イベントの期間中、道央担当の坂井里紗リポーターと一緒に行ってきました♪その話は後ほどさせていただくことにして、まずは初夏を感じる話題も出てきた5月に訪れた3つの市と町を振り返ります。
5月に訪れた3市町
【道央】芦別市
【胆振・日高】白老町、安平町
#55 アイヌ工芸や作家たち、冊子で紹介

白老町では町の地域おこし協力隊のアイヌ文化振興担当、乾藍那さんが「白老ハポの手仕事」という冊子をつくりました。「ハポ」とはアイヌ語で「お母さん」や「年上の女性」を意味していて、アイヌ伝統の刺しゅうや木彫りなどの工芸品を作る方々を紹介しています。乾さんは「白老町には研さんを積んで高い技術を持っている人たちがたくさんいるので、冊子を通じて紹介したかった」と話していました。この冊子は白老町役場と白老駅北観光インフォメーションセンターで無料で配布されています。
#56 芦別の名物、元気「もりもり」なお祭り!
面積のおよそ90%が森林で林業が盛んな芦別市で5月末、「元気森森(もりもり)まつり」が開かれました。丸太切りや、木の枝や松ぼっくりを使った木工クラフトなどを体験できる催しで、地元の林業団体や企業などが、地域の財産である森林や林業を身近に感じてもらおうと企画しました。また催しでは、木材を乾燥させる技術士・水本清忠さんが木工場で出る端材を巧みに組み合わせて作ったいすやベンチも販売されていて、その丈夫さと手ごろな価格で大人気だということです。水本さんは「真心を込めて作っているので長く使ってもらえれば幸せです」と話していました。
#57 安平町に初夏が来た!広大な菜の花畑!
安平町では広大な菜の花畑が見ごろを迎えました。取材で伺った白石守さんの畑では、トラクターが引くほろ馬車に乗って畑の中を巡る体験ができ、多くのお客さんでにぎわっていました。また町内12の飲食店では菜の花を使った期間限定グルメが提供されていて、菜の花の天ぷらが入ったそばや、菜の花のはちみつを練り込んだクッキーなどが味わえます。この12店を含む町内14か所にはスタンプが設置されていて、スタンプラリーも楽しめます。町によりますと、菜の花はことしは6月上旬までが見ごろだということです。
教えて坂井先生!初夏の札幌の楽しみ方
最初に坂井里紗リポーターとラーメンショーに行ったと書きましたが、実は内部、このイベントの存在を知りませんでした。それもそのはず、内部は札幌在住2年目で、ラーメンショーは新型コロナの感染拡大でことし4年ぶりの開催でした。開幕の直前、大通公園を歩いていると何やらテントが準備されていることに気づいて、何があるんだろう?と思い、里紗さんに聞いてみたら「ラーメンショーがあるんだよ!札幌のこの季節の風物詩だよ!」と言うではありませんか!さっそく約束をとりつけ2人で行ってきました。
会場にはおいしそうなラーメンがたくさんあったのですが、今回は、ふだんなかなか行けない場所にあるお店のラーメンをいただきました。もちろん、とってもおいしかったんですが、食べ終わって一息ついていると、「器の底にメッセージがあるんだよ!」と里紗さん。どれどれ?
こういうメッセージってうれしくなりますよね。この日は少し寒かったんですが体だけじゃなく心までぽかぽかに!帰りにライラックも見て、いい香りにも癒されました♪
里紗さん、ありがとうございました(^ ^)
道内はこれからますますお出かけにはいい季節になります。これからも、皆さんが行ってみたくなるような場所をご紹介していきますので、ななまるマップをぜひご覧ください!
4月のイッキ見も併せてどうぞ!
まとめ記事制作担当 内部明日香
2023年5月30日
https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-naccf21309425

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成功大の学生ら、先住民の旧集落訪問 伝統家屋の再建作業に汗

2023-06-02 | 先住民族関連
中央フォーカス台湾2023/06/01 18:52:13

南部・台南市の成功大学考古学研究所の学生らが今春、南部・屏東県霧台郷にあるかつて台湾原住民(先住民)族ルカイ族の人々が暮らしていたコチャボカン集落(好茶旧社)を訪れ、伝統的なスレート家屋の再建作業への認識を深めた他、作業を手伝った。
成功大によると、同研究所は昨年も同集落を訪れ、集落に残る古跡を調査した。今回の訪問では原住民の人々の家屋再建方法について学んだ他、作業の様子を記録するなどした。
同集落のスレート家屋は台湾の2級古跡に指定され、2016年にはワールド・モニュメント財団のワールド・モニュメント・ウォッチ・リストに登録されている。今年初めから原住民らの手によって修復作業が始まった。
成功大によると、学生らは訪問による収穫は多いとして、すでに次回の訪問を計画しているという。
(写真:成功大学提供/楊思瑞/編集:齊藤啓介)
https://japan.focustaiwan.tw/photos/202306015002

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『アラスカ・デイリー』はジャーナリズムが果たすべき役割を問いかけている

2023-06-02 | 先住民族関連
クーリエ6/1(木) 17:45配信

数多のコンテンツのなかから、いま見るべき映画・海外ドラマを紹介する連載「いまこの作品を観るべき理由」。今月のおすすめは、アカデミー賞受賞のクリエイターと女優がタッグを組んだ社会派ミステリー『アラスカ・デイリー』だ。
【画像】『アラスカ・デイリー』はジャーナリズムが果たすべき役割を問いかけている
第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した映画『スポットライト 世紀のスクープ』で、ボストン・グローブ紙による調査報道の顛末を丁寧に描き出したトム・マッカーシー(監督・脚本)。
2022年5月にピュリツァー賞を受賞した「アンカレッジ・デイリー・ニュース」紙と「プロパブリカ」(非営利報道機関)による連載記事で取り上げられた、MMIWG(全米・カナダの先住民族女性や少女の長きにわたる迫害や暴力、失踪、殺人事件の認知・解決を促す運動)に題材を得たドラマが『アラスカ・デイリー』だ。
地方でキャリア再生を図る記者
主人公は、ニューヨークの大手新聞社ザ・ヴァンガード社で活躍していた調査報道記者アイリーン・フィッツジェラルド(ヒラリー・スワンク)。あることからスクープを逃す結果となり、さらにパワハラでキャンセルされて同社を追われてしまう。
そんななか、17年前にコロンバスで彼女をクビにしたかつての上司スタンリー・コーニック(ジェフ・ペリー)が現れ、編集長を務めるアラスカ州アンカレッジ市の地方新聞「デイリー・アラスカン」の記者をやらないかと、アイリーンを誘う。
今さら地方紙の記者なんて……と思いながらも、先住民女性の未解決事件に興味を引かれて新天地へ。広大な地で起きる事件をカバーするには人手が足りず、彼女の経歴を知っている地元記者たちは歓迎するが、アメリカ合衆国の一部ではあるが本土とは離れており、生住民も多く、独特の文化が残っているこの地で、白人女性の新参者で過去に傷のあるアイリーンへの風当たりは強く、取材もやりにくい。
ドラマはさまざまな事件を通して、アイリーンがこれまでとは異なる環境のなかで記者としてのキャリアを再生し、人間として成長する姿を描き出す。重要な一本線となるのが、先住民女性をめぐる未解決事件の顛末だ。
2度のアカデミー賞に輝くヒラリー・スワンクとマッカーシーの顔合わせだけでも、観るべき理由がある作品だろう。この2人の名前から視聴者が期待できるもののすべてが、本作にはぎっしり詰まっている。スワンクの熱演はもちろんのこと、綿密な調査に基づき、地元の小さな事件から世間を揺るがす大事件を通して、いかにもマッカーシーらしい誠実な姿勢で重要な問題提起をしている。
地元に根付いた報道の必要性と課題、そして現代のジャーナリズムがいかにして死に絶えようとしているのか。その問題の本質はどこにあって、解決するためには何が必要なのかという考察を視聴者に促す。ともすれば米地上波ABCで放送するには、時にまじめ過ぎる作りではあるが、筆者にはむしろ好ましく映った。
アイリーンは先住民女性の記者ロズ・フレンドリー(グレイス・ダブ)がコンビを組み、反発し合いながらも協力して未解決事件の真相解明に挑む。
社会問題に切り込む
現実はひどいものだ。白人女性の観光客が自らの不注意によって海に転落した際には、巨費を投じて大々的な捜索が展開されるのに、先住民女性が失踪、殺害されても、自殺や薬物・アルコールが原因として処理されるなど、きちんと捜査されることもない。これほど多くの先住民女性の身に起きた犯罪があからさまに黙殺されているのかと思うと、改めて暗澹たる気持ちになる。
シリーズを通して描かれる事件の顛末にはミステリーとしての面白さもあるが、最終的にはアラスカの「先住民に対する破綻した州制度」に問題の根源があることを明らかにする過程は、社会派ドラマとして見応えがあるものだ。
犯罪者を捕まえれば良いというだけの問題ではなく、現状に至った責任の所在がどこにあるのかを粘り強く追求する調査報道の必要性は、近年も#Metoo運動ほかさまざまな分野で都度広く再確認されている。劇中で語られる「バッドガイ、バッドカルチャーは組織にはびこる」という言葉が、端的に現代の多くの社会問題を語る上で欠かせない視点を象徴しているだろう。
もう一つ、極めて現代的なイシューを盛り込んだエピソードとして、アイリーンがネットで過激なフェイクニュースで人気を集めるサイトに傾倒する中年男性に脅されるという事件がある。彼はアイリーンが執筆する記事と新聞に不満があり、アイリーンに記事を書くな、この地から出て行けと直接訴えるために会社へ押しかけ、人質をとって立て篭もる。
男性は石油採掘工として働いていたが、温暖化を問題視する声が高まり、環境活動家たちが乗り込んできて、結果として仕事を失ったという。そこから7年間、妻子にも見捨てられ、精神を病み、「ご立派なことをほざくリベラルたち」への歪んだ憎しみを募らせていった。新聞は市民の声を伝えていない、うそばっかりだと怒りを爆発させる。
同種の憤りは、SNSを少し見ただけでも、簡単に見つけることができるだろう。男性は、アイリーンたちを「社会正義をほざく連中」という。それに対して、アイリーンは「私は彼らにキャンセルされた」と応える。
「日々の暮らしに必死な時に、真実なんてどうでもいい」と自暴自棄になる男性に、アイリーンは「あなたの真の声を書く」と言って、彼の主張を盛り込んだ記事をその場で書く。それを読んだ時の男性が見せた表情と言葉が忘れられない。
「俺を異常者とも、モンスターとも、マヌケとも見ていない。(この記事には)何か意味があるはずだ」
なぜフェイクニュースにのめり込んでしまう人が後を絶たないのだろうか? そして、今の時代にジャーナリズムの公平性、ジャーナリズムの果たすべき役割とは何なのか。
一方で、このエピソードはよりダイレクトに直接的なジャーナリズムが危機に瀕していることを示している。記事を書いた記者の声を、圧力や暴力で封じようとする行為は、実際に各地で起きているからだ。公正な報道と、それに従事する記者の安全を守ることの必要性に、みんなが声をあげなければいけない。そう訴えるマッカーシーの力強いメッセージを伝えるセリフの数々もまた、胸に残る。
重めの話ばかり書いたが、アラスカという独特の文化を持つ地域の日常の風景にも魅力がある作品だ。地元の祭りや人気の食堂で起きた火事などを扱ったエピソードにも、観るべき点やはっとさせられる視点は多い。
冒頭でも述べたように、エンターテインメントとしては遊びが足りない作りもあってか、本作はシーズン1で終了となった。物語的にはきりの良いところで終わっているので、もしキャンセルされたことが理由で観ないのだとしたら、それは多いなる損失だろう。
『アラスカ・デイリー』はDisney+(ディズニープラス)で配信中
https://news.yahoo.co.jp/articles/751f9ab5f50fee84f1565abc70552f55be65dc99

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「この2頭知ってる!」 台湾の秘島で見かけた仲良しの犬 時を置いて撮影していた旅行者、写真をきっかけに友達に

2023-06-02 | 先住民族関連
神戸新聞2023/6/1
(まいどなニュース特約・松田 義人)

2021年、台湾の秘島・蘭嶼で、別々の日本人旅行者が時差を置いて撮影した2頭のワンコ(撮影:加賀ま波さん)
台湾の離島の中でも特にアクセスが難しく、秘島として知られる蘭嶼(らんゆい、らんゆーとも)。フィリピン系の先住民・タオ族が暮らす島で、かなりの台湾マニアでもアクセスの困難さからそう簡単には訪れることができない島です。
この秘島を2021年に旅した、加賀ま波さんという台湾ファンは、滞在中、港近くで仲良く過ごす2頭のワンコの写真を撮影しました。
この写真は、後にポストカードにし、ま波さんが出店する台湾関連のイベントで出会った人に無料でプレゼントしていましたが、たまたまこのポストカードを手にしたのが、別の台湾ファンの安村美佐子さん。安村さんはポストカードに写る2頭のワンコの様子を見てハッとしました。
「このワンコ知ってる!」
■キラキラの眼差しで海を眺めていた2頭のワンコ
ま波さんの蘭嶼渡航前の2019年、安村さんは蘭嶼を訪れており、偶然にもこの2頭のワンコがまだ小さかった頃の写真を撮影していたというのです。
蘭嶼という秘島で、面識がなかった別々の旅行者が時差をおいて同じ2頭のワンコを撮影していたという事実に、ま波さんも安村さんもビックリ。すぐに意気投合し、これをきっかけに友達になりました。2人はそれぞれ、この2頭のワンコをこう回顧します。
「蘭嶼を滞在後、帰りの船の出航時刻を誤ってしまい、急きょ1泊延泊することになりました。実はこの2頭のワンコ、延泊した最終日に出会い、2頭とも仲良く過ごしていました。美しい海と空の色に相まって、2頭が楽しそうに、そしてキラキラした眼差しで海を眺めていたのが印象的で、その写真を撮影しました。台湾旅行の写真でも特にお気に入りだったので、ポストカードにしたのですが、これをきっかけに安村さんとお知り合いになれるとは……蘭嶼のワンコがつないでくれた不思議なご縁に、心の奥が熱くなりました」(ま波さん)
「蘭嶼は、秘境のイメージがあり、なかなか足を運ぶことができませんでした。しかし、2019年に友人の映画監督が現地で撮影をしていたため、陣中見舞いも兼ねて訪れることにしました。島は暑く、疲れて海辺で休んでいたところ、海辺でまだ小さい2頭のワンコがお互いジャレあっていました。あまりにかわいかったので写真に写したところ、たまたま出会ったま波さんも同じ2頭を撮影されており、いただいたポストカードを見て驚きました。そして、私が撮影してから2年経過していることで、ワンコ2頭が成長している様子にも嬉しくなり、そして私が見たときと同じ様子で2頭は仲良く蘭嶼の海辺で過ごしていることを知り感動しました。いつかまた蘭嶼を訪れ、この2頭に会えたら良いなと思っています」(安村さん)
■秘島・蘭嶼と2頭のワンコがパワーを与えてくれたのかも
台湾の秘島の美しい海辺で、今日もあの2頭のワンコが仲良く過ごしていることを想像すると妙に和みます。そして、この2頭のワンコが、遠く離れた日本の、面識がなかった者同士をつなげるという不思議な縁も感動的です。台湾本島から離れた遠い島・蘭嶼、そして2頭のワンコは、人智では言い表すことができない不思議なパワーを訪れる人に与えてくれたのかもしれませんね。

https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/omoshiro/202306/0016422468.shtml

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女性と犯罪・暴力。『ソフト/クワイエット』『ロデオ』『ウーマン・トーキング 私たちの選択』など5、6月の封切作品を中心に【連載】#MeToo以降の女性映画(7)

2023-06-02 | 先住民族関連
東京アートビート2023年6月1日夏目深雪
『テルマ&ルイーズ』『ミークス・カットオフ』から今年公開作まで、女性と犯罪や暴力をめぐる映画を映画批評家の夏目深雪が論じる。
#MeTooムーブメントと映画
連載では、#MeToo以降の女性映画を様々な観点から追ってきた。#MeTooのムーブメントは、発端はアメリカの映画界におけるセクシュアル・ハラスメントである。それにより明らかになったのは、映画界のみならずテレビ局・芸能界など華やかに見える業界ほど、男性中心主義の構造的な問題により、いかに女性差別によるおぞましい性的暴行等が横行しているかということである。#MeTooムーブメントは2017年の10月に発刊された「ニューヨーク・タイムズ」を嚆矢として、欧州、韓国や日本などのアジア圏にも広がり、日本ではいまでも演劇/映画/芸能界で映画監督や演出家に対しての性的暴行の告発の動きがある。
よって、連載で追ってきたのは女性ポップスターの伝記映画、#MeTooムーブメントの直接の原因であるワインスタイン事件の映画化作品、人工中絶が違法だった時代の女性作家の伝記的作品、家父長制の外で生きるホームレス女性の末路を描いた映画、そしてイランでの実際の事件を基にした、16人の娼婦を殺したシリアル・キラーを描いた映画などである。これらの作品は、いままで男性の視点で描かれてきたことを女性の視点で描き直したり、または男性中心主義の視点では描かれてこなかったことに焦点を当てている。いままで表に出ることがなかった「女性の声」が映画の基調となっているのがいちばんの共通点なのである。そして、ワインスタイン事件が象徴的なように、これらの映画の女性たちは、いずれも何がしかの犯罪や暴力の被害者であり、決して加害者ではない。
Ⅰ.女性と犯罪
『ソフト/クワイエット』
だが、5、6月に封切られる女性が主人公の作品を試写で観て、私は頭を抱えてしまった。自らが犯罪者である女性が跋扈しているのである。とくに度肝を抜かれたのが、『ソフト/クワイエット』(2022、ベス・デ・アラウージョ)である。
https://www.youtube.com/watch?v=e8BERnoXn5w
ブラジル人の父と中国系の母を持つアメリカ人女性監督が撮ったこの作品の主人公は、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成した若い女性たちである。白人女性である彼女らは、多文化主義や多様性が重んじられる風潮を嘆き、移民や有色人種を毛嫌いし、集会を開き意気投合、ちょっとしたことからアジア系女性への実際のヘイトクライムに突き進む。全編ワンカットで撮られているので、彼女らの差別意識を発端とした犯罪の芽生えから実際の犯行まで、ドライブ感が観客に如実に伝わってきて、おぞましいことこのうえない。
大きなヘイトクライムの加害者が、女性だったというニュースはあまり聞かない。だが、アラウージョ監督が造形した人物像は、たとえば有色人種の女性のほうが自分より出世が早いことに憤る女性など、リアリティがあり、自分の隣人にももしかしたらこんな女性がいるのかも、と思わせる巧さがある。
これもいままで表に出てこなかった「女性の声」のひとつではあるのだろう。そもそも製作のブラムハウス・プロダクションは『ゲット・アウト』(2017、ジョーダン・ピール)で全米の賞レースを席巻した製作会社である。ヘイトクライムの加害者が女性、しかも集団、という要素がセンセーションを増幅させることを熟知しているのだろう。『ゲット・アウト』と同じくホラーテイストを利かせながら、「人種のるつぼ」と言われるアメリカでの人種差別の現実を観客に突きつける社会派作品の格は保っている。決して女性を貶めるために女性のヘイトクライマーという設定をしているわけではない。
『私、オルガ・へプナロヴァー』
だが、ジェンダー・イクオリティが進(んでいるともあまり思わないのだが……)むにつれ、映画で女性の犯罪者を見ることも増えるのだろうか、と考えると複雑な気分になる。男女平等とは、女性の権利拡張とは、そういう目的ではなかったのではないか。続けて、『私、オルガ・へプナロヴァ―』(2016、トマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ)は22歳という若さでチェコ最後の女性死刑囚となったオルガが主人公の、実話を基にした映画である。
オルガは、1973年にプラハのトラム停留所に自らトラックに乗ったまま突っ込み、8人を殺害した。13歳のときから鬱病に苦しんできたオルガは、精神病院で集団リンチに遭ったり、女性の恋人ができたりするが、捨てられ、だんだんと精神を病んでいく。
https://www.youtube.com/watch?v=zLCUKF2YWeY
『ソフト/クワイエット』を「女性映画」と呼ぶのはためらわれるが、この映画は一種の「女性映画」であろう。オルガが家族を嫌い、彼らと上手くいかない理由は観客にはっきりとは明示されないのだが、だからこそ、彼女の内面のひりひりするような孤独がこちらにも伝わってくる。年若く、小悪魔的な風貌はひとつ何かのスイッチを押せば青春を謳歌できそうなのだが、彼女の場合は、石が坂道を転がっていくように物事が悪い方に進んでいく。
レズビアンの犯罪者ということで『モンスター』(2003、パティ・ジェンキンス)を想起したりした(レズビアンは映画やドラマで残忍な殺人者として描かれることが多く、その連想自体は注意が必要だが)。だが、娼婦への蔑視などの女性差別に対する糾弾というフェミニズム的なテーマが中心にある『モンスター』と較べると、レズビアンであることによる差別はさほどあからさまには描かれず、あくまで犯罪の原因はオルガの内面にあり、他人にはわからない、というような描き方になっている。どちらかというと、男性のシリアル・キラーを描く手法に近いだろう。
『Rodeo ロデオ』
ジェンダー・イクオリティは犯罪映画にも様々なかたちで現れているということだろう。『Rodeo ロデオ』(2022、ローラ・キヴォロン)もその観点から見ることができる。若いバイカーのジュリアが、アクロバティックな技を繰り出しながら公道を爆走するバイカー集団に出会う。事故がきっかけで彼らの組織に加わることになったジュリアは、男性中心主義の集団の中で「盗み」の才能によって頭角を現していく。まずは、典型的なアウトローヒーローを女性にした功績があげられる。バイクに乗ることが何よりも好きなジュリアの、バイクに乗っているときの笑顔は、鑑賞者の性別にかかわらず観ていて爽快感があるだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=w6H04WN8V3Y
犯罪といっても、バイクを盗み、ナンバープレートを付け替えて売るというだけなので、人を傷つけるわけではない。彼女のバックグラウンドは詳しくは描かれないが、カリブ系であることからフランス社会での苦労も窺え、彼女が犯罪をエスカレートさせていくのも、男性中心主義への対抗心だと見ることができる。組織のボスの妻とのシスターフッドも描かれ、『ソフト/クワイエット』や『私、オルガ・へプナロヴァー』に比べたら、明らかに#MeTooの文脈で語ることができる映画であろう。
私が気になったのは、結局はチーム内の男性に裏切られたジュリアに訪れるラストだった。監督はノンバイナリーということで、体の線が出る服を嫌いいつもブカブカのTシャツを着、男性とも女性とも親密な関係を作ることができる、ジェンダーフルイドな新しいヒロイン像を創造しておきながら、従来の男性アウトローの「滅びの美学」に収束してしまうのはなんとも勿体ない。また、結局は男性中心主義に負けたのだとも取れるラストである。
『TITANE/チタン』
これは同じフランスの女性監督、カンヌの受賞作品ということで共通点が多い『TITANE/チタン』(2021、ジュリア・デュクルノー)にも思ったことである。
https://www.youtube.com/watch?v=Z8CAKV6BONM
ヒロインの車やバイクに対する耽溺も共通している。頭にチタンを埋め込んだ主人公のアレクシアが、デヴィッド・クローネンバーグの映画の登場人物や、『鉄男』(1989、塚本晋也)の女性バージョン、というのはいい。その奇想天外な設定──ジェンダーはおろか、車とセックスをするのだから人間と物の境界を超えている──のわりに、ラスト、その車との子を出産してアレクシアは死んでしまうのだ。『ローズマリーの赤ちゃん』(1968、ロマン・ポランスキー)のヒロインですら悪魔の子を産んだ後、生き残るのに。
序盤からいきなり、言い寄られたとか、たいした理由もなく人を殺すシリアル・キラーになるアレクシア。中盤以降、逃亡生活となった彼女は消防士の中年男性の息子に成りすまし、ここでもジェンダーフルイドがテーマになるが、気になるのはアレクシアの主体性が感じられず、痛々しいだけなのである。女性が子供を産んで亡くなるのも、決して新しい女性像とは言えない。
デュクルノーの初長編『RAW ~少女のめざめ~』(2016)は人喰いがテーマなので、痛いシーンも多かったが、一貫したヒロインの強い欲望が感じられ、それが「人を食べたい」という異常なものであればあるほど、切実な美しさがあった。若い女性の欲望が我々観客の周知の世界ではない、別の文脈で花開くような、魅惑的な驚きがあった。
『テルマ&ルイーズ』
ジェンダー・イクオリティに拘り、「男並み」に行動した女性は、結局は報われず、数多の犯罪者の男と同じように、破滅すべきだということだろうか。この原稿を書くために、女性映画&犯罪映画の金字塔である『テルマ&ルイーズ』(1991、リドリー・スコット)を見直した。
https://www.youtube.com/watch?v=2iBFmKlO4BY
ジーナ・ディヴィス演じる専業主婦のテルマも、スーザン・サランドン演じるウエイトレスのルイーズも、いま観ても女性として古いとは感じない。未だにいそうな女性像であった。だが、ジュリアやアレクシアに較べたら、平凡な女性たちである。テルマがクラブで会った男にレイプされそうになり、ルイーズは思わず男を射殺してしまう。そして、2人の逃避行が始まる。
テルマもルイーズも結局破滅するのは『ロデオ』や『TITANE/チタン』とそう変わらないのだが、彼女らは警察に捕まることより、崖から飛ぶことを自ら選ぶ。崖から飛んだ2人の乗った車のストップモーションは、よくある手法だが、彼女らの魂の自由や永遠性を感じさせ、効果的だ。また、それまでの道中で、彼女らは2人にセクハラしたトラック運転手をとっちめたり、横暴な夫に苦しめられていたテルマは若い男とアヴァンチュールを楽しんだりと、自らを解放させる。結局は追い詰められ破滅するジュリアやアレクシアとは、女性の観客が観たときに、解放感や爽快感が違うと思う。
ライターの佐藤結はこの映画が、「「古い枠組みの中でも、女性キャラクターを輝かすことはできる」ことを示した」(*1)と述べたが、同感である。佐藤はこうも言う。「小さな街に住む、それほど若くはない平凡な女性たちがこれほど“かっこよく”見える映画は、いまだに作られていない」(*2)。2016年のカンヌ国際映画祭で、スーザン・サランドンは、「『テルマ&ルイーズ』の後、女性が主演する映画がたくさんできるだろうと予想されていたが、そうはならなかったと語っている。未だにこの映画が輝きを失わないということは、世界がそう変わっていないということではないのか。『モンスター』でも描かれたような、レイプに遭い、その怒りや恐怖から殺人者になる女性は新しい女性像とは言えないが、だからといって「古臭い」という気もしない。男性による性暴力がいまだに続いている現実は、2017年に#MeTooムーブメントが起きたことによって、世界的にも実証されてしまった。
Ⅱ.女性と暴力
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
ここからは犯罪ではなく、女性と暴力の関係について考えてみたい。『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2022、サラ・ポーリー)では、2010年、自給自足で暮らすキリスト教一派のとある村が舞台である。そこでは、女たちがたびたび薬を盛られて男たちにレイプされている。「悪魔の仕業」「作り話」などと誤魔化されてきたが、それが実際に起きた犯罪であることを知った女たちは、男たちの留守に、彼女たちだけで集まって話し合う。男たちを赦すか、それとも闘うか、村を去るか。
https://www.youtube.com/watch?v=n9kd_9WRI2I
2005年から2009年にボリビアで実際に起きた事件を基にした、ミリアム・トウズによる同名のベストセラー小説が原作で、出演もしているオスカー女優フランシス・マクドーマンドがオプション権を獲得し、ブラッド・ビッド率いる制作会社PLAN Bに持ち込み、映画化が実現した。
この映画の美点は、「いままで表にでてこなかった女性の声」どころではない、あらゆる年代の女性の、怒りも、戸惑いも、女性同士の争いも、シスターフッドも、そこにいるすべての女性のあらゆる声をとらえようとしているところであろう。性暴力といういま、女性にとってもっともヴィヴィッドなテーマを扱っているということも大きい。
ただ、女性たちが辿り着いた結論については、『物語る私たち』(2012)でアクロバティックな作劇を見せたサラ・ポーリーにしては平凡な印象だった。原作もあり、さらに事実を基にしているから制約もあるだろうが、もう少し何かできたのではないか。優れた女性映画は、女性の本質を映し出してくれるだけでなく、女性というジェンダーの可能性も見せてくれるものではないだろうか。
『ミークス・カットオフ』
ここで、旧作なのだが、女性と暴力の関係を考えるに、重要な作品を挙げたいと思う。ケリー・ライカートの『ミークス・カットオフ』(2010)である。犯罪者やたいした理由もなくシリアル・キラーになる女性に感情移入できるわけではないが、女性は暴力を好まず、ひどいことをされても仕返しさえしないというのもなんとも古臭く感じる。そんななか、その二極に当てはまらない新しい女性像が清新に感じられた作品であった。
https://www.youtube.com/watch?v=WmIlWIlR8J8
舞台は西部開拓時代の1845年、オレゴン州。移住の旅に出たテスロー夫妻ら3家族は、道を熟知しているという男ミークにガイドを依頼する。だが、2週間の予定だった旅は、5週間経つのに目的地に辿り着かず、水が不足し、旅は過酷さを増していく。家族らはミークを疑い始める。そんななか、ひとりの先住民が彼らの前に姿を現す。水を欲している家族らは、水場の場所を知る可能性がある先住民を捕え、旅に連れていくことにする。
西部劇を換骨奪胎したこの作品は、男たちが重要な話し合いをしている傍で、女同士でお喋りしながら編み物など細かい仕事に従事する妻たちの姿をとらえる。そのひとり、エミリー・テスローは、先住民に対し、食べ物を運んであげたり、破れた靴を縫ってあげたり、何かと世話を焼く。ほかの妻の中には、先住民の仲間が自分らを待ち伏せしているのではないかと怖れる者もいたが、エミリーは意に介さない。
終盤に、幌馬車が壊れてしまい、投げ出された荷物に触る先住民にミークが怒り、銃を向ける。エミリーは思わずミークに銃を向ける。ミークは銃を下ろす。水場は見つからず、彼らは戻るか、このまま進むか迷うが、荒野の先に1本の木を見つける。水がなければ木は育たない。男のひとりがミークにどうするつもりなのかと訪ねると、彼はテスロー夫妻に従うと答える。それはつまり、先住民の男に従う運命なのだということだ。
エミリーがミークに向けた銃──水の不足という過酷な状況のなかで、言葉も通じず、敵か味方かはっきりしない先住民の殺害を阻止する彼女の暴力の兆し、毅然とした恫喝こそ、女性映画にふさわしい暴力なのではないかと思った。彼女は未知のものに身を預け、可能性のなかを進んでいく。女性が、男たちの傍で佇むことを強いられる西部劇というジャンルを解体するように、徐々にエミリーをカメラの中心に据えていくライカートの手つきも驚くべきものだが、それを牽引するのが、西部劇ではずっと悪者扱いされていた先住民であったというのも皮肉が効いている。
テルマとルイーズが崖から飛び降りてから22年が経った。銃と車と女がいれば映画はできる。『気狂いピエロ』(1965、ジャン=リュック・ゴダール)の宣伝文句に使われたこの言葉に「女」があるのは、彼女らが銃や車と同じ、要素のひとつに過ぎなかったからだ。自らバイクに跨ったり(『ロデオ』)、また車を性愛の対象としたり(『TITANE/チタン』)、男たちに銃を向けたり(『ミークス・カットオフ』)、犯罪映画の女性たちは明らかに進化している。
女性たちはもう自分たちを犠牲にしなくてもいいだろう。声をあげて、連帯する。逃げるだけでは社会は変わらない。男社会に闘いを挑むのはいいけど、生き残る道を探すべきだろう。銃口を向ける。どこに向けるのか、狙いを定めて、しっかりと銃を構える。
*1──佐藤結「車は走り続ける──『テルマ&ルイーズ』が開いた道」、『リドリー・スコット』、佐野亨編、辰巳出版、2020年
*2──同上
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/rodeo-womentalking-review-202305

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グッチが掲げる、ジェンダー平等のためのグローバルキャンペーン「GUCCI CHIME」──次の10年に向けて新たなコミットメントと動画を発表!

2023-06-02 | 先住民族関連
VOGUE2023年6月1日BY MAYUMI NUMAO
グッチ(GUCCI)がジェンダー平等のために発せられた声や訴えをひとつの強い力として集結するために始動したグローバルキャンペーン「GUCCI CHIME」が10周年を迎えた。2013年より本キャンペーンに関わってきたサルマ・ハエック・ピノー、フローレンス・ウェルチ、ジュリア・ロバーツに加えて、日本からは三吉彩花がメッセージを寄せている。
三吉彩花が尊敬する女性像とは?
グッチ(GUCCI)がジェンダー平等のために発せられた声や訴えをひとつの強い力として集結するために始動したグローバルキャンペーン「GUCCI CHIME」が10周年を迎えた。本キャンペーンは、コミュニティへの参加を呼びかけ、国境や世代を越えて平等のために闘う人々をひとつにすることを目指している。
本プロジェクトは、2013年にグッチと共同発起人であるサルマ・ハエック・ピノー、ビヨンセ・ノウルズ=カーターによって創設されて以来、2,150万米ドルの資金を調達し、世界中の約500のプロジェクトを支援し、63万5,000人の女性と少女に直接的な恩恵をもたらしてきた「Equality Now」「Global Fund for Women」「Ms.Foundation for Women」「mothers2mothers」「UN Women」をはじめとする多様なフェミニスト組織や運動と協力し、有色人種の女性、先住民の女性や少女、若いフェミニスト、障害を持つ女性や少女、トランスジェンダーやノンバイナリー、その他歴史的に弱い立場に置かれてきたグループとともに活動を展開している。
10年目を迎えた今年、日本からは三吉彩花が本プロジェクトに賛同し、「尊敬する女性像について」のメッセージを寄せている。
「常に自分の芯をしっかり持っている女性に憧れます。幼い頃から女優やモデルの活動してきたため、若いがゆえに自分の意見を言えなかったり、まわりの波にのまれてしまいそうになったことも······。大人になった今は、自分の意見をもって、自分の言いたいこと、やりたいことをしっかりと意思表示をしていくことが大切だと感じている」と語った。
サルマ・ハエック・ピノー、ジュリア・ロバーツなど、豪華セレブが集結
その他にも、多数のキーパーソンが動画に登場している。2013年より本キャンペーンに関わってきたサルマ・ハエック・ピノー、フローレンス・ウェルチ、ジュリア・ロバーツ、ジョン・レジェンドをはじめ、イドリス・エルバ、ジュリア・ガーナー、ハリー・ベイリー、アーリヤ―・バット、セレナ・ウィリアムズ、ジョディ―・ターナー=スミスなど、彼らの声に耳を傾けてみて。
https://equilibrium.gucci.com/category/people/chime/
Photos&Movies: Courtesy of Gucci
https://www.vogue.co.jp/article/2023-06-01-gucci-chime-for-change

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カナダ最大のBtoB旅行商談会、世界29カ国から1500人参加で開催、日本市場の完全復活は2026年を予測

2023-06-02 | 先住民族関連
トラベルボイス2023年06月01日
カナダ最大の旅行業界商談会「ランデブーカナダ2023(RVC2023)」がケベック州ケベックシティで2023年5月30日(現地時間)に開幕した。完全な対面式で実施されるのは4年ぶり。世界29カ国から約400人のバイヤー、そのうち日本からは23人が参加。カナダのサプライヤー約900人やメディアを含め、1500人規模のBtoBイベントとなった。
記者会見でランディー・ボワソノー観光大臣兼准財務大臣は「カナダには世界が望むものがある」と話し、カナダが持つ観光の多様性をアピール。カナダにとって観光はナンバーワンの輸出サービスと位置付けたうえで、「フレンドリーなカナダ人と交流すれば、旅行者はまた戻ってくる」と続け、人と人とのつながりの重要性を強調した。
また、カナダ観光局(デスティネーション・カナダ)のマーシャ・ウォルデンCEOは、インバウンド市場について説明。カナダが2022年4月に完全に国境を開けて以降、「アジアの戻りは遅いが、他の主要市場は急速に回復している」との見解を示した。すでに、旅行者数は2022年末時点で2019年比で89%まで回復。世界的にインフレの懸念はあるものの、2023年末から2024年初頭には、完全に回復するとの見通しを示した。
さらに、「パンデミックは、人々は観光が地域コミュニティにどのような意義があるのか、再考するきっかけとなった。それはパンデミックがもたらした希望。観光業は、カナダ人の幸福に貢献していくものであるべきだ」と話し、DMOとしてデスティネーション・マネージメントの重要性に言及した。
日本市場の完全復活は2026年を予測
カナダ観光局によると、2022年の日本市場は、2019年比で現地消費額が25%、訪問者数が20%にとどまっており、同じアジア市場の韓国の現地消費額27%、訪問者数25%に遅れを取っているのが現状だ。
2023年の日本市場については、現地消費額53%、訪問者数51%の回復を見込み、2019年水準を超えるのは2026年と予想している。
また、カナダ観光局では、日本市場について、サステナブルツーリズムへの関心が高まっており、目的意識を持つ高付加価値旅行を求める旅行者が増えていると分析。そのうえで、自然、先住民観光、アドベンチャー体験など、地域コミュニティとのつながりがあるストーリーを伝えていくことが重要との認識を示している。
https://www.travelvoice.jp/20230601-153594

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現実味を帯びる「幻覚剤療法」、専門家の育成急務 米国

2023-06-02 | 先住民族関連
ナショナル ジオグラフィック2023年6月2日 5:00

メキシコ、ティファナ郊外にある幻覚剤療法の施術施設で、強力な幻覚剤(コロラドリバーヒキガエルの毒から抽出されたもの)を吸入した後、ケアを受ける元海兵隊員のジェナ・ロンバード・グロッソさん。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
長年うつ病に苦しんでいるレネ・セントクレアさんは数年前、幻覚作用を持つ薬物ケタミンを用いた治療の最中、自分の脳が体から切り離されて浮かび上がり、部屋の向こうに移動してゆく光景を見て恐怖に襲われた。
「ゾッとするほど恐ろしかったです。もう脳は戻ってこないのではないかと思いました」。米カリフォルニア州サンディエゴに住む弁護士で、51歳のセントクレアさんはそのときの状況を振り返る。彼女の治療に付き添っていた看護師の要請により、精神科医がすぐに駆けつけて、優しく言葉をかけながらセントクレアさんの手をしっかりと握った。医師の存在によって落ち着きを取り戻した彼女は、薬が体から抜けて幻覚が消えるまでの40分間を心穏やかに過ごすことができた。
強力な幻覚剤を投与するための、十分な訓練を受けた専門家の育成が今や急務となっている。米オレゴン州でシロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)を使ったメンタルヘルスの治療がまもなく承認されるのに加え、米国食品医薬品局(FDA)は2023年後半、同局として初めて幻覚剤、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA、別名エクスタシー)について、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療薬としての評価を行うと予想されている。
幻覚剤がいずれ主流医療に組み込まれる日が来るかもしれないという予想のもと、米カリフォルニア統合学研究所(大学)は7年前、米国内で初めて幻覚剤支援療法の研修プログラムを提供するようになったのだと、同大学の幻覚剤療法・研究センターの責任者ジャニス・フェルプス氏は言う。
近年では、多くの機関がこれに続いている。サイコセラピスト(心理療法士)、看護師、医師、聖職者など、主にメンタルヘルスや宗教にかかわる職業に就く人々が、幻覚剤分子の化学的性質、安全上の懸念、先住民による使用の歴史、そして何より、6時間以上効果が持続するこうした薬物によってもたらされる独特の精神状態について学んでいる。ただし、現在のところ幻覚剤は違法であるため、どのプログラムでも研修生自身がその効果を体験することはできない。
こうした講座への需要は急増している一方で、全国的な基準は存在せず、各教育機関が独自のカリキュラムを作成しているため、おそらくは十分な力量のないまま研修を終える人もいるだろうとの懸念もある。
わかりはじめた幻覚剤の確かな効果
なぜ今、MDMAがPTSDの有望な治療法として注目されているのだろうか。この強力な薬物は、恥や怒りといった、治癒の妨げになり得る感情を誘発することなく、脳がトラウマ的な記憶に向き合うことを可能にすると考えられている。
米非営利団体「幻覚剤学際研究学会(MAPS)」による最新の大規模臨床試験の予備的な結果では、MDMAを2〜3回服用することにより、PTSDの症状が軽くなる、または取り除かれることが確認されている。最も注目すべきは、その効果が6〜12カ月間持続したことだ。
また、2021年に学術誌「Nature Medicine」に掲載されたMAPSによる初の第3相臨床試験の論文においても、肯定的な結果が得られている。80〜180ミリグラムのMDMAの投与を3回、準備セッションを3回、投薬後セッションを9回行ったところ、試験参加者の3分の2においてPTSDの症状が見られなくなったのだ。
現在、世界中の研究機関によって、うつ病、不安障害、依存症、また終末期疾患の診断による恐怖など、さまざまな精神的な問題に対する幻覚剤の有望さが明らかにされつつある。
こうした結果に触発されて、米ワシントン大学医学部の医師アンソニー・バック氏は2020年、カリフォルニア統合学研究所の研修を受けることを決めた。60歳のバック氏は、1980年代という反薬物が盛んに叫ばれていた時代に育ったため、若いころは幻覚剤を治療に使おうとは考えなかった。しかし、科学的な研究結果を見て、「ここには非常に重要なものがある」と確信したのだという。
緩和ケア医であるバック氏にとって、第一の目的はがん患者の痛みの軽減だ。しかしこれまでのところ、人生が終わりに近づくという「恐怖に対処する良い方法を、われわれは見つけることができずにいるのです」と氏は言う。
実際にはどのように投与するのか
研修プログラムはさまざまな機関によって提供されている。期間は半年から1年、費用は数千ドル程度のものが多い。大半のプログラムにおいて強調されるのは、薬剤を投与する前にセッションを複数回行い、患者が幻覚剤による治療経験から何を得ることを望んでいるのか、また実際にはどんな効果が予想されるのかを話し合う大切さだ。
研修生はまた、幻覚剤を投与するセッションを監督する方法も学ぶ。「幻覚剤の体験は非常に内面的なものです」とフェルプス氏は言う。そのため、セラピストは、安心感を回復するために必要な場合を除き、自ら介入しないよう教えられる。
幻覚剤支援療法を行うことは、従来のメンタルヘルスの治療法に慣れている専門家にとって、それまでとは大きく異なる体験だと、米ジョンズ・ホプキンス大学の精神科医で、同大学や米エール大学、米ニューヨーク大学の精神科の学生を対象とした試験的カリキュラムに取り組んでいるビット・ヤーデン氏は言う。「従来の手順は、医師が抗うつ剤を処方したら、患者は処方箋を受け取り、医師が1カ月後に経過を尋ねるといったものです」
一方、幻覚剤の場合は、直接の投薬とその後のトークセラピーが必須となる。幻覚剤を使うセッションの長さは1回何時間にも及び、その間はセラピストが付き添わなければならない。
研修生はまた、「統合」と呼ばれるプロセスに対する支援の方法も教わる。このプロセスを通して、患者は幻覚剤の体験から得られた洞察や感情を日常生活に取り入れてゆく。ここでもまた、従来の方法に慣れているセラピストは新たな領域に踏み込むことになる。「シロシビンの臨床実験においては、神秘的な体験をしたという報告が参加者から上がっています。そうした体験について話をすることも、従来の心理療法的な枠組みに当てはまりません」とヤーデン氏は言う。
幻覚剤を使えない訓練の難しさ
幻覚剤は今のところ違法であるため、大半のプログラムでは残念ながら、幻覚剤を使った実際のセッションを研修生が行うことは叶わないと、フェルプス氏は言う。
同じ理由から、研修生の多くは自分自身が薬物を使用した経験を持たない。「幻覚剤を使ったことのない人はすぐにわかります。そうした人たちが質問する内容を聞けば、自分が患者にどんな経験を提供することになるのかについて、彼らが何も知らないことがわかるのです」と、カナダ、バンクーバーアイランド大学のプログラムの医療責任者パム・クリスコウ氏は言う。
一部のプログラムでは、幻覚剤の影響下にある人間がどれほど脆弱な状態になるのかを理解するために、監督下においてケタミンを摂取してみるよう研修生に勧めている。また、ホロトロピック・ブレスワークと呼ばれる一時的に意識を変容させる呼吸法を使って、そうした状態を疑似体験させようと試みるプログラムもある。
研修生のなかには、事情通のガイドを雇うか、あるいは薬物使用の伝統をもつ先住民のいる国々を旅して、個人的に幻覚剤を体験してみようとする者もいる。緩和ケア医のバック氏は数年前にガイドを雇った際の経験から、研修を受けたいと思うようになったという。その時の経験について書いた文章を、氏は2019年7月に医学誌「Journal of Palliative Medicine」に投稿している。
「慣れ親しんだ『自分』という感覚(自分の好み、自分の体、自分の歴史など)が突然、すべて消え去り、その後はっきりと感じたのは、すべてのものと一体化しているという海のような感覚だった……完全に帰属しているという感覚、また通常は隠されている宇宙のエネルギーとつながっているという感覚があった。とても爽快な気分だった」
バック氏は、こうした枠組みが自分が担当する末期患者の助けになると信じている。「死に向かう過程は、以前自分が考えていたよりもずっとスピリチュアルなものだと、わたしは気づいたのです」。そう語る氏は、これらの幻覚剤が合法化されることを強く望んでいる。
同じように感じている医療関係者はほかにもいる。カリフォルニア統合学研究所の研修プログラム1期生42人のうち、医師と看護師数人は、職業上の評判が傷つくのを恐れ、自分が参加したことは伏せておいてほしいと要望していた。だが、今年は400人の枠に800人の応募が寄せられたという。
こうした盛り上がりにもかかわらず、今後FDAによってMDMA、さらにはシロシビンが承認されれば、何千人もの専門家が必要となり、十分な研修を受けたセラピストが足りなくなると予想される。オレゴン州では、シロシビン療法の承認を受けるために必要な基準をすべて満たしたファシリテーター(セッションの進行役)は、今のところ1人もいない。
「どの研修プログラムも需要に追いついていません」とフェルプス氏は言う。氏の大学は現在、ほかの大学が同校の研修教材や動画を入手できるライセンスプログラムを開発中であり、すでに25校ほどが関心を示しているという。
幻覚剤がメンタルヘルスの治療法として成功を収めるには、十分な数の専門家に高度な研修を受けてもらうしかないと、バック氏は言う。「幻覚剤療法は、大半の治療法とは異なります。従来の治療法において重要なのは技術あるいは薬です。ですが幻覚剤の場合、セラピーと投薬を一緒に行わなければならないのです」
文=MERYL DAVIDS LANDAU/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年5月10日公開)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC197IN0Z10C23A5000000/

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