スポーツニッポン2025年2月15日
ヤーガン語は南米大陸の南端部、ティエラ・デル・フエゴ島に暮らすチリの先住民族、ヤーガン族が話していた言語の一つだった。過去形なのは2022年に最後の母語話者が亡くなり、消滅したからだ。
「マミラピンアタパイ」という語がある。意味は「同じことを望んだり考えたりしている2人の間で、何も言わずにお互い了解していること」。
さまざまな国に移り住み、言語や文化に興味を持ったエラ・フランシス・サンダースが19歳当時に出したイラスト本『翻訳できない世界のことば』(創元社)にあった。
映画『ドライブ・マイ・カー』の劇中劇で数カ国から俳優が集まり、自国語でセリフを話す。言葉ではなく相手役の感情や動作をみて反応しなくてはならない。
韓国人イ・ユナは聴覚障害で聞けるが話せず、手話を使った。「自分の言葉が伝わらないのは私にとって普通のことです。でも、見ることも聞くこともできます。時には言葉よりたくさんのことを理解できます」
阪神監督・藤川球児がきょう15日に対外試合初戦を迎える実戦でのテーマ「あうんの呼吸」である。言葉がなくても意思が通じるのは世界の言葉をみてもわかる。この日は休日。前日の続きとして書いてみる。
岡田彰布(現球団顧問)は二塁転向となった1985(昭和60)年2月の安芸キャンプで遊撃・平田勝男(現2軍監督)との併殺コンビで相当にノックを受けた。当時監督で先日他界した吉田義男が「どんな打球ならどこに投げてほしいか、言わなくてもわかるようになる」と語っていた。
基本はキャッチボールだろう。<二人の気持ちがしっくりいったときにはボールは真っすぐに届いた。しかし気持ちがちぐはぐなときにはボールはわきにそれた>と寺山修司が『野球の時代は終った』で書いている。
伊集院静の小説『ぼくのボールが君に届けば』には野球をする女の子の魅力的なセリフがある。「キャッチボールをすると、その人のことがよくわかるような気がするの。受け止めた時の感触で、強さや、やさしさや、切なさまでが伝わってくる気がするの」
藤川は昨秋の監督就任直後、投手陣に「キャッチボールを丁寧にやろう」と指示した。野手にも同じことが言える。ボールを通じての対話でチーム力を高めていくのである。 =敬称略=
(編集委員)