東京新聞1/30 13:47
昨年12月にカナダ・モントリオールで開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、2030年までの新たな生態系保全目標が採択された。会議に参加した国際自然保護連合(IUCN)日本委員会(東京)の道家哲平事務局長(42)に評価を聞いた。 (有賀博幸)
◆生物多様性の損失 危機意識強く前進
−COP15に点数をつけると。
七十〜八十点。十分ではないが、COP10で採択された「愛知目標」の課題に応え、進化した。昨年十一月にエジプトで気候変動に関する国際会議(COP27)が開かれたが、気候変動と生物多様性は連動している。生物多様性の損失に対する参加国の危機意識は強く、閣僚級会合で大きく前進した合意内容となった。今後は各国の国家戦略の精査と実施が重要になる。
−進化した点は。
愛知目標で画期的だったのは「人と自然の共生」という概念を打ち出し、五〇年の将来像として合意したこと。このビジョンは十二年たっても色あせることなく、むしろ共生社会の要素は強くなっている。達成に向け(1)生態系の保全(2)持続可能な利用(3)利益配分(4)実施手段−の四つのゴールが具体的に文章化された。
生態系の保全では、生物多様性の損失をゼロに戻すだけでなく、回復の道筋に乗せプラスに転じる「ネーチャーポジティブ」という考え方が盛り込まれた。大きな発想の転換だ。
−行動目標には数値が多く見られる。
愛知目標の反省の一つに「数値目標が少なく成果を測れない」があった。COP10で数値が明記されたのは二十の行動目標のうち三つだったが、今回は二十三のうち七〜八に増えた。陸と海の少なくとも30%保全▽外来種の侵入速度を50%削減▽農薬・有害な化学物質のリスクを少なくとも半減▽食料廃棄の半減−などで、進捗(しんちょく)を測る指標も示された。
−資金面はどうか。
生態系保全の資金を官民で三〇年までに毎年二千億ドル(約二十七兆円)確保する目標値が設定され、加速するための世界基金も創設される。生態系を破壊する「負の補助金」を特定し、三〇年までに年間五千億ドル以上削減することも行動目標に盛られた。ただ資金確保では、誰がどれだけ出すかの具体的な議論まではいかなかった。
−この十年余で感じる変化は。
世界経済フォーラムによる世界トップ企業へのアンケートでは、今や気候変動と生物多様性の損失がリスク要因の上位に挙がり、社会経済の諸課題で重要な位置を占める。COP10の主な担い手は国だったが、今回は多くの企業・金融や自治体、非政府組織(NGO)が加わった。
意思決定に「先住民、女性、若者が参画する」ことや「ジェンダー平等の中で実現」といった文言が盛り込まれたのも愛知目標になかった視点だ。世界的に「環境正義」(環境面での公正・公平)や権利に基づいたアプローチへの意識が急速に浸透している。
−市民はどんな行動をとればいいか。
「国連生物多様性の10年日本委員会」が呼びかけている「MY行動宣言」=表=をまずは実行してほしい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/84/0a0f643c04802a678872cf768bbdc522.jpg)
COP15の成果 参加した専門家に聞く 人と自然の共生へ「具体化」
© 東京新聞 提供
<どうけ・てっぺい> 公益財団法人「日本自然保護協会」保護教育部国際担当。2004年からIUCN日本委員会の運営に従事し、COP9から全COPに出席。生物多様性の世界目標に向け、行政・企業・自治体・NGO・研究者をつなぐ「にじゅうまるプロジェクト」を展開している。
<生物多様性条約締約国会議> 1992年の国連環境開発会議で「生物多様性条約」が採択されたのを機に発足し、ほぼ2年に1回開催。2010年に名古屋市での第10回会議(COP10)で20年までの「愛知目標」が採択された。現在196カ国・団体が加盟。
https://www.msn.com/ja-jp/money/other/cop15の成果-参加した専門家に聞く-人と自然の共生へ-具体化/ar-AA16St3Q
昨年12月にカナダ・モントリオールで開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、2030年までの新たな生態系保全目標が採択された。会議に参加した国際自然保護連合(IUCN)日本委員会(東京)の道家哲平事務局長(42)に評価を聞いた。 (有賀博幸)
◆生物多様性の損失 危機意識強く前進
−COP15に点数をつけると。
七十〜八十点。十分ではないが、COP10で採択された「愛知目標」の課題に応え、進化した。昨年十一月にエジプトで気候変動に関する国際会議(COP27)が開かれたが、気候変動と生物多様性は連動している。生物多様性の損失に対する参加国の危機意識は強く、閣僚級会合で大きく前進した合意内容となった。今後は各国の国家戦略の精査と実施が重要になる。
−進化した点は。
愛知目標で画期的だったのは「人と自然の共生」という概念を打ち出し、五〇年の将来像として合意したこと。このビジョンは十二年たっても色あせることなく、むしろ共生社会の要素は強くなっている。達成に向け(1)生態系の保全(2)持続可能な利用(3)利益配分(4)実施手段−の四つのゴールが具体的に文章化された。
生態系の保全では、生物多様性の損失をゼロに戻すだけでなく、回復の道筋に乗せプラスに転じる「ネーチャーポジティブ」という考え方が盛り込まれた。大きな発想の転換だ。
−行動目標には数値が多く見られる。
愛知目標の反省の一つに「数値目標が少なく成果を測れない」があった。COP10で数値が明記されたのは二十の行動目標のうち三つだったが、今回は二十三のうち七〜八に増えた。陸と海の少なくとも30%保全▽外来種の侵入速度を50%削減▽農薬・有害な化学物質のリスクを少なくとも半減▽食料廃棄の半減−などで、進捗(しんちょく)を測る指標も示された。
−資金面はどうか。
生態系保全の資金を官民で三〇年までに毎年二千億ドル(約二十七兆円)確保する目標値が設定され、加速するための世界基金も創設される。生態系を破壊する「負の補助金」を特定し、三〇年までに年間五千億ドル以上削減することも行動目標に盛られた。ただ資金確保では、誰がどれだけ出すかの具体的な議論まではいかなかった。
−この十年余で感じる変化は。
世界経済フォーラムによる世界トップ企業へのアンケートでは、今や気候変動と生物多様性の損失がリスク要因の上位に挙がり、社会経済の諸課題で重要な位置を占める。COP10の主な担い手は国だったが、今回は多くの企業・金融や自治体、非政府組織(NGO)が加わった。
意思決定に「先住民、女性、若者が参画する」ことや「ジェンダー平等の中で実現」といった文言が盛り込まれたのも愛知目標になかった視点だ。世界的に「環境正義」(環境面での公正・公平)や権利に基づいたアプローチへの意識が急速に浸透している。
−市民はどんな行動をとればいいか。
「国連生物多様性の10年日本委員会」が呼びかけている「MY行動宣言」=表=をまずは実行してほしい。

![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/84/0a0f643c04802a678872cf768bbdc522.jpg)
COP15の成果 参加した専門家に聞く 人と自然の共生へ「具体化」
© 東京新聞 提供
<どうけ・てっぺい> 公益財団法人「日本自然保護協会」保護教育部国際担当。2004年からIUCN日本委員会の運営に従事し、COP9から全COPに出席。生物多様性の世界目標に向け、行政・企業・自治体・NGO・研究者をつなぐ「にじゅうまるプロジェクト」を展開している。
<生物多様性条約締約国会議> 1992年の国連環境開発会議で「生物多様性条約」が採択されたのを機に発足し、ほぼ2年に1回開催。2010年に名古屋市での第10回会議(COP10)で20年までの「愛知目標」が採択された。現在196カ国・団体が加盟。
https://www.msn.com/ja-jp/money/other/cop15の成果-参加した専門家に聞く-人と自然の共生へ-具体化/ar-AA16St3Q