「9」のつく日は空倶楽部の日。
水平線近くに薄く引いた雲はあるものの快晴。
また風もほとんどなく、猛暑を差し引けば気候的には穏やかと言える。
ところが、そんな穏やかさとは裏腹に寄せる波といったら、「ザバーン」と大きな音を立てながら
時折り砂を巻き上げて足元を濡らすほどに迫ってくる。
晩夏の頃にやってくる大きな波、土用波だ。
三国海岸(福井県坂井市)2023.08.13 18:24 Sony α7S2 FE24-70㎜/f2.8 GM2 (45㎜ f/8,1/60sec,ISO100)
今年の夏は記録的な暑さで7月の気温は観測史上、最も高かったとか。
さらに暑さは留まるところを知らず
8月に入ってからも北陸の気温は連日の35℃を越えている。
今年の夏はいったいいつまで続くのだろう、と閉口していたが、
土用波がやってきているということは
一見夏の様相ながらも確実に季節は刻まれているのだろう。
さて、この時期、毎年同じことを書いている。
太宰治が創作ノートに残した「ア、秋」の話だ。
「夏の中に秋がこっそり隠れてもはや来ているのであるが、
人は炎熱にだまされてそれを見破ることが出来ぬ。」
と記されているように、夏から秋への季節の変わり目はわかりづらい。
春なら「春一番」、夏なら「梅雨明け」、冬なら「木枯らし一号」など
季節の到来を告げる事象がそれぞれにあるのだが、
夏から秋への移り変わりだけはあいまいだ。
それでこの季節になると「夏に隠れてやってくる秋」を見破ってやろうと
秋の気配を探しまわるのだが、それを土用波の風景に感じたわけだ。
ところで。
この時期、天候に関わりなく海が荒れることは
海に生業を求める人たちの間では古くから知られていたそうだ。
最近になってその原因が究明された。
土用波の正体は南方で発生した台風が起こす高波が
遠く地球規模で伝わったものだった。
種明かしをしてしまうと「隠れた秋」という
情緒などすっ飛んでしまうのだが
それはそれとして、この風景を秋の気配として楽しんだ次第だ。