能登 輪島。
市街地を外れた山あいの地に母の生家がある。
もう15年あまり、住む人もなく、
金沢に住む従兄がときどき風通しに来ていたが、
縁あって人手に渡ることになった。
「こんな山奥の家を...？！」
そう思ったのだが、なんでも、都会から移住してきた人が手を加えて「宿」として再生するのだとか。
小学生の頃、夏休みが始まると、この家に預けられ、ひと月余りを過ごした。
その頃、大学生になっていた従兄たちも帰省し、
勉強を教えてもらいながら、川や山でよく遊んだ。
そして、夏休みが終わりに近づくと、両親が迎えに来る。
何年続いたのか覚えていないが、
それから半世紀近くも経った今でも、この家のことは隅々まで覚えている。
年内に引き渡しが終わるというので、この家に来るのはこれで最後、
多少、感傷的に表現するなら、なつかしい場所に「別れを告げに来た」という次第だ。
ところで、この家を眺めながら、ふと浮かんだ曲がある。
ジャクソン・ブラウンの「Looking Into You」がそれで、冒頭のこんな歌詞を思い出したのだ。
Well I looked into a house I once lived in
around the time I first went on my own
“Looking Into You” JACKSON BROWNE
かつて住んだことのある家を見つめていた。
初めて独り立ちしたころの家だ。
あのころ、幾多の道が、僕が夢見た幾多の場所へとつながっていて
友人たちと僕は同じ道を歩き始めたのだった。
今、その道程を終えて、また新たな道を探し始めるにあたって
まさに出発点となった場所を見たくて、ここへやって来たのだ。
壁や窓は昔の佇まいのままで
ドアの向こうからは音楽が聞こえてきた。
そこに住む親切な人たちは僕の奇妙な質問に辛抱強く答えてくれた。
「遠くから来たのかい？」
その問いに僕が無言でうなづくと
彼らは、子供たちが床に座り遊ぶ部屋へと招き入れてくれた。
僕達は、この先、自分たちが見つけるであろう変化について話した。
その会話は、僕を熱くし、気持ちを高ぶらせてもくれた。
ところが、灰色の朝日がさす外へ出たとたん、
ハイウェイが溜息とともに囁きかけてくる声が聞こえたのだ。
「旅立つ覚悟はできたのか？」と。
そして、僕は行き交う人それぞれの顔を覗き込んだが、
その表情は、決して満ちることのない海のようであり、
次第に古くなり、やがては朽ちてしまう「家」のようでもあった。
その家は「愛」さえも取り戻すことができない場所だが、
また一方で、居心地の良いホテルでもあるから、
人生が終わりを迎える束の間、客としてそこに居て、せいぜいくつろいでいるがいい。
僕は、数多くの夢を見てきた。
そしていつか、その探し求めてきた旅も終わることになる。
今、僕は「君」を見つめながら、悩まされ続けた幻想の縁に立っている。
偉大な歌の旅人もまた、ここを通り過ぎていき、
そして彼は、僕の目を開かせてくれた。
僕は、彼のことを「預言者」と呼ぶもののひとりだったので
彼に、なにが「真実」か問いかけた。
これまで歩んだ道程が、これからの道がひとつしか残されていないことを指し示すまで。
今、僕は、僕自身の真実の中に人生があったことを見つめ始めている。
さて、僕は、自分の讃美歌を空に見つけようとしてみた。
すると、言葉や音楽が流れてきた。
しかし、その言葉も音楽も、僕が「君の」中に見た美しさには、けっしてかなわないだろう。
そして、それこそが真実
あいかわらず難解なジャクソン・ブラウンの詩だが、
これを機会に、この曲を何度も聴いてみて、あらためて気づいたことがある。
「君」"You" とは誰を指すのか、ということについてである。
新たな旅立ちを前にした心情を、
これまでの起点となった「家」を眺めながら語る歌詞の最後に
Words and music can never touch the beauty that I've seen
Looking into you and that's true
言葉や音楽は、「君」の中に見つけた美しさにはかなわないだろう。
それが真実。
とあり、これまでは「なぜ唐突に愛の告白が？...」と思ってきたのだが、
この「君」を恋人ではなく、かつて住んだ家を擬人的に表現したものと考えるなら、
その家と一緒に住んだ家族が、新しい道を踏み出す勇気をくれる素晴らしい場所となり、
歌詞全体を通しての脈絡が腑に落ちる。
ただし、あくまでも推測だが。
さて、母の生家でいちばんのお気にいりだった場所がここ。
夏、陽が傾くと、涼しい風が通る縁側は、
思いきり遊んだ後の、日に焼けた体を冷ましてくれる、やさしい場所だった。
ひがし茶屋街 金沢市東山
朝もやの港区あたり：新宿超高層ビルから
トータル
水害で生家の家財すべてを母に告げず
処分してしまった私には・・・
（水害に遭った事を母は知らないのですが）
なんだか・・・沁みます。
立派なお宅だったのですね。
周りの自然に抱かれるように建っている
その佇まいには品格が感じられます。
縁側の長い廊下、拭き掃除させられませんでしたか？(笑)
トゲがいっぱいの古い雨戸に難儀したことは
ありませんでしたか？
2階に上がる急な階段にワクワクしませんでしたか？
わたし自身の思い出も蘇ってきました。
こちらのお宅が新しい持ち主様の元で、ますます
皆さんに愛される家として、いつまでも残っていって
欲しいですね。
水害で...。
そうでしたか。
実は、私も母には話していないのです。
というか、話してももうわからない状態です。
私でさえこんなにさみしい思いですから、
逆にわからないことが、母にとっては幸いなことかもしれません。
それでも家の写真だけは見せてあげようと思っています。
農家でしたからね。
囲炉裏もあって、冬は火を焚いて暖をとっていたことを覚えています。
縁側の拭き掃除！
姉と雑巾がけ競走しました（笑）
雨戸の思い出！
閉めるのは重いからと手伝わせてもらえませんでした。おかげで棘は刺さりませんでした。
階段！
広い家なのに、どうして階段が急なのでしょうね。手すりもないし（笑）
イタズラをすると蔵へ閉じ込められました（泣）
それもこれもすべていい思い出、
民宿として繁盛してくれたらうれしいです。
１０年ほど前に、香川県に有る母方の実家を手離しました。
私の場合は今も健在な母の意思で本家に売却したのですが、今も原型を留めているものの、荒れ放題なのは忍びない所です。
近くにお墓が有り、高齢の母親の代わりに私が年２回程度参拝して手入れしています。
高知の土佐錦魚の品評会参加はそのついでの産物なのです♪
ここに眠る、金魚が好きだった祖母は今回喜んでることだと・・・
自分の事ばかり書いてすみません。
jyuraku-5thさんの思いは良くわかります。
住宅は人が住むことで空気が通り、寿命も延びます。
大事に使って貰えそうなのは喜ばしいこと、
新しい持ち主の元、再生される事を願います。
やはり愛着のある家には感情が移入しますね。
＞新しい持ち主の元、再生される事を願います
ありがとうございます。
従兄が世話をしていましたが、金沢から遠く離れた輪島では所詮、限界でした。
オープンしたら、みんなで行こうかと話していますが、
自分たちが住んでいた家にお金を払ってとまるというのはどうも...（笑）
昭和の家というか昔のおうち、こんな風に縁側やどんつきにトイレなどあって。
それから、ミシンを縁側に出していたような。
今は、昔のおうちを宿泊施設にしたり、カフェにしたりがはやっていますね。
この辺でも山奥の方に行けばそういう古民家カフェがたくさんあります。
それほど、大々的に宣伝してないのひっそり感がいっぱいで、くつろげるのですが。
冬場は寒いです。
トイレは勝手口の土間をわたっていかなきゃいけないし、冬、とっても寒かった思い出があります。
それでも、三代にわたって引き継がれた家。
人手にわたるのはさびしいものです。
いい宿になってくれたら...とひたすら願うばかりです。