はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆特集版 1月30日

2006-01-30 16:41:14 | はがき随筆
博多織りの財布
 めったに開けない棚の整理をした。色あせた日記帳。思わず開いてみる。「竹之内さんとお会いした。スーツ姿の彼は長身で鼻が高く格好よかった。しかし一見クールな感じに思えた」。すっかりタイムスリップして、ページをめくる。「お兄さんの家に誘いをうけて同伴する。子供がいるから、ケーキを買っていきましょうと博多織の財布を渡されて驚いた」。あれから半世紀。そして健康が取り柄と自負していた。しかし、今は先の見えない病気なれど2人で頑張りましょう。私がついていますから。
   鹿児島市城山 竹之内美知子(71)


初日
 初日をカメラに収めようと自宅近くの白銀公園に行った。初日にカメラを向けると、まるで大きな真珠だ。シャッターを押そうとしたら薄雲にかかり悔しい。方角を変え公園内の白銀橋へ。高欄に杖を立て初日を見ると雲から抜け出す寸前。今だと、シャッターを3回押すと足元でゴトゴト音がした。風で杖が川の土手に落ちていた。高欄の隙間から手を延ばすが届かない。自宅に帰り妻に話すと笑いながら「まだ私の方が機敏だよ」と言う。現場に行った。川沿いの土手を通り、拾って「はい、じいさん」。橋上の私に渡してくれた。老母の姿に感激。
   姶良町平松 谷山 潔(79)


まずは基礎から
 15歳の春。工業高校に行きたかったが思いはかなわなかった。実家に住んでいると、家が古いので大工さんに頼むことが多い。やっぱり建築家で学んでおけばよかったなあ。
 今からでも遅くはない。基礎を教えてもらおうと、田代町の「手作り工房・山小屋」のMさんに相談をして弟子入りした。43歳の純朴で優しい人である。初めての作品はカセット・コンロ台。板を削り、ヤスリをかけてバーナーで表面を焼いていく。我ながらよく出来た。見ていた母が「面白そうね。次は何が出来るか楽しみね」・眼を細めて言った。
   阿久根市赤瀬川 別枝 由井(63)


願うこと
 毎年計画を立て努力しようと思うが続かない。加齢と共に考える事をしないで毎日を楽しく過ごせば良いのだと自分を納得させていたが、あれもこれも、と考えているうちに2時、3時と夜が更ける。
 外に出ると満天の星だ。両手を広げ冷気を胸いっぱいに吸う。爽快だった。書き初めの墨をすり、太い筆に墨液をたっぷりつけて一気に書く。「得手應心(手に得て心に応ず)」の4字を半切にしるした。
 今年はささやかな希望を持ち一歩でも進み考えて行動したいと願う。
   薩摩川内市高江町 上野 昭子(77)


警鐘は鳴っている
 年末に菜園の蕪を収穫したが、昨年に比べやや小振りだった。栽培方法を反省し、より大きい蕪を目指して励みたい。世の中には生活習慣病によるダメージ、耐震偽装の巧妙さ、教師等の暴力や殺傷事件など、自覚やモラルの欠如に起因すると思われる事象が多発している。生活習慣病は本人に努力による改善の余地がある。だが偽装や教師等の問題は本人に行為の結果(他人を傷つける)が予見されていて、すでに警鐘は鳴っている。その悪事を阻止するモラルは高度の勇気に期待するしかない。仮に懲罰に処しても心が変わる保証はない。
   薩摩川内市樋脇町 下市 良幸(76)


携帯電話
 携帯電話を持たない主義と言っていたテレビタレントが「ついに買ってしまったよ」と語っているのを見て、やはりこれからは携帯電話くらい使いこなせなくては、世の中について行けないことを悟った。実は私も持ってはいるのだが、もっぱら受信のみで、自ら掛けることは滅多になかった。これからはもっと活用しなくてはと、カメラ付きに買い替えようと考え、カタログを取り寄せた。ところが、先日の随筆欄にK氏が、ユックリズムに徹するために、先ず携帯電話を処分したと書かれていた。ウーン、これも一理ある。私の心は今揺れている。
   西之表市西之表 武田 静瞭(69)