はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

晩秋の空に想う

2006-12-19 11:25:45 | はがき随筆
 果てしない空想と青春の心意気で武装し、幸せと言う夢に幻惑され、長途の旅に一歩を踏み出した。だが行く手は誠に険しく、七坂八坂に阻まれ、我が空想はついに瓦解し現実へ引き戻された。途方にくれ戸惑いながら宿命との戦いが長く続いた。だが苦しみながら一坂越えた時は無上の喜びがあった。お陰で周りの人情や命の尊さも知った。時は流れ気力も落ち、涙もろくなった。妻は病床に伏し、我れ独り晩秋の空を仰いで過去を偲ぶ。奇しくもクリスマスが誕生日で80歳になる。今も平坦な道ではないが、子供や孫たちの支えとなって生きたい。
   霧島市国分 楠元勇一(79) 2006/12/19 掲載

一、二、三、四…

2006-12-19 00:07:04 | かごんま便り
 綺麗なクリスマスイルミネーションが飾られた街を歩けば、いつの間にか歳末商戦も加わっていた。元来がものぐさな性格で、公私とも積み残している事はたくさんある。
 それも期限が年内であることを考えると恐ろしくなり、つい現実逃避してしまう。逃亡中のドライブで立ち寄った霧島市牧園町の山中にある神社にさえ、早くも門松が飾られていた。何だか神様から「もうすぐ新年だぞ。やることはやれ。逃げるな」と告げられたようだ。すると「いち、に、さん、し……」と、数字を数えている自分に気づいた。
 数を数えると気分が落ち着く。十数年前に禅寺のお坊さんから教わった。「人間出来る事は限られています。少しずつ。一、二、三、四……と数えると平常心になりますよ」
 試してみると、なるほど効果があった。私の性分に合っているような気がした。以来、どれから片付けるかなどを考える前に数を数えている。
 江戸時代後期の子供好きの僧、良寛は数字を盛り込んだ歌を残している。持ち物は頭巾、鼻紙、手ぬぐい、扇、手鞠だったという。
 その歌…
 袖裏の毬子値千金 
 謂言(おもえら)く好手にして等匹なしと 
 可中の意旨を若(も)し相問わば 
 一二三四五六七
 意味は「袖の中の手鞠は高い値打ちがある。私は毬つきの名人である。その極意を尋ねられたらこう答えよう。ひい、ふう、みい、よ、い、むう、な」。
 数を数えながら毬をつく。無心について極意を会得するしかないのであろう。最初から上手な人はいない。あわてず、少しずつ。私がお坊さんから教わった「数を数えて平常心になる」に何かつながるものだと解釈している。
 目を閉じて深呼吸しながら数を数え、落ち着いたところで仕事に取り掛かる。数は10までがいいようた。数えすぎると眠くなる。
 一、二、三、四、五……。さあ、今年も皆さんと一緒に年の瀬を乗り切ります。
  ◇   ◇   ◇   ◇    ◇
 ほとんどルールを守って「はがき随筆」に投稿していただいています。しかし、中には字数などを守らず書きっ放しで、自分の作品は月1回は必ず掲載されると勘違いされている人もいらっしゃいます。投稿者が増え、その分、以前より掲載のサイクルが異なっています。皆さんの欄です。よろしくお願いします。
   毎日新聞 鹿児島支局長 竹本啓自 2006/12/18 掲載