はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

埴生の宿

2006-12-21 08:49:57 | はがき随筆
 瓦がずり落ちそうな親の廃屋がある。私は少年時代、天井のないその荒屋で過ごした。冬は目が覚めると、時には粉雪が枕元に舞っていた。
 とうに、父母は亡くなり、屋根や戸板も苔むして、粗末な埴生の宿だけがひっそりと残っている。
 廃屋を訪ねると、まだ、柱には妹や弟の背丈を測った傷跡がある。父母、妹、弟の5人家族が食べ、笑い、喧嘩し、叱られた思い出が一瞬に蘇る。
 仏壇に花を供えに行ったり、イギリス民謡「埴生の宿」を聴くと、懐かしい思い出が込み上げるのはそのせいかも知れない。
 出水市 小村 忍(63) 2006/12/21 掲載