はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

メジロのうたた寝

2009-02-26 20:14:45 | はがき随筆






 朝起きてカーテンを開けると小鳥が縁側でうずくまっている。目をつむり、身体を膨らませ、じっとしている。
 カメラを引っ張り出し、ガラス戸越しにパチリ。気がついていないようなので外に出て遠くから撮る。少し近づく。まだ目をつむっている。正面に回ってみる。そこでパチリ。そのシャーッター音で目を覚ましてしまった。私と目が合った。次の瞬間、目の前のマツリカに飛び移り、私を一瞥して飛び去った。
 目の前で安心しきって眠っている姿を見たのは初めて。なんだかメジロと友達になれたような気分になった。
   西之表市 武田静瞭(72) 2009/2/26 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は武田静瞭さん提供




はがき随筆1月度入選作品

2009-02-26 11:29:45 | 受賞作品
 はがき随筆1月度の入選作品が決まりました。
▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん(69)の「四海春」(6日)
▽霧島市国分福島1、楠元勇一さん(82)の「1秒の命」(20日)
▽鹿児島市真砂本町、萩原裕子さん(56)の「娘のチェック」(5日)

──の3点です。

 1月分の投稿は、新年の抱負や心構えなどを記したものが多数でした。それが成人式風の「人生これからだ」といった元気のいいものではなく、投稿者の年齢相応に慎ましいというか、控え目なものが多く、同年配の私にもむしろ微笑ましく感じられました。
 清田さんの「四海春」は、紫尾山からの日の出、ナベヅルのシルエット、不知火海、普賢岳などの壮大な景観のパノラマに、新年の多幸を願う美しい文章です。まさしく「謡曲高砂」の「四海波静かにて」の世界です。ただ、現在の日本が「国も治まる時つ風」と続いていかないところが気になりますが……。
 楠元さんの「1秒の命」は、体調不良でこたつにしがみついていると、柱時計の秒針が気になりだした。その動きごとに自分の命が削り取られているように感じられる、という感慨です。私たちが生まれた時から死に向かって生きていることは理屈では誰にも分かっていることですが、このようにそれが情景として目に見えるという文章は、奥深いところで不気味です。
 萩原さんの「娘のチェック」は、ご自分の文章を娘さんがこっそり添削したことに、娘の成長がう文章です。子供の成長はいろいろな形で見えてきますが、文章表現を通しての成長の実感はうれしいですね。
 正月風景が多数でそれぞれ興味深いものがありましたが、次にはやや趣を異にするものを挙げてみます。
 年神貞子さん『持ち前」(21日)は、ご主人がころ合いを見計らって、女性には苦手の包丁研ぎをしてくれることへの感謝の一文です。橋口恵美子さん「さらばイノキチ」(9日)は、畑を荒らす子猪を迷惑しながらも楽しみにして名前を付けてやったら、その途端に現れなくなったという話です。下市良幸さん「人生今が旬」(1日)は、福沢諭吉のいう「奉仕」の精神に心掛け、出来る時に出来る事を精一杯やる79歳の今こそが人生の「旬」だという、気持ちのいい文章です。
(日本近代文学会評員)鹿児島大名誉教授・石田忠彦)















何をどこに

2009-02-26 10:57:03 | はがき随筆
 「トシ子、眼鏡と印鑑はどこにやったね」。父から妻への電話。母が亡くなってから父は一人暮らしだった。県下を転々とした生活で月1~2回帰省していた。こたつの上にはいろいろなものが雑然と並べられ、あまり勣かなくてもよいように手元に置いていた。ちょっと動けばよいのになあと思っていたが、自分も父の年になるに連れて気持ちが分かるようになった。「整理してくれてありがたいけど何がどこにあるのかさっぱり分からない。今度帰ってきたらこたつの上は触らないように」との電話。父は一人で大変だっIたとつくづく思うこのごろ。
薩摩川内市 新開譲(83) 2009/2/25 毎日新聞鹿児島版掲載