はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

おみやげ

2009-10-04 23:51:28 | アカショウビンのつぶやき
 やっと時間がとれて新婚旅行に出かけた、息子夫婦からちっちゃなお土産が届いた。大学でフランス文学を学んだお嫁さんの希望はバリ…。

 アルルで買ったという、リネンのテープルマットがいい。
 
 おいしいチョコをかじりながら二人に祝福あれと祈る。

長過ぎた忘れ物

2009-10-04 23:16:11 | はがき随筆
 幼少のころ、熊本の田舎で場所は山川のほとりに柿の木が1本あった。田のあぜで小学2年生の兄は青柿を2個ちぎり青田に埋め込んだ。青田の水のぬくもりで2、3日放置すれば渋が抜けて食べられると言って約束した。かれこれ忘れ去って70年ばかりたってしまった。年老いて、懐かしさも手伝って、埋めていた柿を見に行った。70年ばかりたって、川は相変わらず瀬の音を立て続けている。当時の田のあぜが、既に草茂る荒れ地になって田んぼもなし、柿の木もなし。あるのは八十近くになった老いぼれと記憶だけだ。なつかしきかな。
  鹿屋市 山口弘(77)2009/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

花火の思い出

2009-10-04 23:12:55 | はがき随筆
 おいっ子がまだ小さいころ、ドンドンと打ち上げられる花火を縁側から見ていた時のこと。
 「きれいね、きれいね」と最初はながめていた。やがて「こわいよ、こわいよ」
と耳をふさいで泣き出した。
 「えっ」
 みんな顔を見合わせた。
 いつもは好奇心いっぱいのおいっ子だが、ドンドンという大きな音がこわかったらしい。
 「爆弾の音みたいに思えたのかもね」
と母。
 花火を見るたびに、その思い出話に花が咲き、おいっ子たちのかわいい姿を思い出す。
  出水市 山岡淳子(51) 2009/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

土への祈り

2009-10-04 23:00:33 | 女の気持ち/男の気持ち
 司馬連太郎著「故郷忘じがたく候」を知ったのは、昨年の秋だった。
 400年前、朝鮮の陶工たちが日本に連れてこられて以来、望郷の念を抱き続 けながら苦難の道をたどった。先祖の姓と家業を今も脈々と受け継いでいるという事実に衝撃を受け、その地を訪ねてみたいと思った。そして今年の夏、小説の舞台である美山の沈壽官窯に行ってきた。
 武家門から敷地内に足を踏み入れると端然としたたたずまい。ためらいがちに展示館に歩を進めた。静かな館内で上品な光沢の薩摩焼に見とれていると、十五代沈寿官さんが入って来られた。用事が終わると「いらっしゃいませ」と気さくに声をかけてくださった。すくんでいた心がほぐれて、気持ちが弾んできた。
 カウンターに小説の文庫本が置いてあるのを見かけ「私も持って来ているんですよ」と受付の女性に話した。収蔵庫を見学していると、その女性が後を追ってきて「十五代が私でよければサインをしてさしあげましょうかと言っておりますが」とのこと。
 「土に祈り火を畏れつつゝ、表紙の裏に誠実な文字で書かれていた。
 沈壽官さんのお人柄や丁寧な応対に感激し、満ち足りた心地で窯を後にした。
 旅から帰って、小説を読み返した。陶工たちがひたむきに土と火に向き合い、長い春秋を異国の地で誇り高く生きてきた歴史が心に染みた。
  山□県美祢市 石田民江・56歳 2009/10/2 毎日新聞の気持ち掲載




今日も潔く

2009-10-04 20:32:17 | 女の気持ち/男の気持ち
 子育ては、思い通りにもならないが心配通りにもならない。
 日めくりカレンダーの中の言葉である。この格言に、思わず膝を打った。子育てが一段落した私は今、子育てを人生に置き換えて自らを鼓舞している。「人生は、思い通りにもならないが心配通りにもならない」と。
 家族が健康で健やかにニコニコしながら暮らせますようにと願っていた。具体的には、夫の退職後には共に車で日本中を旅行して回ることを私は思い描いていた。
 しかし、夫は4年前に心筋梗塞でひとりこの世を旅立って行った。人生は思い通りにはならないということを思い知った。夫がいてくれたらどれほど心丈夫だろうという思いが、幾度も心の中を巡った。
 だが、この世の中、思い通りにならない分、心配通りにもならない。
 共に暮らす義父母は今、90歳と84歳。介護されてもおかしくない年齢ではあるが、2人とも自分のことは自分でしながら元気に過ごしてくれている。そして夫が心にかけていた娘たちも、長女と二女は社会人として元気に働き、三女の就職も内定した。
 思い通りにも心配通りにもならぬこの運ならば、わが運命は天に委ねて、明日を思い煩うことなく歩いてゆこう。
 今日も潔く、日めくりカレンダーをめくって1日が始まる。
  福岡市中央区 森 由美・57歳 2009/9/30 毎日新聞の気持ち欄掲載