はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

散る桜 残る桜

2009-10-17 21:43:06 | アカショウビンのつぶやき






 今日は、30年以上地元で活動を続けている演劇グループ「劇団かんな」の公演を観に行った。

 鹿屋は日本一規模の大きな特攻基地があった地。しかし薩摩半島の知覧特攻基地ほど全国的には知られていない。このたび、劇団かんなを主宰するY氏が、時間をかけて資料を掘り起こし感銘深い作品に仕上げておられた。

 「散る桜 残る桜 残る桜も散る桜…」

 疑い迷いつつも、ただお国のためにと若い命を捧げたあまたの特攻隊員。しかし中には出撃しながら、いろいろな理由で生きて戻ってきた隊員もあったという。「一億火の玉だ」のスローガンを掲げていた当時のこと、その後、彼らが、どのような運命をたどったかは想像に難くない。

 特攻慰霊祭に参加した元上官と、特攻の真実を知ろうと訪ねてきた大学生グループ、さらに悲劇の特攻隊員の弟がひょんなことから、ともに焼酎を酌み交わしつつ、次第に真実が明かされていく。生きて戻ってきた隊員に過酷な出撃命令を下した元上官。良心の呵責に責められつつ、生きねばならぬ人生だったのだ。

 戦後64年、日本は憲法九条に守られ、平和を享受してきた。しかし地球上のあちこちで、いまも悲惨な戦争が繰り返され、おびただしい難民、貧困…とどまるところを知らぬ復讐の連鎖。

 地に平和よあれ! と、ただ祈るのみ。
 
 

リンゴ

2009-10-17 11:07:22 | はがき随筆
 時あたかも秋。あこがれていた長野にぶらり旅。シラカバ林には白秋の詩の世界に誘われ、千曲川では藤村の思いに浸る。
 枝もたわわに実ったリンゴ。畑一面が真っ赤に染まるリンゴ畑は圧巻だ。収穫されて山積みされたリンゴを一つ、5歳の女児が、見も知らない私に差し出した。その気持ちの優しさが、リンゴ畑に一陣のさわやかな風を起こした。丸かじりしたリンゴのえも言われぬうまさに魅了され、田舎の父母に送った。あれから40年。つい先日のように母は「あのリンゴのおいしさは、冥土への土産話に持って行くよ」と絶賛。
 出水市 道田道範(60) 2009/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はmitaさん

慟哭

2009-10-17 10:49:37 | 女の気持ち/男の気持ち
 「私の病気のことを絶対、題材にしないで」と、来年古希を迎えるはずだった妻に釘を刺されていた。そのご法度が無効となる時を、初秋の日曜日に迎えた。
 7年前、福岡市の病院で左乳房の下のしこりを「悪性リンパ腫」と診断された。初めて聞く病名だが、白血病と同類の血液病であると理解した。すぐに入院となり4ヵ月夜、治って元気に退院し、これで安心と楽観していたが、その後約2年おきに再発して入退院を繰り返した。
 入院期間は約1年。その間、妻は愚痴一つこぼさず前向きに病と対座し、元気なうちに友人たちと海外旅行を楽しんでいた。今年の7月からは北九州市の病院に移り、通院していた。
 異変が起きたのは、友人の初盆参りの帰りにスーパーで買い物をした4日後。肺炎で重体となり、それから個室で息を引き取るまでの18日間、妻に付き添った。
 亡くなる3日前の夜中、弱音を吐いたことのない妻が酸素マスクの下で「もう、頑張れない」と言った。私は妻の額に額を押しつけ、「頑張らないでいいよ」と言って慟哭した。
 「泣かないで。長生きしてね。お浄土で会えるから」
 「あとから行くからね。僕でよかった?」
 「うん」とうなずいた。
 最後まで立派過ぎる妻に、額を重ねて泣き続けた。
 金婚式まであと2年余。妻であり親友であった女性がたくさんの思い出と私を
残して旅立っだ。
  福岡県水巻町 松尾 高林・76歳 2009/10/15 毎日新聞「の気持ち」欄掲載

里の秋

2009-10-17 10:22:36 | はがき随筆
55年住みついたこの里。
雲一つない中秋の名月は素晴らしかった。九州山脈に連なる四方の山々の稜線のシルエットがくっきり見えてきれい。
 高台から一望の稲田も黄金色に染まり、近々農繁期だ。散歩する涼風がホッペをくすぐる。庭先の柿の実が色づいている。お隣からクリをもらう。今年はクリも豊作とのこと。お陰でおいしいクリようかんを頂いた。
 この2、3日寒さを感ずる。昨秋から我が家の一員となったメス猫、メタボのハナちゃんもコタツにもぐりたいようだ。ひと雨ごとに秋も深まり、この里も降霜も近いだろう。
  伊佐市 宮園続(78) 2009/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載 

旬産旬消

2009-10-17 09:54:36 | はがき随筆
 家庭菜園が趣味となり10年、失敗や成功の菜園日記を見ながら種まきをする。
 白菜は時期が遅れてまかずに終わったことがある。昨年は上出来でサラダにしても甘くておいしかった。今年は雨が少なくてプランターに育苗して移植、今は葉を広げている。
 キャベツ、ブロッコリーを冒険して早く種まきした。無農薬を旨として害虫は手で取る。ところが昨年まで見なかったが、見えにくい虫だろうかしんがやられてしまい収穫は望めない。早まきが原因かもしれない。
 家庭菜園は旬産旬消。冒険にはそれなりの手だてが必要か。
出水市 年神貞子(73)  2009/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載