はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

金御岳

2009-10-20 07:21:57 | はがき随筆
 「タカバシラ」を初めて見たのは一昨年、偶然通りがかった都城の金御岳(かねみだけ)。それ以来、この時期になると心躍る。今年も早朝に自宅を出発して、現地に着くとすでに大勢の人。立派な望遠鏡が並び車のナンバーも遠くは鳥取、福岡、大分……。金御岳は日本でも有数のサシバ観測点であることがうかがえる。
 そのうちタカバシラが確認できると、誰からともなく歓声があがり、一斉にその方向に人が動く。今日、ここで出会った者同士なのにすごい一体感。この日、4500羽のタカバシラがカウントされた。いつの日か生の鳴き声を……。
  垂水市 竹之内政子(59) 2009/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はbirdさん





はがき随筆特集版-4

2009-10-20 06:37:49 | はがき随筆
「思い込み !!」

 すがすがしい秋風の吹く昼下がり。クス並木の散歩道を初老夫婦が若々しいペアルックで乳母車を押してやって来た。
 ニコニコ顔、慈愛に満ちたまなざしであやす、ほほ笑ましい光景は、きっと最愛のお孫さんを乗せているに違いない。ふと、このほほえましい光景を息子の結婚を願う我が身に重ねた。
 足早に用を済ませ帰宅途中、再び出会う。期せずして目が合い、会釈をかわす。そっと乳母車をのぞくと「アッ……」。
 何と中には、耳の長いかわいい子犬が2匹。クルリとした目で見上げているではないか。
  鹿児島市 鵜家育男(64) 2009/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載



はがき随筆特集版-3

2009-10-20 06:33:28 | はがき随筆
「春の嵐」

 古いアルバムを整理していたらセピア色に変色した集合写真が出てきた。陸軍少年飛行兵学校に入校したときの写真だ。
 校庭にシンボルとして置かれた戦闘機を背景に集まっている。あこがれの少年飛行兵に合格し、夢にまでみた制服を身につけた軍国少年たちである。彼らはここで、飛行兵として心身の極限まで鍛えぬかれて卒業した。厳しい戦局に覚悟をきめて次の基地へそれぞれ転属した。校庭の桜に春の嵐が荒れる夕べだった。3ケ月後、机を並べた戦友の戦死を聞いた15歳だった。いま生き永らえている自分が後ろめたい気がする。
 鹿児島市 福元啓刀(79) 2009/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集版-2

2009-10-20 06:29:59 | はがき随筆
「希望はあるか」

 10日付の「くらしナビ、ライフスタイル」に作家、篠田節子さんのエッセーがあった。介護でがけっぷちの妻たち、娘たちについて書かれていた。私も、まったく同じ思いでいたので大共感。何度も読んだ。
 夫が脳出血で倒れ、半身マヒとなり自宅介護、約3年。12歳という難しい年齢となった一人娘との3人家族。夫の介護が終わったら、もはや私の体はどうしようもないポンコツ。そのまま介護を受ける身になるか、私の方が先にポックリ逝くかもしれない。娘はどうなる、という不安、恐怖心がいつもある。希望はない。
  鹿児島市 荻原裕子(57) 2009/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集版-1

2009-10-20 06:24:23 | はがき随筆
「サイクリング」

 仲間5人と林芙美子の石碑までサイクリングした。看護師さん、銀行員……と気の合う友人同士。加治木より桜島の歌碑まで片道25㌔くらいかな。錦江湾にそびえる雄大な桜島。エメラルドグリーンに輝く海は美しい。フェリーに自転車ごと乗り込むと潮の香りに包まれた。目的地へ着くと立派な歌碑が建立されていた。「花のいのちはみじかくて苦しきことのみ多かりき」。一又字一文字が丁寧に深く刻まれていた。私の心にも記念として深く刻んだ。勇気ある若い女性のサイクリング語り部。異国情緒あふれる光景は青春の遠い思い出の一幕でした。
 加治木町 堀美代子(64) 2009/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載