はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

随友はいいなあ

2010-05-21 18:42:17 | アカショウビンのつぶやき








 声だけで交流していた指宿市に住む、随友Aさんを訪ねた。
 Aさんと交流が始まったのは9年前「毎日ペンクラブ鹿児島」の文集作成のおり、お誘いしたのがきっかけだった。

 はがき随筆スタート当時から投稿していたAさんのエッセイは、巧みな文章構成と短い文に織り込まれたユーモアが魅力で、私はファンになってしまった。ある日の電話で、私の親友・Fさんが彼の幼なじみであることが判明。幼い頃の思い出を懐かしそうに話すAさんに私は、Fさんと一緒に会いに行くことを約束した。

 それからまた数年を経て、やっと夢が叶いご対面となった次第。Aさんは奥様と、指宿市で「食処心作」を経営している。
予約客のみという方針を貫く彼の姿勢は多くの人に支持され、次々に訪れる常連客と和やかに言葉を交わしながら包丁を振るうAさんの姿はかっこよかった。そして彼が心を込めて作った料理は、ほんとうに美味しかった。

 料理の合間にFさんと交わす47年前の思い出話はつきず、童心にかえった二人はいつまでも遠い昔を懐かしんでいた。
来て良かった! おなかも心も大満足。
 「まっちょっでなぁ、またきやいなー」という彼の暖かい声に送られて今日はお別れ。

 随友はいいなあ…。

「こわもての裏」

2010-05-21 18:29:44 | 岩国エッセイサロンより
2010年5月20日 (木)

岩国市  会 員   沖 義照

作業着を着た茶髪の若者2人と相席でラーメンを食べていた。その時入口のドアが開き、電動車いすに乗った年配の男性が入ろうとしていた。だが、間口が狭くて入れない。

 男性は引き返して行った。見ていた若者と私の目が合った。「入れてあげよう」と言うと、「うん」とうなずく。食べかけのラーメンを置いて飛び出して行った。だが、すぐに戻って来た。「おぶってあげようと言ったが断られた」と言う。

 私の一言で行動を起こしてくれた。スタートダッシュに遅れた私は、さっきとは違うまなざしで茶髪の若者を見ていた。
  (2010.05.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

こころを耕す

2010-05-21 18:26:48 | はがき随筆
 山門の外に2人の子どもを持たせて御夫人が急ぎ足で境内に入って来られた。何か用かと思っていたら、まわりを無視してトイレに向かわれた。何か不愉快になった。帰りはあいさつがあるかと期待したが、今度は下を向いて通りすぎ、子どもと車で立ち去って行ってしまった。これだけのことである。けれども何とも言えない空虚な思いであった。
 「福田を耕す」という言葉がある。耕すことを怠ると福田も荒れる。無邪気なあの子たちのこころを、あの母親は耕してくれるのだろうか。日本中、休耕田が増えているのでは……。
  志布志市 ー木法明(74) 2010/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆4月度入選

2010-05-21 18:10:35 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品が決まりました。

▽出水市武本、中島征士さん(65)の「走り雨」(17日)
▽薩摩川内市祁答院町下手、森孝子さん(68)の「後ろ盾」(27日)
▽鹿児島市武2、鵜家育男さん(64)の「門出・旅立ち」(24日)
の3点です。

 エリオットの詩に、「四月は一番残酷な月、死んだ土からリラの花を芽生えさせ、追憶と欲望をかきまぜて、春の雨で気だるい根を奮い起す」(『荒地』)というのがあります。残酷」かどうかは読者に任せるとしても、確かに四月は「追憶と欲望」の月ではあります。感じのいい追憶と欲望の随筆3編を優秀作にします。
 中島征士さん「走り雨」は、雨宿りをしながら、小学校や大学時代のにわか雨の追憶に浸る内容で、亡き母の記憶、年上の女性の「甘い香り」などが思い出されています。甘美な思い出はいいですね。詩的な文章にまとまっています。
 森孝子さん「後ろ盾」は、小学校の時、友人との遊びの中の口喧嘩で、負けそうになると、校長などの「後ろ盾」を持ち出して、権威付けしたという思い出です。最後は必ず「マッカーサー」を持ち出した、という微笑ましい内容です。あの頃は、泣く子も黙るのがマッカーサー(連合国軍総司令官)でした。
 鵜家育男さん「門出・旅立ち」は、札幌に就職して任地に向かう道中の思い出です。西駅発寝台車でまずは東京まで。上野から青森へ、青函連絡船、列車で函館から「大望を抱く札幌」へ、今では想像もできない長旅でした。クラーク博士ではありませんが、「大志」を抱いた時間、まさしく青春です。
 これらの他に3編を紹介します。
 竹之内政子さん「繋がったよ~」(30目)は、可愛いエピソードです。子供が、公衆電話での話し中の信号音が理解できなくて、固定電話を借りに来た。しばらくして掛け直させると、繋がったと大喜び。徳永ナリ子さん「楠」(8日)は、常緑樹は落葉しないと思っていたのに、楠木で、「ゆっくりと新旧の葉の衣替え」をすることを知ったという驚きが書かれています。田中京子さん「リフレッシュ」(6日)は、年齢とともに、身の周りのものが増え身軽になれない。思いきって文学全集から処分しだしたというもので、誰にでもある悩みが軽快に描かれています。      
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
 
 係から 入選作品のうち1編は29日午前8時半過ぎからMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
  2010/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

下駄

2010-05-21 17:56:12 | はがき随筆
 下駄の季節が来た。少年のころ、うれしかった正月の下駄。私は昔から下駄が好きだ。高校の時、木造校舎の廊下を下駄でそっと歩いていたら「この横着者め!」と通称タコどんに怒鳴られた。先生の顔を見ると「下履きで歩く廊下なのになぜですか?」とはとても言えなかった。大学時代の写真を見てもほとんど下駄姿である。
 中学教師としてへき地に赴任すると下宿から学校まで下駄で通勤した。田園地帯をカランコロンと歩いていたら「ゲゲゲの鬼太郎」と言われたものだ。
 今、雨の日でも下駄がいい。
  出水市 中島征士(65) 2010/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載


歩いて帰る

2010-05-21 17:48:59 | はがき随筆
 バスの到着まで相当待たねばならない。加治木から歩いて帰ることにする。挑戦だ。
 最近、右ひざが痛かったりするので少し心配だったが、歩き出すと調子がいい。お天気もよく坂道をぐいぐいと登る。空港線の長い登り坂なのに息もきれない。昔の人は遥か遠くまで大地を踏みしめて行き来し、時間もゆったりと流れていたのだろうなどと思いながら歩く。
 途中、山藤、アザミの花を愛でつつ歩く。滝も見られた。土手に突き出た小さん竹を今晩のみそ汁にと少し頂く。いい遠足となったが、交通量も多く危なっかしい所もあった。
  霧島市 秋峯いくよ(69)2010/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載